■ドラノエ氏は、博物館の街として揶揄されてきたパリに活気を取り戻させた人気急上昇のパリ市長だ。自動車への規制を強化し、犬のフン害対策に熱心。パリ・マッチの世論調査ではロワイヤル氏を支持率で大きくリード。08年の社会党党首選挙ではドラノエVSロワイヤルが予想され、さらには12年の大統領候補になるかもしれない。
■ドラノエ氏といえば、98年に同性愛者としてカミングアウトしたあと、01年にパリ市長に出馬し、現職を破って当選を果たした。セーヌ河岸に砂浜を作るパリ・プラージュ。公園や図書館で無線による無料のネットサービス。ベリブというレンタル自転車システムも大人気だ。「派手な人気取り政策ばかり」という批判もあるが、アメリカの格付け会社S&Pも巧みな財政運営を高く評価している。
■ところで、ヨーロッパの多く国々では政治家が同性愛者であることは議論にもならない。信頼でき、法を守る人間ならば、非難する理由はないというのが近代の原則だ。一方、同性愛者への風当たりが強いのがアメリカだ。自由の国とか言いながら、実は信仰と伝統に重きを置く国なのだ。
期待はずれの東京
■東京ではいい映画が撮れない。ジャッキー・チェーンが新作「新宿事件」の撮影を、歌舞伎町で行おうとしたが、許可が全く下りなかった。歌舞伎町の商店街振興組合が撮影に協力しようとしてくれたが、警察は最後まで許可を出さなかった。歌舞伎町のシーンはゲリラ撮影になり、予定していたシーンは全く撮れなかった。「新宿事件」はアクション一辺倒ではない、中国人留学生の苦悩や恋愛が描かれる。そして、何よりも東京の街の面白さを生かした、映画になるはずだった。ジャッキー・チェーンのようなVIPに対してこの扱いならば、世界からそっぽを向かれても仕方がない。
■秋葉原で「WASABI」(ジャン・レノと広末涼子が共演)の撮影をしたフランス人監督、ジェラール・クラブジックも同じことを言っていた。秋葉原で撮影をしたとき、数十メートルおきに許可を取る必要があったという。広い範囲をブロックできないので、すぐに人が集まってきて、ジロジロみたり、指さしたり、カメラを撮ったりする。俳優を車の中に待機させ、一瞬のスキを見計らって撮影するような、ゲリラ的な方法にならざるをえなかったと言っていた。今や東京はサブカルチャーのパラダイスとして世界の若者の注目を浴びているというのに、それをアピールする機会を自ら潰してどうするって話だ。そういえば、石原都知事は東京を映画の街にすると言っていたはずだが、何か対策を打っているのだろうか。
■東京では本来は正当な行為が違法扱いされ、違法なことが平然と行われている。最もわかりやすいのは風俗やギャンブルだ。パチンコやソープランドが非合法な合法としてまかり通っている。これは多くの場合、既得権益の保護に関わっている。そしてどうでもいいことを違法として許可を出さない。
■ところで、最近、「官製不況」という言葉がよく聞かれる。建築基準法改正と貸金業法改正が具体的な例としてわかりやすい。建築基準改正法は住宅建築や設備投資の計画を大幅に狂わせ、外国人投資家には日本政府は住宅市場を押し潰そうとしていると受け止められている。貸金業改正法は中小企業の資金調達手段の制限につながっている。もちろん、これらは消費者保護のために作られた法律なのだが(耐震偽装や多重債務の問題が背景にある)、実体経済へ影響や導入タイミング、そのための方法が検討し尽くされていない。事前に失敗することがわかっていたようなことを平然と実行しているようにしか見えないし、その後の損害を食い止めようという積極的な動きもない。この機に乗じて、既得権益のシステムをさらに強めようという動きもあるようだ。
■つまり、相変わらず先のことの考えない人たちが日本を支配しているということだ。現体制を温存して逃げ切ろうというのが見え見えなところがさらに情けない。日本の次へのステップを阻害する「官製不況」の構図は日本のいろんな分野で目にする。
クール・アラブ
■サイード・タグマウイ(34)。フランスで最もありえない映画スターである。
■パリ郊外のスラムに住むモロッコ系移民家庭の10人兄弟の末っ子。14歳で学校をドロップアウト。スプレー落書きなどワルな行為に明け暮れたあと、ボクサーになり、国内のタイトルマッチに2度挑戦。また「アササン」(暗殺者)というラップグループのメンバーでもあった。
■95年、マチュー・カソヴィッツの「憎しみ」に出演し、世界への足がかりをつかむ。その後、ハリウッドに進出し、大役をこなす。07年11月、アメリカで公開されたマーク・フォスターの「カイト・ランナー」や、08年2月に公開予定の「バンテージ・ポイント」に出演し、コミック作品として知られる「GIジョー」の実写版の出演も決まっている。
■彼は「フランスでは、マイノリティー系の俳優はおバカな脇役で終わり」だとシビアに認識している。フランスにいたときから、ステレオタイプなアラブ人役を蹴りまくってきたのだという。まさに稀に見るバンリューの成功者なわけだが、幼なじみからは「ケーキの上のチェリー」(C’est la cerise sur le gâteau.ということわざがある)をもじって、「ゲットーの上のチェリー」と呼ばれているんだとか。
□「ニューズウィーク日本版2008-1・2/9号」を参照
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