2008年02月10日

「ファストフード・ネイション」を見る前に

ファストフードが世界を食いつくす数年前に書いたエントリー「ファストフードが世界を食いつくす−BSE問題の背景」へのアクセスが急増している。アマゾンで本もボチボチ売れている。この本はリチャード・リンクレイター監督によって「ファストフード・ネイション」として映画化(2006年のカンヌに出品)されているのだが、これが2月16日から日本でも上映される。アクセス急増の原因はこれのようだ。この映画でミッキーズというハンバーガーショップが出てくるがもちろんマクドナルドを暗示している。「ビッグワン」なんて、ビッグマック以外の何ものでもない。

ところで、タイミング良く日本マクドナルドホールディングス(HD)が2月7日に2007年12月期連結決算を発表した。最終利益が約5倍の78億円となり、大幅な増収増益を達成した。ビッグマックならぬ、メガマックが収益に大きく貢献したようだ。コスト高で逆風の吹く外食産業の中で独り勝ちが鮮明になった。さらに08年12月期は最終利益が27・9%の100億円と予想し、大台突破を狙っている。シュローサーの警告なんてどこ吹く風で、日本人のマクドナルド依存度はさらに高まっているようだ。

去年、子供を連れて某企業がバックアップしている産業博物館を訪れる機会があった。そこでコンビニ弁当が作られる過程を展示していて、弁当のほとんどの食材が輸入品で、それを世界から集めてくる物流システムがいかに素晴らしいか自画自賛していた。これも極端な合理性の追求が非合理性に反転しているマック・システムと同じではないだろうか。

おいしいハンバーガーのこわい話アメリカにはマックジョブ mcjob という言葉がある。文字通りマックのバイトのことで、それは「夢も希望もない低賃金の仕事」の象徴になっている。一方でマックの魅力は手軽さと低価格にあるのだが、それを消費する多くはマックジョブに従事する若者たちだったりする。そこには、ワーキングプアな若者たちが、その生産と消費のサイクルの中で徹底的に搾り取られるという構図が見えないだろうか(これは日本にもあてはまりつつあるだろう)。マックジョブのさらに下には食肉の解体に従事する不法移民たちがいる。

日本では「ギョーザ事件」が起こったが、これを単に中国バッシングで終えてしまっては全く意味がない。食をグローバル化やマクドナルド化に委ねることや、食料自給率が低いことがどんなにリスキーなことか、改めて考える必要がある。ギョーザ事件の真相はまだわからないが、中国には同じようにギョーザを作る低賃金の労働者がいるわけだ。低賃金でこきつかわれ、しかも自分の共同体の外に出荷されるギョーザを作っている彼らに一定のモラルを期待できるだろうか。「ファストフード」の予告編にあったような、パテを汚い床に落としたバイトの若者が「焼けば同じだ」と言っている光景が普通に起こっていることなのだろう。これはシステムの問題なのだ。

バンズの原材料である小麦が記録的に高騰しているというニュースも流れている。世界的に食料の需給が逼迫し、インフレの時代がすでに始まっている。正月のテレビでフードファイターが復活していたのには愕然とした。以前ブームになったとき、フードファイターの真似をした中学生が死亡したことが原因でその手の番組がテレビから姿を消したと記憶しているが、ほとぼりが冷めたのでOKってことなのか。日本人の頭の中はいまだにバブリーな飽食の時代らしい。

□「マック最終利益5倍、外食独り勝ち鮮明に」(2月8日、フジサンケイ)
□「ファストフード・ネイション」公式サイト
□「ファストフード・ネイション」(予告編)
FAST FOOD NATION‐trailer in English
□シュローサーは「ファストフードが世界を食いつくす」をわかりやすく書き直した「おいしいハンバーガーのこわい話」も上梓している。


cyberbloom

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posted by cyberbloom at 15:20 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 時事+トレンド特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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