管理人:cyberbloom
★FRENCH BLOOM NET は「フランス」の情報化のプロジェクトです。具体的には、フランス語を学ぶ人やフランスに関心のある人のために、フランス関連情報を記事にして、カテゴリー別に蓄積しています。週末には「週刊フランス情報」と題して1週間のフランス関連ニュースをピックアップしています。この他にもサイトを運営しています。 □精鋭ライターによる投稿サイト:FRENCH BLOOM NET □仏検&フランス語学習サイト:FRENCH BLOOM CAFE □音楽専用サイト:FRENCH BLOOM MUSIC □インスタントストア:FRENCH BLOOM STORE ★当方、大学でフランス語を教えているメンバーを中心としたグループです。詳細やお問い合わせに関しては「ABOUT & PROFILE」をご覧ください。
近代フランス音楽を代表する作曲家クロード・ドビュッシー Claude Debussy は1862年に誕生し、1918年に逝去する。その才能は「あらゆる時代のあらゆる伝統から隔絶するほど独創的」(ブーレーズ)とまで言われ、その後の20世紀音楽の原型を形作ったと言えるほど他に先んじるものだった。2012年はそのドビュッシーの生誕150年目に当たる。世界中でドビュッシーを振り返る試みが行われているが、ここでは日本で行われるいくつかの催しを紹介しよう。
フランスのアンジュ(Ange 天使の意)といっても知らない人がほとんどだろう。70年代にデビューし、これまで600万枚のアルバムを売り、6枚のゴールドディスクを取り、3000のコンサートをこなしてきたバンドである。そのアンジュが今年バンド結成40周年を迎え、その節目の年に奇しくも40枚目のアルバムが発売された。その記念すべきアルバムのライナーノーツ=解説を書く光栄に預からせていただいた(DISK UNION さんとのコラボで、上記の「ライナー」を FRENCH BLOOM NET 名義で書きました)。フランスのロックの情報がほとんどない時代、奇特なレコード会社が3枚のアルバムを出していたが、そのライナーノーツだけがアンジュの輪郭をなぞる唯一の手がかりだった。時代は移り、今やアンジュのアルバムはアマゾンで買えるし、昔の貴重なライブ映像もyoutubeで見れるし、2ちゃんねるではアンジュのスレッドまで立っている。
1970年に始まった音楽の冒険の生存者は68年=団塊世代のクリスチャン・デカンだけだ。90年代半ばから彼の息子のトリスタン(キーボード)が加わり、親子2世代バンドになっている。40周年を祝うためにアンジュは「40回目の雄たけび―Ange: la 40ème rugissante」と銘打ったツアーを2009年11月から始めている。極めつけは1月31日にパリのオランピア劇場(日本で言うと武道館かな)で行われたライブで、アンジュの最初のコンサートからちょうど40年目の日にあたる。フランスでは相変わらず人気バンドのようで、チケットは10月に売り出されてすぐに完売し、追加のコンサートも予定されている。
新しいアルバムの中身だが、プログレ(Progressive Rock)というよりは、それをベースにしつつ、新しい音楽の要素を吸収した洗練されたロックになっている。そこが評価が分かれるところだろうが、アルバムは実に多彩な曲で構成されている。ビデオクリップ(↑)になっている2曲目の「Hors-la-loi 無法者」では、ハードなギターにのせて、革命家のチェ・ゲバラへの憧れを歌っている。頻繁に聞こえる Allez loups y a というリフレインは Alléluia (ハレルヤ)と音が重っていることに気がつくだろう。オーディションを模したPVだが、最後にタコ(poulpe)を投げつけられて身震いしている表情が笑える。
マッシブ・アタックを思わせるイントロで始まる@「蝶と凧 Des Papillon, Des Cerfs Volants」。タイトル通り、スペーシーな広がりと飛翔感を感じさせる。フランス語もメロディにきれいに乗っていて、思わず口ずさんでしまう曲。D「アウタルキーの旅 Voyage en Autarcie」では自給自足の国を夢見る。アウタルキーはフランス語で「オタルシー」と発音され、自給自足の経済ブロックを指すが、詞の中では一種のユートピアのように歌われている。E「孤ならず Jamais Seul」では、「昔は孤独が好きで、人と話すことをバカげたことだと思っていた。しかし今は孤独ではない。自分の心のうちを打ち明ける相手がいる」、そういう成熟した大人の境地が素直に告白される。いずれも団塊オヤジのロマン炸裂といったところだろうか。
