2008年04月16日

『墓の話』 高橋たか子

墓の話敬虔なカソリックでフランスでの滞在経験もある、高名な純文学作家(ご主人は故高橋和己)の最新作品集、と説明したら食指が動かない方もいるかと思います。私もそうでした。しかし読まず嫌いは一生の損とはまさにこのこと!
 
作者のフランスでの経験に緩く基づいた、小説と随筆どちらにもカテゴライズできない不思議な手触りの短編が納められています。いずれも作品も死と戦争が通奏低音になっており、最後の一編(世界大戦による苦難を予言し涙を流す聖母のヴィジョンを見てしまった子供達について)を読み終わったときには、収録された作品全てが互いに響き合っていたのがわかります。
 
わき上がった感興を徹底的につきつめて、明晰な言葉で形にしたらこうなった、とでもいいましょうか。一作ごとに、静謐で澄んだ、散文でしか綴り得ない世界が立ち上がってきます。無駄のない、翻訳調を思わせるちょっと固めの文体で丹念に磨き上げられた作品は、読む人にとても豊かなひとときを与えてくれる事請け合いです。例えるならば、こんこんと湧き出る湧き水でしょうか。
 
読後、何ともいいようのない気持ちのざわめきと静かな高揚感に包まれます。

「珠玉の掌編集」といったコピーとは無縁の作品群ですので、念のため。


墓の話
墓の話
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高橋 たか子
講談社
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5 墓にまつわる短編五話



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posted by cyberbloom at 22:57 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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