2007年11月09日

『百科全書』 ディドロ&ダランベール

encyclopedie.jpgYoutube を活用するブログが増えてきたが、Youtube にリンクを貼る際のリスクはやはりリンク切れの可能性が高いこと。違法コンテンツのアップとその削除を依頼のイタチゴッコは相変わらず続いている。

いまさらだが、資本主義経済理論の原理はモノの希少性にある。電子情報は、商品の希少性という限界を超え出るので、その原理に基づいている著作権を揺るがしてしまう。電子情報は商品化に激しく抵抗し、モノの希少性の中に捕らえておくことはできない。電子情報は簡単に自らを複製し、それをばら撒く。そして空間を瞬時に移動してしまう。

情報を流通させる力は、モノの私的所有権を保護しようとする力を凌ぎつつある。それゆえ、大手の既成メディア会社も youtube のようなサイトのあり方を容認せざるをえなくなった。著作権を主張し、不毛なイタチゴッコを繰り返すよりも、ネット広告などの別の形で収益を確保するほうが賢明だと思い始めている。

かつて情報の伝達にはメディアの媒介が必要だった。文字は本によって、音楽はレコードによって、映像はビデオテープによって媒介された。しかし、今は文書であれ、音楽であれ、画像や動画であれ、あらゆる情報がバイナリー・コードに変換できる。情報は特定のメディアに依存する必要はなくなり、どのような形で保存可能で、複製したり、転送したりすることもできる。

情報に関する大きな転換は18世紀フランスでも起こっている(少々話が強引だが)。『百科全書』の編集だ。『百科全書』は、1751年から1772年まで20年以上かけて完成した大規模な百科事典で、最初は一足先にイギリスで編集されたチェインバーズの『百科事典』の翻訳として構想されたが、最終的には本文17巻、図版11巻の大型の百科事典にまで発展した。

『百科全書』の編集作業は、直接フランス革命に結びついていく思想運動でもあり、ルソー、モンテスキュー、ヴォルテールら、啓蒙思想家のスーパーチームが携わっていた。彼らは、科学的、技術的な情報は自由に公開され、一般にも普及することが民主国家の繁栄につながると考えていた。それまでの知識は古い徒弟制度による、師匠と弟子のあいだの秘められた関係によって伝達されてきた。

『百科全書』は、それまで蓄積された知識を、網羅的かつ体系的に収載することで情報化したと言えるだろう。書物という媒体を介しているとはいえ、歴史的な情報化のブレイクスルーだったのだ。『百科全書』にはクロス・レファレンスがついている。これは現代の事典にも見られ、項目の末尾で参照語句を示す。まるで検索機能の先駆けのようだ。18世紀はルネッサンスの後、生産力がめざましい発展を遂げた時代で、人々は科学技術に強い関心を示すだけでなく、それらを実際に使いこなすことを望んだ。『百科全書』の技術関係の項目および図版は、そのような要請に応えてディドロが最も力を入れた部分である。

情報は知識を与えるが、その結果受け手に何らかの影響を及ぼし、最終的には何らかの行動に向かわせる。情報の意味と価値はその作用力にある。情報はそれ自体では意味や価値はない。情報に意味や価値が生じるのは、それがある目的に結び付けられるときだ。『百科全書』のクロス・レファレンスには当時の厳しい検閲の目をかいくぐりながら、読者の学習を遠隔操作するという目論見もあったようだ。検閲の目には情報はニュートラルなものにしか映らない。これこそ、受け手が目的を持って情報と情報を結びつけることで初めて意味や価値が生じるということを物語っている。技術もまた『百科全書』によって狭いギルド的な枠組みから解き放たれ、他の技術と有機的な関連を結ぶことでさらなる発展を促されることになる。

『百科全書』が徒弟制度のヒエラルキーの解体を目論んでいたように、情報化は大学のような知識の独占と権威付けをしてきた場所にも確実に影響を及ぼすだろう。知識が上から下へと排他的な形で受け継がれるものとすれば、情報はすべての人に開かれ、アクセスしやすく、使い勝手が良いメディアに乗(=載)って水平に広がっていく。そして個人は自由にそれを意味づけ、「編集」することができるのだ。

□「百科全書―序論および代表項目」(序論だけでも読む価値あり)


「編集知」の世紀―一八世紀フランスにおける「市民的公共圏」と『百科全書』
寺田 元一
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4 クロス・レファレンスの世界
5 今だからこそ学生や
ジャーナリストにお勧めの一冊
5 18世紀フランスにおける知の集大成





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posted by cyberbloom at 22:32 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−文学・芸術・思想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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