やはり目玉はアルバムのタイトル曲でもあるB「木は日曜日も働いている Le bois travaille même le dimanche」だろう。いかにもプログレ的な展開を見せる12分半の大作だ。超越的な存在が人間に語りかけるという形式はプログレではときどき試みられるパターンである。ここでは「私は風」と言っている存在が、Je pense, donc je souffle…(私は考える、ゆえに私は吹く)と言う。これを聞くと、ムーディ・ブールスの『夢幻』(On the threshold of a dream, 1969)の導入部なんかを思い出す。そこでもデカルトの Je pense, donc je suis.(=I think therefore I am.) が引用されているが、『夢幻』ではヒッピー・ムーブメントの文脈で自然破壊や機械化がテーマになっている。今はそれがエコロジーの文脈で再登場しているわけである。歌詞の前半は口頭弁論 Plaidoyer、後半は論告求刑 Réquisitoire となっていて、人間が法廷に立たされ、告発されるという設定なのだろう。最後に、「人間よ、おまえの種を救え。人間よ、おまえは去らなければならない。ここはもうお前の場所ではない」と宣告される。それを機に曲調が急転回する。
DISK UNION のプログレ担当のYさんによると、プログレに限らずCDを購入する世代が若年層に広がらず、CDの購入層は30代半ば〜50代が中心になっているようだ。youtube や iPod(ネット配信)で音楽を聴くデジタル・ネイティブにはプログレは馴染まないのだろうか。プログレはコンセプトアルバムであることが多いので、CD全体を通して聴かないと良さがわからないかもしれない。とはいえ、アンジュは貴重なフランスの文化遺産であることには間違いはないし、フランス語の勉強になるような良質なロックを見つけるのは意外に難しい。アンジュの70年代の名盤もぜひ聴いてみて(↓)。
この日のプログラムは、東京フィルハーモニー交響楽団(デイヴィッド・レヴィ指揮)との共演。歌なしのオーケストラ曲とプティボンの歌唱がほぼ交互に並ぶ構成である。前半はモーツァルトとハイドン。もちろん悪かろうはずはないが、お茶目なプティボンが好きなミーハーファンの私から見ると、少々正統派的におすまし気味という感じ。見どころはむしろ、圧倒的に後半だったように思う。バーバーとバクリでしんみりとさせておいて、バーンスタインの「着飾ってきらびやかに」(「キャンディード」)で大爆発! こういう、いろんな感情が高速度で切り替わっていくようなタイプの曲が、やはり彼女の魅力を一番引き立てるようだ。フロラン・パニー Florent Pagny のライブDVD(Baryton(2005))でのパフォーマンスをはじめて見たとき、この曲はまさに彼女のためにある!と強く感じたものだが、今回目の前でいっそうパワーアップした名演を見せられ、その感をさらに強くした。最後の曲はハロルド・アーレンの「虹の彼方に」。とてもよかったが、オーケストラの音がほんのちょっぴり大きすぎ、彼女の声がその中に埋もれ気味だったのが少々残念。アンコールの Everytime we say goodbye(コール・ポーター)は洒脱で自然体でいうことなし。プティボンの間口の広さを改めて認識させられた。
今回スポットを当てるのは、リシャール・ピナス Richard Pinhas という人物。今から40年ほどさかのぼる五月革命の1968年前後、当時高校生のピナスはブルースに興味を持ち、ブルース・コンヴェンションというグループに参加していた。グループには後にマグマ Magma (そのうち紹介!)のメンバーになる、クラウス・ブラスキーズがいた。その後、ピナスはソルボンヌ(パリ第4大学)に登録し、哲学の勉強を始める。それと平行してスキゾ Schizo というグループを結成。スキゾは72年にシングルを録音するが、自身の博士論文が忙しくなって同年に解消する。その« Le Voyageur/Torcol » (写真のアルバム「SINGLE COLLECTION 1972-1980」に収録)という45回転シングルでは、ニーチェのテクストを朗読するジル・ドゥルーズ Gilles Deleuze の肉声を聴くことができる。68年のモノクロ映像を背景にこのレアチューンを聴けるなんて粋な演出である。
