2008年03月25日

フランスのアニメ

先日、某大学でフランス人アニメーターの講演があり、その通訳を務めた。通訳といっても、ほとんどの時間は彼の自作と他のフランス人による短篇アニメの上映にあてられたので、実際には作品紹介と最後の質疑応答の手助けをしたにすぎない。あとは一緒に座って作品を見ていた。
 
ジェロームという名前の30代のアニメーターは、3Dのコンピューター・グラフィックの短篇アニメを3本制作してきた(ちなみにフランス語では3Dのことを synthèse d'images と言う)。現在はアルテ・フランスの出資で初の長篇を制作中とのことだ。講演があった大学は、CGによるアニメ制作科を設置しており、学生の興味を惹くように、彼はフランスのアニメーター養成過程についても解説し、講演の後半では学生による卒業制作を上映した。これが大変レベルが高く、驚いた。なかには、フランスにいるときに、どこかで見た覚えのある作品も混じっていた。
 
フランスは、日本、アメリカに次ぐアニメ大国である、とジェロームは言う。消費者としてもそうだが、制作者としても、数こそ少ないが、70年代の『ファンタスティック・プラネット』から、2002年の大ヒット作『ベルヴィル・ランデブー』まで、個性的な作品を世に送り続けている。それを支えているのが、規模は小さいが良質な専門学校の存在である。
 
たとえば、南仏の片田舎にあるシュパンフォコム Supinfocom という学校では、最後の2年で短篇を一つ制作する。最初にシナリオのコンペがあり、教授に選ばれた学生を中心に3〜4人のチームを作り、コンピューターを用いて、作品を練り上げていく。卒業生は、特殊効果のエンジニアや広告を手がけるなど、すぐに商業的な現場で活躍するのが普通らしい。これに対して、パリにある国立高等装飾芸術学校のアニメ科では、手描きアニメが中心で、画家や彫刻家を志す人が、一種の修行としてアニメに挑戦する傾向があるという。内容も個人的なものが多く、詩的な味わいのある作品が生み出されている。また別の学校では、すでにアニメーターとしての経験を積んだ人を集めて、資金集めやスタッフ管理などの実務も含めて、監督として独り立ちするのに必要なノウハウを教える。このように、フランスも、韓国ほどではないかもしれないが、アニメ制作者の養成に力を入れている。 

ヤン・シュヴァンクマイエル コンプリート・ボックス僕は日本のセル画アニメよりも、チェコでよく作られるような人形アニメが好きで、一時はイジィ・トルンカやイジィ・ヴァルダ、『パット&マット』などをよく見に通った。もちろん、ヤン・シュヴァンクマイエルも忘れてはならない。『アリス』に出てくる剥製のウサギが自分の腹におがくずを詰め直す場面や、『ファウスト』で悪魔を呼び出しては追い返す場面など、今でもときどき思い出して笑ってしまう。
 
また、ロシアのユーリ・ノルシュテインの作品も忘れがたい。『話の話』は、何度見ても胸が痛んだ。こちらは手描きアニメの最高峰だ。芭蕉の連句集を、日本人を中心とする世界中のアニメーター36人で映像化した『冬の日』で、ノルシュテインは久しぶりに新作を披露してくれたが、蕪村の『奥の細道絵巻』からインスピレーションを受けた映像は、他の誰よりも俳味をもっていた。会場に来ていたある日本人アニメーターと講演後に雑談していたときも、彼は「シュヴァンクマイエルとノルシュテイン、この二人はとにかく別格なんです」と言っていた。
 
フランスのアニメは、短篇がほとんどなため、なかなか興行的な成功を得ることができない。また、セリフに重きを置く伝統があるため、外国で認められにくい、という指摘もある。日本のアニメは何よりもシナリオが良いので、長篇にしても鑑賞に堪えられるが、映像的な冒険と長篇とは両立しにくい。去年発表された全編白黒の3Dアニメ『ルネッサンス』は、その点で冒険作と言えるだろう。ただ、まさに日本アニメを見慣れた者の目からすれば、シナリオがまだ弱い印象を受けた。
 
アニメの表現は、一方でリアリティの追求であり、他方で実写には不可能なノン=リアリティの追求でもある。表現の可能性の二つの極の間で、アニメは模索する。しかし、考えてみれば、それは小説から映画に至るまで、人間が想像力を使って何かを生み出すときに、常につきまとってきた問題だ。アニメは、その探究の新参者であるにすぎない。3D映像の可能性については、ゲームがものすごい勢いで開拓し、それが映画の特殊効果にも還元されている。アニメは、今後映画とゲームを気にしつつ、どのような独自性を出すことができるのだろうか。通訳をしながら、そんなことも考えさせられた一日だった。




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posted by cyberbloom at 22:31 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ+アニメ+BD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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