2006年05月02日

まんがバトン cyberbloom編

「特に心に残る4冊」

☆『リバーズ・エッジ』(岡崎京子)
最近は「癒し」とか称して、ゆるくて、まったりしたマンガが多いが、この作品が喚起する嫌悪感や救いようのない殺伐とした感情はそれとは全く逆の方向性を持っている。こういうのをかっこいいと思う感性は今の若い人にはないのかな。それとも今はこのマンガ以上にシャレになっていない状況なのか。「この街は悪疫のときにあって僕らの短い永遠を知っていた…平坦な戦場で僕らが生き延びること」とタイムリーに引用されていたウイリアム・ギブソンの一節にも心打たれる。

リバーズ・エッジ東京座平坦な戦場でぼくらが生き延びること―岡崎京子論

☆『東京ガールズブラボー』(岡崎京子)
村上龍の『69(シクスティナイン)』に匹敵する80年代の青春まんが。私なんかは、まさにこの作品に登場する「のび太」君で、思い込みの激しい、観念先行の高校時代を思い出す。東京に憧れる情報過多の田舎者でもあった。『宝島』的トンガリ文化の必須アイテムのオンパレード。

☆『東京座』(やまだないと)
最近はいろんなところでイラストを見かける、やまだないと。フレンチロリータ路線。『フレンチドレッシング』なんかはそのマンマ。ゲーンズブールみたいなエロエロのオッサンがたくさん出てくる。『東京座』はサニーディ・サービスの『東京』へのオマージュなんでしょうか。ジャケが似ていて、曽我部恵一らしき人物も登場。このアルバムは今の季節にいいっすよ。

☆『ドラゴンヘッド』(望月峰太郎)
この作品の2巻か3巻が出たくらいで阪神淡路大震災に遭遇。数時間だが、瓦礫の下に埋もれていた身としてはリアリティありすぎ。あのときの体験に通じる、言いようのない極限の恐怖を見事に表現している。裂けて、剥き出しになった自然というか、宇宙の暗黒に飲み込まれたというか、そんなインパクト。自然の一部である自分の中の破壊衝動も呼び覚まされるというか。作品の構成はともかくとして、望月の想像力は凄い。

■次点をいくつか。exquiseさんは『日出処の天子』を挙げてましたが、山岸涼子といえば『わたしの人形は良い人形』。これはマジで怖い。怖いと言えば、望月峰太郎の『座敷女』も怖い。初めて親しんだマンガは鴨川つばめの『マカロニほうれん荘』だった。松本零士のアニメにはまった時期もあり、彼の『聖凡人伝』も味わいのあるマンガだった。岡崎京子を2冊取り上げたが、椹木野衣が岡崎論『平坦な戦場でぼくらが生き延びること』を書いている。



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2006年04月17日

『ルパン三世』

よりぬきパンチ・ザ・モンキー イン・ザ・ミックス人気アニメ「ルパン3世」がテレビで放映開始されたのは1971年のこと。モーリス・ルブランの有名な探偵小説シリーズの主人公、アルセーヌ・ルパンの孫という設定だった。ルパンはLupinと綴り、「リュパン」がより正確な読み方。

80年代以降、フランスでは日本のアニメが爆発的に流行している。元祖ルパンの国なら「ルパン3世」もさぞかし人気があるのだろうと思いきや、ヨーロッパではイタリアで人気が高いようだ(1)。イタリア人の友人によると、作者のモンキー・パンチ(現在、大手前大学メディア芸術学科教授)が古いイタリア映画好きで、「スタイリッシュでダンディな泥棒」というキャラはそこから来ている(2)。それがアニメを通して逆輸入された。本来はイタリア的なテーマなんだと彼は誇らしげに言っていた。

先日、ジャズが好きだという学生と話していて、「君の世代がジャズに興味を持つきっかけって何?」と聞いたら、彼は考え込んでしまって、ようやく出てきたのは「ルパン3世かな」という結論だった。確かに大野雄二のサントラは印象的だ。「ルパン3世」のトリビュートアルバム「パンチ・ザ・モンキー イン・ザ・ミックス」もすでに3枚出ていて、東京スカパラダイスオーケストラや元ピチカート・ファイブの小西康陽らのリミックス・ヴァージョンが話題になっていた。

ジャン=リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」というヌベル・ヴァーグ期の有名なフランス映画があるが、あれも犯罪に手を染めるスタイリッシュな若者とジャズの組み合わせだった。シーンにカッコよく色を添えると思えば、唐突にシーンを切り裂くジャズのフレーズ。主人公のミシェルは、犯罪の企みの合間に、ジーン・セバーグ扮するヤンキー娘、パトリシア(不二子ちゃんとは全然タイプが違うけど)をひたすら口説いている。ミシェルの服装もいちおう、「ダークカラーの細身のスーツに細いネクタイ」というジャズメン・スタイルの定番に沿っているのかな。考えてみれば、「勝手にしやがれ」もイタリア礼賛の映画で、あちこちでイタリアへの憧れが口にされている。

ジェノーバ、ミラーノ!チネチッタ!一緒にローマへ行こう、パトリシア!

□注記:exquiseさんとbird dogさんから補足をいただきました。
1)ルパン三世は、フランスでは著作権の問題でルパンの名前が Edgar に変えられ、ただの「有名な泥棒」という設定になってしまったらしいです。全然イメージが変わってしまいますね。カラーシャツに白や黄色のネクタイとか、確かにルパンの服の着こなし方はイタリアっぽいかも。乗ってる車もイタリア車(フィアット・チンクチェント)だし、今回のエントリーを読んでなるほど〜と思いました。お洒落なアニメだったのだと再認識です。(by exquise)

黄金の七人2)確認したことはありませんが、『ルパン3世』のモデルはイタリアの泥棒映画『黄金の七人』ではないのでしょうか。チームプレイで豪快な盗みを実現するところや、銀行の下にトンネルを掘ってベルトコンベアーで金塊を運ぶ話、『ルパン3世』にもあったような気がします。で、『黄金の七人』の音楽といえば、フリッパーズ・ギターが「恋とマシンガン」で引用したダバダ・スキャットですから、大野雄二の念頭にあったのは、アルマンド・トロバヨーリかもしれません。1960年代のイタリア映画は、B級でも音楽だけはやけに洗練されたものが多いですね。(by bird dog)

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