ピナスはドゥルーズの講義を受け、思想的に大きな影響を受けている。リゾスフィア組曲 Rhizosphere suite など、彼の曲のタイトルにもそれが伺える。一方、彼の博士論文の指導をしたのは『ポスト・モダンの条件』で知られるジャン=フランソワ・リオタールJean-François Lyotard で、彼の指導のもと「スキゾ分析と SF の関係」というタイトルの博士論文を書き上げている。
博士論文のタイトルからも察せられるように、SFに深い関心を抱いていたピナスは73年にロサンジェルスでノーマン・スピンラッド Norman Spinrad と初めて会う。彼にフィリップ・K ・ディック Philip K. Dick を紹介され、「マガジン・アクチュエル magazine Actuel」にディックのインタビューを掲載する。74年、ピナスはエルドン Heldon を結成。グループの名前はスピンラッドの小説『鉄の夢 The Iron Dream』に出てくる都市にちなんでつけられた。
そしてリシャール・ピナスが音楽の師と仰いでいたのが、キング・クリムゾンの超絶技巧のギタリスト、ロバート・フリップである。キング・クリムゾンは『クリムゾン・キングの宮殿』で1969年に衝撃的なデビューを果たし、ビートルズの『アビイ・ロード』をチャートから引き摺り下ろしたと言われている。赤い顔のジャケットに見覚えのある人もいるだろう。それ以降、フリップはバンドのメンバーを次々と交代させ、グループのカラーも時代によって大きく異なる。個人的にはファースト・アルバムや『アイランド』も捨てがたいが、1972年以降のビル・ブラッフォード Bill Bruford 、ジョン・ウェットン John Wetton 、デヴィッド・クロス David Cross 、ジェイミー・ミューア Jamy Muir らが集結した時期、アルバムで言えば、『太陽と戦慄 Lark’s tongues in aspic 』『暗黒の世界Starless and Bible Black』『レッド Red 』が一押しである。クリムゾンは1974年に解散し、1981年に再結成する。そして去年は、キング・クリムゾン(King Crimson)のデビュー40周年で、それを記念したスペシャル・アイテムが発売されていた。
一方で、ヴァイオリンやメロトロンが醸し出すヨーロッパ的な夢幻と哀愁も忘れがたい魅力のひとつだ。『暗黒の世界』に収められた Night Watch と Trio は美しさの極みである。
また専属の詩人が歌詞を書いていて、文学的な曲のタイトルと象徴的なジャケットの絵柄もいかにもプログレのバンドらしい。Lark’s tongues in aspicを『太陽と戦慄』と訳している邦題の意図もよくわからないが、『暗黒の世界』の原題 Starless and Bible Black は20世紀前半に活躍したウェールズの詩人、ディラン・トーマスの劇作品「Under Milk Wood.」の一節から引用されている。
いかにも一般受けしそうにない音楽ではあるが、クリムゾンはCMと無縁だったわけではない。最も有名な曲「21世紀の精神異常者 21st century schizoid man 」がときどき思い出したようにCMに使われるし、08年にオダギリジョーをフィーチャーしたトヨタのCMに「Easy Money」が使われていた。
ところでリシャール・ピナスに話題を戻すと、彼の場合、キング・クリムゾンというよりはギタリストのロバート・フリップからの影響が大きい。エルドンのサウンドはグループによるジャズロックというよりは、ギターとシンセサイザーを使った実験性の高い音楽だった。フリップはかつてフィリッパートロニクスというオープンリールテープレコーダーを使った独自のディレイ・システムを使っていたが(最近では Windows Vista のサウンドを担当した)、ピナスのギターはフリップのギター奏法やサウンド・エフェクトの影響を受け、とりわけフリップの音楽のヘビーメタリックな質感を受け継いでいる。
