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12月になると聴きたくなるクリスマスアルバムが何枚かある。そのうちの一つが、イギリスの音楽雑誌『Mojo』の付録として出された『Mojo Blue Christmas』、2005年発表のオムニバスだ。ジャズやモータウンの古典的音源から、最新の楽曲まで取り混ぜて、全15曲、とても充実した内容だった。パリのメディアテークで見つけてコピーした音源が、今でも手元に残っている。
このスパンバウアーは連続殺人犯で常習的レイプ犯だった。すでに数十年を監獄で過ごし、出所したばかりだったが、即座に強盗と強姦と殺人に手を染めた。まさにnatural born criminalとしか言いようのない男である。最終的に懲役403年という途方もない判決を下されるが、2002年に61歳で病死した。
そんな数あるクリスマスソングのなかでも、バンドエイドの"Do They Know It's Christmas?" (1984)は、やはり印象深い一曲である。エチオピア飢饉の救済を目的としたチャリティー・レコードで、植民地の歴史に関してイギリス人が抱える後ろめたさに訴えた、多分に政治的な歌だった(「僕らが暖炉の前でプレゼントの包みを開けて喜んでいるとき、飢えに苦しむ彼らは今日がクリスマスだということを知っているだろうか」)。これを真似してアメリカで作られた"We Are The World"の無責任な博愛讃歌と較べると、さすがに懐が深い。一昨年、ボノの提唱でリメイク盤がリリースされたが、当時のような反響は得られなかった。
2000年の冬、フランスでもエイズ撲滅キャンペーンの一環として、"Noël Ensemble"という曲が発表された。ジョニー・アリデイを筆頭に、フランスの人気歌手が多数参加するあたり、いかにも"Do They Know It's Christmas?"を模したようだが、ラジオで聞いて思わずふきだしてしまった。というのも、R&B風のバラードに、フランス語がまったく合っていなかったからだ。どうも、フランス語という言語は、ゴスペル風に歌い上げるには不向きだ。これは、アメリカ音楽の模倣の無惨な結果である。もちろん、それは日本のポップスにも多分にあてはまることで、笑ってばかりはいられないのだが。(こう書きながら、僕は大澤誉志幸がかつてプロデュースしたクリスマスアルバム”Dance To Christmas”(1988)を思い出している。)
単なるそりレースの応援歌だった”Jingle Bells”が、なぜかクリスマスソングの定番になってしまうようなこともあるが、クリスマスキャロルとは、そもそも教会で歌うためのものである。教会には家族で出かける。だから、クリスマスキャロルとは家族の歌でもある。独特の不協和音コーラスで知られるグルジアでは、逆にクリスマスイブの夜に男だけの合唱隊が村の家々を回り、軒先で神の祝福を祈るalilo(hallelujahの転訛)を歌う伝統がある。村人はお礼に合唱隊にプレゼントを渡す習わしだそうだ。なんだかハロウィンの"Trick or treat"と、江戸時代の新年の「鳥追い」が混ざったみたいで、面白い。
家に帰ることができず、遠い家を思い浮かべながら歌ったクリスマスソングが、ビング・クロスビーの『ホワイト・クリスマス』だ。冒頭の歌詞に注意しよう。”I’m dreaming of a white Christmas/ Just like the ones I used to know.” じつは、歌い手は戦場にいて、雪降る故郷を思い浮かべているのである。ミュージカル映画『ホワイト・クリスマス』は、戦場の慰安演奏会から始まる。クロスビー扮する歌手がこの曲を歌い出すと、みんなが南国の太陽の下(ということは日本軍との戦闘に駆り出された兵士たちだ)、しんみりする。映画の後半は、退役軍人の失業問題を扱っている。クリスマスは、子供には夢にあふれているが、大人には、社会の矛盾がひしひしと感じられる季節だ。このことは、アメリカでは毎年この時期になるとテレビ放映されるクリスマスの古典的名作『素晴らしき哉、人生』(It’s A Wonderful Life)を見ても思うことだ。フランク・キャプラ監督によるこの白黒映画は、大恐慌時代のヒューマニズムの傑作として知られている。冒頭の、雪降る町を俯瞰で撮った映像に、子供たちが父の身を案じてお祈りする声が重なる場面が、もう胸が痛むほど美しい。
