2008年05月02日

ビオトープ(2) メディアとビオトープ

以前、フランスで行われた「蝶の国勢調査」の記事を書いたときに、ビオトープについて少し触れた。恥ずかしながらそのとき初めてビオトープという言葉を知った。それから、子供の通う保育園にビオトープがすでに存在すること、近くの公園の濁った池のようなものがビオトープであること(ビオトープについて解説するパネルがあった)に気がついた。今や多くの日本の小学校や中学校にビオトープがあり、若い世代はそれなりのエコ教育を受けているようだ。

私は田舎育ちなので小さい頃はまだ自然が残っていた。「となりのトトロ」的な里山の風景は辛うじて記憶の片隅にある(トトロはむしろ大人の方がリアルに楽しめるのだ)。それがどんどん破壊され、何か対策を講じなければという危機感からドイツ生まれのビオトープという概念が導入されたようだ。その破壊は加速度的で、数世代の時間が流れたにすぎない。自然の征服=破壊が近代の産物ならばビオトープは近代の修正ということだが、日本にとってはどちらも輸入品だ。

ビオトープは「生物の生息に適した小さな場所」という理解で良いと思うが、maimai さんが書いてくれたように、本来ビオトープという概念は池や水辺に限定されない。しかし、日本ではとりあえず池から始まる。それは日本では多くの家が庭に池を作っていたという習慣も影響しているかもしれない。それなら昔から日本にもあったとわかりやすい。それぞれの国に適したビオトープがあるということだが、それぞれの国の人がビオトープを理解し、受け入れやすいモデルもあると言えるのだろう。ビオトープは日本では里山保全運動とも深く結びついているが、里山はスタジオ・ジブリもよく利用するノスタルジックな風景で、これも日本人にはわかりやすいイメージだ。里山は生活空間であると同時に、生物の棲息圏でもある複合的な空間だったのだ。

トンボは2キロくらいしか飛べないが、2キロメートル以内に複数のビオトープがあれば、トンボが行き交い、産卵もできる。地域の中の点が結ばれることで生態系が交わり、循環する。個々の生態系は小さいが、それをつなげて面にしていく。つまり点をネットワークとして地域環境を面として覆っていく戦略なのである。ビオトープのある公園の周りでは、住宅地のど真ん中にもかかわらず、夏には珍しいトンボや蝶をよく見かけた。

ビオトープ活動の特徴は、日常的な身近さにある。観光目的で行くような大自然も、世界遺産に指定されるような場所もフィールドにならない。また、流行のガーデニングやアクアグリーンのように、身近ではあるが、品種改良された植物を化学肥料や農薬を使って管理するような都合の良い自然も対象にならない。自分の日常生活の場所で、お金をかけず、身近にあるありあわせのものを工夫して造るのだ。

ビオトープ好きのメディア学者、水越伸氏によると、ビオトープは特定の大きな目標を持つ自然保護運動とは違って、普通に暮らす空間に、昔からいたような虫や動物が帰って来ればいいという、一種の「あきらめ」から出発しているという。大きな運動を一挙に進めるのではなく、個々が小さな活動から始め、それぞれの点を結んでいけばいいという発想だ。重要なのは、誰もが無理なく参加できる敷居の低さ、そして、すべて上から設計&デザインしてしまうのではなく、個人に自発性や工夫を求めるところにある。ここが重要なポイントだ。

水越氏はビオトープとメディア空間を重ね合わせ、メディア・ビオトープという考え方を打ち出している。水越氏は、小さなメディアの活動がネットワーク化されることでウェブ状のメディア・ビオトープを形成する動きに注目している。それは一方通行で、中央集権的なマスメディアとは全く違った、個人の日常に根ざしたメディアのあり方だ。そう言われると、ブログもまた一種のビオトープ状のメディアではないかと思えてくる。このブログも手作りの文化の雑居ビルみたいなものだ。リンクやTBによって情報が行き交い、コメントによって様々な意見=生物が棲み着く。グリュイエルチーズのように多孔的で、どこからも自由に出入りできて、出ていくときには自分が組み変わっているような空間だ(なかなかうまくはいかないが、一応、こういうのが目標)。


メディア・ビオトープ―メディアの生態系をデザインする
水越 伸
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posted by cyberbloom at 20:48 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | エコロジー+スローフード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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