一方、イエスというイギリスのバンドの名を初めて聞く人もいると思うが、イエスは Yes であって、Jesus ではない。彼らの代表作といえば『こわれもの Fragile 』(1972年)と『危機 Close to the edge 』(1973年)が挙げられるだろうが、『こわれもの』は「ラウンド・アバウト」や「燃える朝焼け」という名曲を含みながらも、各パートの色をそれぞれ出した実験的な曲が半分を占めている。一方、メンバーの個性が衝突しながらも見事に融合した、精巧な建築物さながらの2つの組曲+1曲で構成される『危機』の完成度の著しい高さをみれば、やはりイエスの最高傑作と呼びたくなる。個人的にはパトリック・モラーツ(key)が参加した『リレイヤー Relayer 』も捨てがたい。下のライブはこのアルバムが出た1975年のライブ。曲は「危機 Close to the edge 」。同ライブで演奏された『リレイヤー』の名曲「錯乱の扉 The gates of delirium 」も必聴!(しかし両曲とも肝心なところで途切れている。続きはCDかDVDを買ってくださいってことか)
Play me, Old King Cole…とピタガブは歌い始めるが、Old King Cole はマザー・グーズでお馴染みの人物である(♪Old King Cole was a merry old soul and a merry old soul was he...♪)。波間を漂うような12弦ギターのアルペジオと浮遊感のあるフルートの組み合わせが幻想の世界へといざなう。桜はとっくに散ってしまったが、春霞の向こうから聞こえてきそうな音だ。後半のドラマティックな展開も聴き逃さぬよう。はやり、軍配はこちらにあがりますな。
■プティボンの姿を見ることのできる映像作品はさほど多くない。比較的簡単に手にはいるのはジャン=フィリップ・ラモーの「優雅なインドの国々」のDVD(日本国内対応のNTSC盤)。酋長の娘ジマに扮するプティボンの最高にキュートな姿を堪能できる。仏盤DVD(PAL盤)では、上記「French Touch」が絶対のオススメ。ほかにはフロラン・パニー(フランスの超人気男性歌手)のライブDVD「BARYTON」中の数曲で彼女の姿を見ることができる。フレディ・マーキュリーの名曲「Guide me home」をパニーとデュエットしているほか、「キャンディード」(バーンスタイン)の"Glitter and Be Gay"(名演!)やオランピアのアリアをソロで歌っている。彼女が出演している「オルフェオとエウリディーチェ」(グルック)の仏盤DVDも存在するが、現在は品切。
OUR MAN IN PARIS BY DEXTER GORDON で、どや。おまけにパリでのものなんで、フレンチ満開ネットになんとか貢献できます。これ、1960年代の録音です。その当時ですら、斜陽がかったヴェテランの二人。さぞ「枯葉散る白いテラスの午後3時」みたいにしんみりしてるんでしょうねとなると、ちっちっちっ、そいつは早合点だぜマドモアゼル。ぜんぜん。熱い熱い。パウエルはソロでわーわー叫んでるし、デックスは音が太いし。なにしろテナーサックスは音域が広く低音部分の懐の深さが魅力のひとつなんですが、テクニック重視だと、高音に偏って煮込みの足らんスジ肉のようにゴリゴリする。それやったらひとつ高域のアルトにすればええねん。その点、デックスはのほほんしながら軽く熱燗2合ほどひっかけた調子で、酔いを楽しむかのようにちょっとリズムとずれているところがかわいい。よくも悪くもこんな音色だすのは他にいません。よろしゅう試聴してみて。
■定年退職前の厳しくも優しいロペス先生のもとで、勉強したり遊んだりする13人の子供たちの姿を追った、心温まるドキュメンタリー映画。Etre et Avoir―タイトルにもなっているこの二つの動詞から見ても、フランス人にとってのフランス語の始まりも、日本人がフランス語を始めるときと全く同じなんだな、と分かります。フランス語をやっている人なら、まるで自分も小学生になったような気分になり、子供たちと一緒に「うぃぃ〜!」「ぼんじゅ〜る、むっしゅ〜」と言ってしまいそう。