Tino Rossiの”Petit Papa Noël”も、もともとは1946年の映画『運命』の挿入歌だった。以後、この曲は今日に至るまで、フランスで育った子供なら誰でも知っている定番中の定番となった。歌詞は、子供がサンタクロースにプレゼントをお願いする無邪気な内容にすぎない。おそらく各国に、こうした知られざるクリスマスの定番があるのだろう。ちょうど日本では、好き嫌いは別にして、山下達郎の「クリスマス・イブ」を知らない人はいないように。だが、「クリスマス・イブ」の間奏の一人アカペラがパッヘルベルの「カノン」であることに気づいていない人も、意外に多いかもしれない。教会音楽を育んだバロック期の名作をさりげなく滑り込ませることで、山下達郎は自分がクリスマスソングを作ることの正当化を図った。つまり、彼のコーラスのルーツが黒人ドゥーワップにあり、そのルーツがゴスペルであることを、山下はあの間奏で見事に要約してみせたのである。もし「クリスマス・イブ」に”Noël Ensemble”に感じたような滑稽さがないとすれば、それはそうしたクリスマスをめぐるルーツ継承と関係があるのかもしれない。
ジェシー・ジェイムズ JESSIE JAMES はフロンティアに対するノスタルジーを呼び起こさせるアメリカン・ヒーローのひとりである。南北戦争のあと、兄弟や仲間たちと強盗団を結成し、銀行や列車を襲い殺人を繰り返したが、ミズーリ州政府がジェシーを10,000ドルの賞金首とすると、それを狙って裏切った仲間に射殺された。ジェシーはバッド・ボーイどころか、極悪非道の重罪人にもかかわらず、その悲劇的な最後は人々の同情を集めた。強者に立ち向かうロビン・フッドのイメージに重ね合わせられたり(強盗のターゲットを金持ちの実業家らに限定していた)、ビリー・ザ・キッドのようなアウトローとして英雄視されたり、アメリカの伝説のひとつとなった。ジェシー・ジェイズムの伝説は何本もの映画になっていて、去年日本で、ジェシー・ジェイムズが暗殺されるまでを描いたブラッド・ピット主演・プロデュースの映画「ジェシー・ジェームズの暗殺」が公開されている。
そのほか、個人的に好きな曲は WE LET THE STARS GO や THE ICE MAIDEN など。とにかく一瞬のハーモニーの切れが息を飲むほど素晴らしい。
先週、ビートルズ特集で盛り上がったが、ジョン・レノンに 「ジェラス・ガイ Jealous Guy 」という曲がある。ジョンのヨーコに対する激しい嫉妬の感情をテーマにした歌である。下の動画で曲が始まる前にジョン・レノンの貴重なインタビュー映像があり、その発言は歌の内容と呼応している。
Intellectually I thought it right that owning a person is rubbish. But I love Yoko, I want to possess her completely. I don't want to stifle her. You know, that's the danger (is ) you want to possess them to death. 「頭では人を所有するなんて馬鹿げていると思ってた。だけど(今は)ヨーコを愛してて、彼女を完全に自分のものにしたいと思ってる。もちろん窒息させたくはないけどね。そこが危険なところなんだ。死ぬまで人を自分のものにしたいということの」(動画の28秒あたりから transcribed & translated by 黒カナリア)
ところで、Jealous Guy はいろんなアーティストによってカバーされているが、その代表的なものは、ロキシー・ミュージック Roxy Music によるカバー。81年にジョン・レノンの追悼のためにロキシー・ミュージックがこの曲をカバーし、全英1位になった。しかし、今聴くには恥ずかしいくらいにグラマラス。PVではブライアン・フェリーが水色のスーツにピンクのネクタイで、ポーズを決めて歌っている。ブライアン、そんなに見つめないで(笑)。
斉藤和義が Jealous Guy のカバーをしている。友だちが「これいいよ」とメールに動画をはりつけてくれたのだが、最初カバーと気がつかなかった。歌詞の方は英語でも直訳でもなく、斉藤和義が日本語でアレンジしている。ギター一本で切なくも淡々と歌われる具体的な場面は、その向こうにストリートな闇と空虚感を漂わせている。サイケに響く12弦ギターは感情のゆらめきを映し出すようで、コードの変化がとてもキレイに聞こえる。斉藤和義は相手を傷つける手前の「届かなさ」を歌っているように聞こえる。「嫉妬していることに気がついてよ」って。もちろん、ジョン&ヨーコ的な、あるいは夫婦や恋人どうしというシチュエーションとしても読める。聴き手がそれぞれ歌詞を解釈しながら、自分にとっての一貫性のあるストーリーを組み立てるわけだが、シチュエーションの違いがあっても、感情の本質を的確に掬い取っているのが優れた歌と言えるのだろう。
ところで、ポール・ウェラー Paul Weller はバンドの絶頂期にあったパンクバンド、ジャム The Jam を解散し、ミック・タルボット Mick Talbot らとスタイル・カウンシルを結成した。「マイ・エヴァ・チェンジング・ムーズ My Ever Changing Moods 」がヒットしたのは1984年のことだ。
スタイル・カウンシルは80年代のイギリスの顔みたいなグループだったが、当時のイギリスは製造業が衰退し、景気の良い時期ではなかった(ブレア政権下の2000年あたりから金融産業で復活するも、それがサブプライムで裏目に出てデフォルトに陥るとも言われていた)。一方日本はバブル突入前夜。まさに日本は「シャウト・トゥ・ザ・トップ(Shout to the Top)」(この曲はTVのテーマ曲やCMによく使われていた)という状態にあり、スタイル・カウンシルは本国イギリスよりも日本で高い人気を誇ることになった。時代の気分にぴったりはまっていたのだろう。一方、当時の友だちの大半は決まりきったようにユーミンかサザンのファンだった(ユーミンとサザンはミリオンセラーアーティストとして離陸を開始した頃だ)。
ベストアルバム:BEATLES FOR SALE 芸術的な完成度から言えば、『ラバーソウル』、『サージェント・ペパーズ』、『アビーロード』などが上位に来るものでしょう。これらの素晴らしさはもはやだれもが認めるものです。しかし、For Saleというこのアルバムも渋い出来の作品ではないでしょうか。チャック・ベリーやバディ・ホリーなど、収録曲の半分近くが他人の曲です。しかしこれらは、彼らがメジャーデビュー前にキャヴァーン・クラブで歌っていた曲目で、ビートルズ以前のビートルズを聴くことが出来るアルバムと言えます。キャヴァーン・クラブ時代のライヴ録音ではかなり下手(歌も演奏も)だった彼らが、メジャーデビューを果たした後には往年の名曲を完全に自家薬籠中のものにしている様がこのアルバムでは窺えます。ビートルズが初期から中期へと変貌していく最中に、過去と決別する瞬間を捉えた奇跡的なアルバムのような気がするのです。
ベストソング:Something 本当はA day in the lifeと言いたいところなのですが、既に選ばれてしまっているのでこれを選びました。ジョンとポールの影に隠れて才能を発揮できなかったジョージが、While my guitar gently weepsを経て、ついに自分自身の世界を確立した曲。その壮大な構成は一曲の交響曲にも匹敵するもので、ロック音楽がついにクラシック音楽に勝るとも劣らぬ世界を築くことができることを証明したと言えます。その意味ではYesterdayやLet It Be以上の完成度を持つ曲ではないでしょうか。しかし、この曲によってジョージがジョンやポールと並ぶ才能を開花させた結果、ビートルズはもはやこれまでの体制を維持できなくなり、解散することを余儀なくされたとも言えるのです。
Manchot Aubergine 編 ベストアルバム:REVOLVER レノンのキャリアのピークといえる名盤。RUBBER SOULもSGT.PEPPER'SもABBEY ROADのB面もいいけれども、粒ぞろいという意味では、本作が一番。レノンの代表曲と言っていい"She Said, She Said"、"Tomorrow Never Knows"の2曲を筆頭に怒濤のような名曲の数々。マッカートニーの曲では"For No One" "Here,There and Everywhere" "Got to Get You into My Life"が出色。"Eleanor Rigby"もいい(この曲は一般に「マッカートニーもの」と認識されているが、実はことのほかレノンの貢献が大きい)。
ベストソング:No Reply 意表を突くコード進行、ハーモニーのすばらしさ、ほろ苦さをたたえたストーリー性のある(しかも、かわいい)歌詞。レノンの名曲。マッカートニーの曲で一番好きなのは"Lovely Rita"。曲全体が日光を浴びた雪の結晶のようにキラキラきらめいている、超一流のポップソング。ついでにいうと、カラオケでの私の愛唱曲は"She's a Woman"と"Oh! Darling"。
bird dog 編 ベストアルバム:RUBBER SOUL ビートルズは、子供の頃から全アルバムを聴き続けてきました。なので、どれか1枚というのは難しいのですが、なじみの深さからRubber Soulを選びました。
ポールのベースがDrive My CarやThink For Yourselfで暴れまくり、ジョージがNorwegian Woodでシタールを初めて披露し、ジョンがGirlでため息を歌の一部にしてみせ、リンゴがWaitで激しいタム連打と焦燥感あふれるタンバリンを聴かせる、という風に、それぞれのミュージシャンシップが遺憾なく発揮されているのもいいですし、Nowhere ManやIn My Lifeでジョンが一級の作詞家であることを証明したのも、このアルバムの特筆すべきところでしょう。コード進行やベースラインなど、タイトル通り、全体にソウルミュージックからの影響が色濃い作品だと思います。
またThe Wordの見事な三声ハーモニーや、Girlの「ティティティティ」、You Won’t See Meの「ウーラッララ」というユニークなコーラスなど、ビートルズのトレードマークであるコーラスアレンジも冴えています。(ただし、「ウーラッララ」に関しては、同じパターンをNowhere Manでも使い、しかも曲順が続いているのは、アイデアの使い回しを極力避けたビートルズらしからぬ失態だ、とイアン・マクドナルドが著書『ビートルズと60年代』のなかで批判しています。そう言われてみれば確かにそうで、おそらくレコーディング締切に追われたためでしょうが、アルバムの完成度という点でやや残念な部分です。)
ロックンロールバンドとしてのビートルズ、というところにこだわれば、案外You’re Going To Lose That Girlあたりがベストトラックかもしれません。なんといっても、出だしからジョンのヴォーカルが冴えていて、お得意のファルセットもきれいに出ています。ポールとジョージが一つのマイクでコーラスを録音しているのも(少なくとも映画『ヘルプ!』ではそうなっています)、ライブのビートルズを彷彿とさせます。ジョージのギターソロも、この時期にしてはかなり良い出来と言えるでしょう。リンゴのドラムスは、曲への入りが最高にかっこいい。ボンゴもうまく絡んでいます。アレンジはシンプルですが、これ以上どこを工夫して欲しい、ということのない、4人だけで作り上げた最高のロックンロールだと思います。
cyberbloom 編 ベストアルバム:MAGICAL MYSTERY TOUR 私がロックを聴き始めたのはハードロック(特にツェッペリン)からで、その後すぐにプログレにはまった。そのせいかビートルズは甘ったるい安易なロックだという先入観が抜けなくて、「クリムゾン・キングの宮殿」はビートルズがやろうとしていたことだ、というような批評を読んで、そんなわけないやろって頑固に思ってた。
ベストソング:A Day in the Life この前、あるアーティストの「ジェラス・ガイ」のカバーを聴いたとき、ジョンの曲だとすぐに思い出せずに、何だかビートルズの A Day in the Life と似た曲だなあと思った。どちらもジョンのボーカルとピアノが特徴的だが(A Day の中間部はポールが歌っている)、もしかしてコードパターン(GとかEm)が似てる?A Day in the Life は60年代サイケの金字塔、「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の最後をしめくくる曲である。ビートルズの中でいちばん好きという人も意外に多い(坂本龍一もこれを挙げていた)。
世界を傍観するような淡々とした歌もいいが、やはりあのコーラスの部分にグッとくる。もっともこのアルバムは曲の切れの目のない史上初のコンセプトアルバムで、これをひとつの曲として捕らえるのは間違っているのかもしれない。実際、テーマ曲のリプライズ(これもカッコいい!)のあとに続き、めくるめくホットなインナートリップを最後にチルアウトするようなところも、この曲の魅力を高めているのだろう。この曲の最終コードはある音楽評論家によると「音楽の歴史の中でも最も決定的な最終コード」ということらしいが、曲の途中でドロドロしたオーケストラの音が入るのも印象的だ。表向きのコンセプトは架空のブラス・バンドのショーという形式になっているが、裏のテーマは Lucy in the Sky with Diamonds だ。ノリピーとオシオ君のおかげで風当たりの強いテーマになってしまったので、深入りはやめておこう(笑)。しかしながら、アニメーション映画『イエロー・サブマリン』での「ルーシー」とアニメーションの組み合わせは怖いくらいの映像&音響ドラッグ。脳みそがとろけそうになる。
フレンチ・ブログとしては、bird dog さんが挙げている「ラバー・ソウル」を推奨せねばなるまい。唯一フランス語で歌われている「ミシェル」、現在フランス人監督によって映画化されている村上春樹の小説のタイトルになった「ノルウェイの森」が収録されている。
明日は何十年に一度の extra-ordinary な日なわけだが(本エントリーは main blog で09年7月23日に掲載)、そんな日には extra-ordinary な音楽がふさわしい。Total eclipse と言えば、この人物を真っ先に思い出す。クラウス・ノミ Klaus Nomi である。パリでの皆既日食の日も一日中この曲をかけていた。
もう1曲、Eclipseというタイトルの忘れてはならない曲がある。ピンク・フロイド Pink Floyd の名盤 The dark side of the moon (邦題は『狂気』)をしめくくる最後の曲である。「太陽のもとにあるすべてのものは調和の中にある。しかし、太陽は月によって食われてしまう」という一節によってドラマティックなコンセプトアルバムが幕を閉じる。
youtube でこの曲をバックに使った今回の皆既日食のスライドを見つけた。圧巻である。
All that you touch, all that you see, all that you taste, all you feel, all that you love, all that you hate, all you distrust, all you save, all that you give, all that you deal, all that you buy, beg, borrow, or steal, all you create, all you destroy, all that you do, all that you say, all that you eat, everyone you meet, all that you slight, everyone you fight, all that is now, all that is gone, all that's to come and everything under the sun is in tune, but the sun is eclipsed by the moon
(There is no dark side of the moon, really. Matter of fact it's all dark)
次におすすめしたいのは、ガラッと変わってアメリカはコロラド出身のヒップホップ・グループ、ザ・プロカッションズ The Procussions の2004年のアルバム「アップ・オール・ナイト Up All Night」。ラップというと、「ヨー、メーン!」というのをすぐイメージしてしまいますが、このアルバムは、即興的なジャズの生演奏に合わせて語る、というタイプのもので、非常に渋い音です(何と演奏も自分たちでしており、一夜のセッションをそのまま録音したようです)。ジャズの作品としてもじゅうぶん通用しそうな、シンプルでタイトな音もすばらしく、プライベートな夜のパーティーなどで流したら似合うであろう、クールでシックな作品となっています。
最後にこの時期一人でしみじみしたいときに聴きたくなるのがベン・ワット Ben Watt の1983年作「ノース・マリン・ドライヴ North Marine Drive 」です。彼は夫婦でのユニット、エヴリシング・バット・ザ・ガール Everything But The Girl での活動のほうが有名ですが、ソロ・アーティストとして(おそらく)独身時代に発表したこの作品は、アコースティック・サウンドの名盤です。奥方トレイシー・ソーンの生命力あふれる低音とは対照的な、頼りなげで繊細な彼の声とアコースティック・ギターのみで成り立つシンプルな音は、なぜか寒い季節になると懐かしくなってよく聴いています。冬枯れの景色に似合う物悲しい音なのだけれど、一方で 温かみも感じられるのは、やはりベンの声のもつ優しさゆえなのでしょうか。昔、このアルバムタイトルと同じ名前のファッション・ブランドがあったのだけど、たぶんデザイナーの人が彼のファンだったんだろうな・・
今回紹介する Some Velvet Morning は2002年にプライマル・スクリームがケイト・モスと組んだコラボ曲。この曲が入っているアルバム「Evil Heat」を含め、最近のプライマルはあまり食指が動かないのだが、このビデオクリップは衝撃だった。薬物スキャンダルでモード界を干されそうになったこともあるバッド・ガールなケイト・モスのヴィジュアルがたまらなく良い。モスは moss であって moth ではないのだが、彼女は蝶よりも、毒のあるサイケな蛾のイメージ。こういう蛾ならば毒まで食らってみたいと思わせる。毒々しくも美しい映像ドラッグのようなヴィジュアルを身にまとえるのは彼女しかいない。
Some Velvet Morning という曲のタイトルがすでに想像力をかき立てるが、この曲、実は1967年に書かれたサイケポップで、最初にリー・ヘーゼルウッド&ナンシー・シナトラ Lee Hazlewood & Nancy Sinatra によって歌われた(ナンシーはもちろんフランク・シナトラの愛娘)男女の掛け合いによるデュエット曲で、彼らのヒットのあとも、男女のデュオによってカバーされてきた。選曲眼とカバーのセンスもプライマルならではだ。
これまで数多く発売された彼のアルバムのなかで選ぶとすれば1982年発売の「ナッシング・キャン・ストップ・アス」でしょうか。かつて Cyber French Café 時代に書いたミュージック・バトンのエントリーで、「思い入れのある曲」として選んだ At Last I Am Free はこのアルバムに収録されています。残念ながら国内盤は廃盤のようですが、輸入盤はネットショップなどで入手できます。試聴はこちらで可能です(お姿も拝めます)。彼はジャズの名曲をカヴァーすることも多く、このアルバムでも Strange Fruit (奇妙な果実)を歌っていて、ビリー・ホリデイのそれとはまた異なった不思議なひとときを味わわせてくれます。
ところで私の秋の定番はこれ。テイ・トウワ選曲のコンピレーション、Motivation-songs for make up 。彼が提唱するR&B、ハウスを基軸にした独自のジャンル「アッパー癒し系」が集められている。海外のインディー、メジャー問わない選曲で、女性ヴォーカルがふんだんにフィーチャーされている。アッパーと癒しって語彙矛盾な気がするが、癒しとはつまり、自分のために聴くってことなんでしょう。つまりは、踊らない、ひとりで聴くダンスミュージック。
昔よく聴いたのが、日本の誇る人気DJのひとり、EMMA のノンストップ HOUSE シリーズ。今や13枚目を数えるらしいが、特に2枚目の「EMMA HOUSE 2」を愛聴していた。ちょうど真ん中あたりの PLANET OF DRUMS→YOUR LOVE→THE PIANO へと進行するロングミックスが絶品。トライバルなドラムの執拗な反復の果てに、お告げのようなサビのメロディとともに臨界点がやってくる。毛穴が引き締まって、ウブ毛が感電したように直立する。そしてドーパミンの大量放出。それらは光の粒子になって弾け、飛び散る。
最近、坂本龍一がAlva Notoとコラボレートした「Revep」をよく聴いている。坂本の作品を熱心に聴いてきたわけではないが、このアルバムはムチャクチャいい。いわゆる音響系の部類に入るのだろうか。音の構成やメロディーを解体して、「音の色、音圧、響きそのものを聴かせる」系だ。最初聴いたとき、音飛びしているのかと思った(笑)。二人はファイル交換を繰り返し、坂本龍一のピアノにAlva Noto(Carsten Nicolai)が電子音を加えるという手順で、共同構築されていったようだ。CD評を見ると、以前「Musique pour le cafe」で紹介したブライアン・イーノとハロルド・バッドの共作「Ambient2」をみんな引き合いに出している。こんな美しい作品は滅多にないと訴える意見も多いが、マッサージ的な意味で気持ちの良い音でもある。電子音のパルスが脳をペシペシ叩く感じだ。また坂本のリリカルなピアノが、間引きされ、解体されている分だけ、ストイックに堪能できる。「戦メリ」のテーマ曲の解体バージョンも入っている。ミニマルなデザインのジャケットや記号っぽい曲のタイトルも涼しげだ。Alva Notoという人はよく知らないのだが、ソロ作品はドゥルーズ&ガタリの著作にちなんだ Mille Plateaux レーベルから出ている。
5月29日(木)のジャジーなカフェ的音楽紹介(Musique pour le cafe 木魚編)からバトンを受け、私もコーヒーと音楽について語ってみたい。とはいえ、今どきのカフェにぴたりとはまるボサノヴァやソフトロック中心のレコード紹介は、ちまたに星の数ほどあるので、今回はロックを3枚。果たしてここに紹介するレコードが「コーヒーを飲みながら」という環境にしっくりくるかと問われれば疑問だが、リラックスした雰囲気でのレコーディング風景が何となく想像できる音楽ではないかと思う。アルバムの中のどれか1曲というより、アルバムを通して聞いてみたい。
78年に環境音楽の始祖、ブライアン・イーノが music for airports というアルバムを出した。実際の空港のために書かれた曲ではなく、コンセプトとしての空港。しかし、ピッツバーグ空港がこの曲を流し、客から苦情が殺到したらしい。割と頻繁に外国に行ってたときに、トランジットの待ち時間によく聴いていた。だだっ広い茫洋とした空間を見上げる空港のカフェとかによく合う。walkman で聴くのはいいが、空港が流していたとすれば確かに違和感を覚えるかもしれない。人と共有する音楽ではない。美術館と環境音楽の親和性が高いのは、美術館は基本的に孤独な場所だから。私にとって、カフェもまた孤独な場所だ。
□EDEN/EVERYTHING BUT THE GIRL EBTGのファースト。80年代の定番のひとつ。ジャジーに、アコースティックに、軽やかに駆け抜ける気持ちのよいナンバーの数々。スローに落とし、しっとり歌い上げる変速技も心憎いほど。パンク一辺倒だった私に、大人を感じさせてくれた最初の音楽。これなんかは実際のお店でかかってて欲しい。トレーシー・ソーンとベン・ワットのソロ、A DISTANT SHORE と NORTH MARINE DRIVE もそれぞれお奨め。
□SOULSHINE/DJ CAM フランス発。最高にクールなクラブ系の音。踊れるけど、あえて踊らずに、聴き流したい。ボーカル&ラップものもいいが、間奏曲的に入る短いつなぎの曲も心憎い。DJの面目躍如。ヒップホップは本来泥臭い音楽だが、ここまでヒップホップを洗練させていいのかって思えるくらい。ヒップホップをジャズで徹底的に磨き上げたらこうなる。オシャレだけど、遊び心もふんだんに盛り込まれている。これは夏の夜、そして地下室のイメージ。そういえば1曲目のタイトルは SUMMER IN PARIS だった。昼間の熱がすっかり冷めた石造りのヨーロッパの街の地下から聞こえて来そう。1枚目のUNDERGROUND VIBES のビブラフォンの音も心地よかった。夏の夜の汗ばんだ闇から聞こえてくる、そして闇を奥深くまで振るわせるビブラフォン。
□AMBIENT 2/BRIAN ENO &HAROLD BUDD ブライアン・イーノのアンビエントシリーズ第2弾。副題は The Plateau Of Mirror (鏡面界)。イーノはピアノの音を、一音一音、宝石のように響かせる。その音響処理が見事。音響風景としては、ピアノの音がゆっくりと降り積もるような雪のイメージ。しかし、この冷たい音の粒は、緑が萌え揺らぐ今の季節にもはまる。真っ白な壁の一部が切り取られて、鮮やかな緑がのぞく。そういう風景がピアノの音によって、一瞬、鮮やかさを増したり、波紋のように揺らいだり。音そのものがこぼれ落ちる木漏れ日の光の粒になったり。半覚半睡の午後。
□POTENTIAL MEETING / SILENT POETS SILENT POETS にはアンビエント的な試みもあり、BEAMS が手がけたプロジェクト hotel id+ (「第一ホテル東京」の全室をプロデュース)に、ホテルの客室のための音楽を提供している。題して、SOUND TRACK FOR HOTEL+ID。これはカフェにも合うだろう。初期の POTENTIAL MEETING もいい。最近の洗練された音よりも、このアルバムをいちばんよく聴いているかもしれない。素人臭さと手作り感が残る、とてもシンプルな音。そこが逆にしっくりくる。ジャケットワークも秀逸。
■定年退職前の厳しくも優しいロペス先生のもとで、勉強したり遊んだりする13人の子供たちの姿を追った、心温まるドキュメンタリー映画。Etre et Avoir―タイトルにもなっているこの二つの動詞から見ても、フランス人にとってのフランス語の始まりも、日本人がフランス語を始めるときと全く同じなんだな、と分かります。フランス語をやっている人なら、まるで自分も小学生になったような気分になり、子供たちと一緒に「うぃぃ〜!」「ぼんじゅ〜る、むっしゅ〜」と言ってしまいそう。