2012年12月09日

有名美術館の分館ラッシュ(2) 日本人建築家の活躍

フランスの有名国立美術館の分館プロジェクトに日本人が関わっている。ポンピドゥーセンター・メッス分館の設計コンペを射止めたのは、坂茂(ばんしげる)氏、ルーブル美術館ランス分館の設計は、妹島和世氏と西沢立衛氏の共同事務所 SANAA が関わる。彼らは世界中からラブコールを受ける売れっ子建築家だ。

SHIGERU BAN紙の建築行動する―震災の神戸からルワンダ難民キャンプまでVoluntary Architects' Network──建築をつくる。人をつくる。

坂茂氏が手掛けたメッス分館の建築は、中国の伝統的な竹の帽子にヒントを得て、6角形の大屋根は木材を編んだような構造になっている。その下にピクチャーウインドウを持つ、3つのギャラリーチューブが上下に並んでいる。パイプの骨格が外にむき出しになっているパリの本館の革新的な発想を受け継ぐのだという。

一方で坂氏は紙管を使う建築家として知られている。5年前にフランスの川に紙製の橋を架けて話題になっていた(→APF動画ニュース)。紙は一見、脆弱な素材に見えるが、恒久建築の構造材としても十分な強度を持つ。また紙はローコストで、入手しやすいという利点がある。その利点は緊急時に生かされる。坂氏は紙の建築を携えて支援活動に出かける行動する建築家でもある。阪神大震災やルワンダ難民キャンプの現場で仮設住宅を作り、同震災で消失した地元(神戸市鷹取)の教会の代わりに紙製の教会も建てている(建設にはボランティアが携わった)。そして 311 の東日本大震災では、女川町に輸送用コンテナを使った仮設住宅(画像あり)を建設し、ネットでも凄いと評判になっていた。コンテナを市松模様に積み、比較的狭いコンテナの中に子供部屋とバス・トイレを入れ、コンテナとコンテナの間のオープンな空間に全面ガラスを入れ、開放的な LDK を実現したのだった。

阪神淡路大震災のとき、建築物の下敷きになってたくさんの人がなくなり、自分の設計した建築でないにせよ、建築家として責任を感じ、何かできないかと純粋な気持ちが坂氏にはあったと言う。難民や地震でも、最初のうちは医療や食料が問題になるが、その後必ず住宅の問題が起こる。住宅問題であるにも関わらず、全く建築家が携わっていない。それを改善しようという建築家がいないと坂氏は指摘する。建築家と言えば、コストに糸目をつけない高価な建築物ばかりを作っている、エスタブリッシュのための、エスタブリッシュな人々というイメージがある。金持ちのための建築か、予算を惜しまない自治体のハコモノ(公共的な建築物ではあるが)という感じで、ローコストで美しい建築という発想はあまり見かけない気がする。坂氏は、被災地や難民キャンプの建物こそが美しくなくてはならないのだと主張する。被災者の惨めな気持ちを晴らすような建築、あるいは、被災者の人々を蔑むような気持ちが起こらないような建築が必要になる。このような倫理的な視点には共感させられる。

Kazuyo Sejima + Ryue Nishizawa: SANAA妹島和世+西沢立衛/SANAA―WORKS1995‐2003美術館をめぐる対話 (集英社新書)

一方、SANAA によるルーブルの分館は、反射性のある外装を使った壁面がゆるやかなカーブを描き、そこに周囲の森が外壁に映り、建物が自然の中に溶け込むデザインになっている。パリの石造りの本館が歴史的な時間の蓄積を主張する重厚な建築物(ガラスのピラミッドで多少中和されているとはいえ)であるのとは対照的だ。

SANAA は国内外に注目される作品を提供している。Dior 表参道金沢21世紀美術館トレド美術館ガラスパビリオンなどが、世界的に高い評価を受けている。最近では「NEW ミュージアム」が、歴史的に有名な建築物の多いマンハッタンの新しいランドマークとして完成した。「 NY で現在、これほど未来への確信をインスパイアするような建築プロジェクトは他にはない」と NY タイムズから賞賛された。こちらは白い箱型の階層を重ね合わせ、自然光を取り入れる作りになっている。



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posted by cyberbloom at 00:32 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | フランスの美術館 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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