2008年05月01日

ビオトープ(1) ビオトープ発祥の地、ドイツの場合

ビオトープとは、ギリシャ語の「Bios(生命)」と「Topos(場所、空間)」を組み合わせた造語で、100年以上も前にドイツで生まれた言葉である。つまりは「生き物の棲むところ」で、地域の自然環境に適した動植物が特定の生態系を持つ空間である。具体的には、学校の庭に造られた池、化学肥料・農薬を用いないエコロジー農業の畑、街路樹の並木道、教会の老木、壁面緑化などが挙げられる。

ビオトープ発祥の地、ドイツにおける取り組みを見てみよう。ビオトープは、もともとドイツの「黒い森」が酸性雨で被害を受けたときに、自分たちで森を再生する試みとして市民のあいだから生まれたが、ドイツのビオトープ作りはすでに法律(ドイツ連邦自然保護法)によって義務付けられている。ドイツでは、かつての冷戦の象徴で、ドイツを東西に分け隔ていたベルリンの壁が、緑の帯として最大のビオトープネットワークになっている。それは1989年ベルリンの壁崩壊に至るまで、東西ドイツを分け隔ててきた、長さ1400qの境界線沿いの幅50〜200mの帯状の地域である。人々が壁に近づくことができなかったため、ここには手つかずの自然が自由に、豊かに繁殖することができた。そのため、多様な生息空間(ビオトープ)が帯状に連なり、付近に散在するビオトープをつなぐ回廊の役割を果たしている。

ベルリンの壁崩壊後すぐに、自然保護団体は「緑の帯プロジェクト」を発足し、「緑の帯」の重要性を訴え、自ら保護に乗り出した。1996年に施行された「壁地域法」によって緑の帯地帯を東ドイツ政府に没収される前の元の地主が買い戻せることが決まると、環境・自然保護団体は、環境省、財務省に働きかけて、保護すべき重要な地域は各州と保護団体が購入優先権を持つという合意を取り付けた。プロジェクトチームは、土地購入のために、一口65ユーロの「グリーン株」を売り出し、寄付金集めキャンペーンを開始。これまでに総額30万ユーロの寄付金が集まり、緑の帯のうち140ヘクタールが購入され、保護されているが、一方では全区間の15%では重要なビオトープが失われ、65%は民間に売り出されている。

日本でもいくつかの取り組みがある。ひとつは企業が行っている例として、キリンビールの神戸工場がある。そこは池と草地からなるビオトープがあり、ビールの製造過程の最後のすすぎなどに使った比較的きれいな水(中水)を再利用しているが、絶滅危惧種のカワバタモロコ(体長3〜6pのコイ科の魚)が大繁殖していると地元新聞に取り上げられた。

自治体の例として、豊岡市には、コウノトリの棲む環境全体を保護するというビオトープ運動がある。コウノトリは現在コウノトリ保護センターで飼育されているが、将来的には野生復帰を目指している。教育委員会が先頭に立ち、市民に環境保護を呼び掛け、コウノトリの住める環境づくりを行っている。農薬を使わない「あいがも農法」を取り入れる農家も出てきており、この運動が住民の理解を得られ始めている。

ドイツと日本の比較してみると、ドイツでは市民からの働きかけが強いこと、広範囲で、保護対象を限定しないこと、法律の整備が充実していることが挙げられる。日本では学校や企業や地方自治体が中心で、小規模なものが多く、自然再生推進法が2003年から施行されているが、義務化はされていない。もっと環境省が切り込むべき分野であろう。

また日本では、ビオトープという言葉が誤用されることが多い。日本でも「ビオトープ」と言えば、池や流水を作り、そこに生物を住まわせるものとの認識が広がり始めたが、本来のビオトープの概念には、池とか水辺などといった意味は含まれない。また、学校においても、他の地方の水草を持ち込んだり、外来種を導入したりと、本来の意味とかけ離れたものが見られる。難しい概念ではあるが、まずはビオトープの意味を正確に把握することが必要である。またビオトープ保護活動と称して、ホタルやトンボ、ツバメ、メダカ、アユなど、特定の象徴種を守ろうとする生物保護が見られるが、ビオトープは本来、その種が生息する環境、生息空間全てを保護する必要があると考える。

ドイツの「緑の帯」の自然が、かなりの程度まで救われたのは、市民による政治家への働きかけ、そして自ら資金を支払ってまでも自然を守ろうとする熱意によるものであった。やはり環境に対する市民の意識が日本に比べて高いことは見習うべきことだろう。とはいえ、ビオトープはその国の気候・土壌・社会・歴史・伝統の中で育てられるものなので、それぞれの国にはその国に適したビオトープがある。ドイツの事例をそのまま日本に適用することはできない。ただし、どの国でも言えることは、ビオトープの視点を持つことで、住み慣れた街の自然を再発見できる。そしてビオトープを作り、守っていくことで、昆虫や野鳥などを呼び戻し、貴重な生態系を後世に残していくこともできるのだ。



maimai

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posted by cyberbloom at 19:10 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | エコロジー+スローフード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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