2007年12月04日

エコール -Innocence-

innocence01.jpgソフィア・コッポラ監督が『ヴァージン・スーサイズ』において描いたのは、豊かな社会にいる少女のぼんやりとした憂鬱だった。アメリカ郊外の住宅地に住む5人姉妹。レコードだってドレスだってパルファムだって何だって持ってる。だけど、なぜか、自暴自棄になってしまう。何かに対して苛立ってしまう。ついには死を選び、少女のまま完結する…。

同じく「少女」をテーマにしながら、また違った世界を見せているのが、日本では2006年に公開された『エコール』だ。監督はルシール・アザリロヴィックで、本作が『ミミ』に続いて2つめの作品となる。制作国はフランス、ベルギー、イギリス。全編フランス語。

原題が『Innocence』であるように、この作品は純粋な少女性をとらえようとしている。ストーリーの舞台となる環境が、まず特殊だ。深い森の中に、高い塀に囲まれた学校と屋敷がある。6歳から12歳までの少女たちが、そこでバレエと自然の生態だけを学びながら暮らしている。大人は2人の教師と屋敷の使用人だけで、全員が女性。つまり、男性がひとりもおらず外界から完全に遮断された空間のなかで、少女たちが成長していくという、ファンタジーでありながらもミステリアスな物語なのだ。

6歳のイリスが棺に入れられ運ばれてきて、この不思議な世界にデビューすることから話は始まる。しかし、なぜ彼女が選ばれたのか、説明はなされない。それだけではなく、何のために「学校」は作られたのか、「卒業」すればどこへ行くのかも、謎のままである。ただ物語が淡々と進んでいく中で、観客は少しずつ「制度」について知ることとなるが、明確な解答は最後まで得られない。「服従こそが幸せの道」と教えられ、イリスが仕方なく適応していくのと同じように、私たち観客も世界への「適応」を余儀なくされる。不思議な空間での日常がそこにある。戸惑う人もいるかもしれないが、ルシール監督は来日した際のインタビュー*で「私はこの映画について多くを述べたくありません。理屈で突き詰めるよりも、ひたすら感じてほしい映画なんです。」と語っているから、ぜひそういうスタンスで観てもらいたい。

ecole2.jpgストーリーもさることながら、美しいビジュアルも必見である。森の中には学校と屋敷のほかに街灯や公園や湖はあるものの、文明的なものはいっさい出てこず、強いて言えばバレエレッスンの時に使う蓄音機だけで、いつの時代なのかはわからないようになっている。前述と別のインタビュー**では「場所を選ぶのに、どこの国だか分からない場所にしました。撮影はベルギーで行いましたが、何ケ所かで撮影したものを集め、一つの敷地、学校にしました。美しく、ちょっと奇妙な場所、建物も古びていていつの時代のものだか分からないようにしました」と言っていたルシール監督。ひとつの完成された要塞を見事に描ききった。

フランス生まれのデザイナー、アニエスベーもプロデューサーとして共同制作に参加している。そして『エコール』を観てインスピレーションを得たという真っ白な衣装たちは、実際にアニエスベー・ロリータというブランドの中で「エコール・ライン」として販売されることになった。映画そのままではなく、パターンや素材はアレンジされているとのこと。また、アニエスベー・ロリータは、ナブコフ原作の、キューブリック監督による映画『ロリータ』にインスピレーションを受けて作られたものだというからおもしろい。『エコール』はりっぱに少女映画の歴史に名を連ねることになりそうだ。

執拗に登場する蝶々、そして劇場、地下鉄、タバコなど、わかりやすいメタファーもたくさん含まれている。決して、「かわいい、ただきれいなだけの映画」では終わらない。ストーリーを話しただけでは何も伝えられない、実際に観て体験してもらいたい映画である。
 
少女として存在することだけを望まれて生きる彼女たちが、どのような振る舞いを見せ、どのように女性へと成長していくのか。外界とは隔離された世界で、それが露わになる。


□*「エコール」ルシール・アザリロヴィック監督独占インタビュー
□**瑞々しい映像で魅せる『エコール』ルシール・アザリロヴィック監督ティーチイン!


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posted by cyberbloom at 20:23| パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス映画
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