2007年09月09日

アメリカの環境ファシズム

kfc01.jpgちょっと古い「NEWSWEEK日本版」7月4日号から、アメリカの話を。CRS(企業の社会的責任)がグローバル企業の重要な評価基準となっていることをちょうど1年前に紹介したが、アメリカではCSR分野での圧力がさらに高まっているようだ。禁煙運動もそうだが、禁煙ファシズムと呼ばれるくらいに、アメリカの倫理的な潔癖さには驚かされる。社会派活動家のやり方も年々過激になっている。例えば、ケンタッキー・フライドチキンによるニワトリ虐待を主張するPETA(動物の倫理的待遇を求める人々)が抗議キャンペーンとして殺人鬼姿のカーネル・サンダースを描いたバケツを作った。ペプシコ(ケンタの親会社)は標的になることを恐れ、動物実験の中止を訴えるPETAの要求を受け入れた。

PETAの反ケンタ・キャンペーン

活動家たちの中にはCSRに無頓着な企業の株を購入し、ものを言う株主になる人々もいる。社会的投資家としてグレードアップするのだ。最重要テーマは何といっても環境問題だ。泣く子も黙るアップル社とて社会派投資家のターゲットから免れることはできない。「廃棄品の受け取りは新しい製品の購入に限る」という、アップル社のやる気のないリサイクル制度が、多くの消費者&環境団体、社会的投資家の槍玉にあがり、CEOのスティーブ・ジョブズは「地球上で最も環境に優しい企業をめざす」ことを約束させられた。実はゴア前副大統領はアップル社の役員をやっていて、意外にも環境保護的な株主提案に反対票を投じた。社会的投資家はその「不都合な真実」に突っ込みをいれたらしい。

さらに驚いたのは、アメリカにはINCRという「気候リスクに関する投資家ネットワーク」が存在していることだ。INCRは総額4兆ドルもの運用資産を持ち、大手の投資銀行のメリルリンチや、アメリカ最大の年金基金のカールパースなどの公的機関も加盟している。INCRの影響力のカギは正論を押し付けるのではなく、優れたビジネス感覚にあるようだ。企業が倫理的に正しい行いをすべきなのは、それが儲かるからだと主張する。例えば、フォードが低燃費車の開発に注力しなければ、厳しい競争リスクに直面すると綿密なデータを出して説得するのだ。

しかし、すべてがうまくいくわけではない。利潤追求とCSRは相容れないという考えは根強い。著名な経済学者ミルトン・フリードマンなんかは企業の社会的な責任とは「自社の利益を増やす活動に専念することであり」、CSRなんて社会主義だと断言している。エクソン・モービルなんかは温暖化の事実さえ認めてない。INCRはエクソン・モービルに対して、温暖化を認めないと競争力を損なうと主張したが、株主たちには全く聞き入れられなかった。そりゃそうだろうな、会社の存亡に関わることだから。

最終手段は「空売り攻撃」だ。環境問題を理解しない悪徳企業には、株価で罰する。金融アナキスト、カイザーという投資家がいて、悪徳企業に空売りを仕掛けることをヘッジファンドに呼びかける。それに賛同し、新たな金脈と考えるヘッジファンドも増えているようだ。空売りとは株を借りて売却し、値下がり後に買い戻して利益を得る方法だが、これを仕手的に仕掛けると、株価は著しく下がる。やり方としてどうなのかという疑問は残るが、少なくともアメリカでは企業の利益至上主義を望まず、企業が社会的な問題に取り組むべきだと思っている消費者や投資家が多いことの証なのだろう。82%がCSRに賛成しているという世論調査結も出ており、さらに法律で義務づけるべきだという意見も多い。

アメリカは宗教的な背景なしには理解できないと言われる。アメリカを思想的に支えるのはプロテスタンティズムである。それは金儲けを悪だとしないが、あくまで「善き行い」の結果もたらされたものでなくてはならない。そういう倫理観がいつも潔癖なやり方で現れるのがアメリカらしい。京都議定書を無視していたくせに、今や環境ファシズム(?)が席巻しつつある。これもブッシュ政権弱体化の表れか。


□「NEWSWEEK日本語版」2007年7月4日号を参照



cyberbloom

rankingbanner_03.gif
↑クリックお願いします

FBN22.png
posted by cyberbloom at 16:20 | パリ 🌁 | Comment(0) | TrackBack(0) | エコロジー+スローフード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック