2007年08月05日

「ヒロシマ、私の恋人」&「二十四時間の情事」 マルグリット・デュラス

■「ヒロシマ、私の恋人」
pluiehiroshima01.jpg日本の映画会社から「ヒロシマ(原爆)」についての映画作成を引き受けたアラン・レネは、シナリオをマルグリット・デュラスに依頼した。少し前に発表されたデュラスの『モデラート・カンタービレ』に深い感銘を受けたからだった。現在ではこのシナリオはデュラス作品のうちの重要な文学テクストとみなされている。そして『ヒロシマ・モナムール』の大成功によってデュラスの名前は一躍世界的なものになった。そもそも初めてのシナリオ作成に戸惑うデュラスにレネがおくったアドバイスは、いつものように「文学をやりなさい」というものであった。

「原爆」という重いテーマにいかに取り組むか。デュラスはレネが日本から持ち帰った膨大な資料や日本人監督によるドキュメンタリー映画に目を通した。その結果彼女は「ヒロシマについて話すことは不可能だ」と思い至る。そして「原爆を描くことはできない、原爆について話すことはできない」ということをテーマにして、デュラスはこのシナリオ作品を書き上げた。

1957年夏、反戦映画に出演するため広島に滞在しているフランス人女性が、帰国前日に広島に住む日本人男性と出会い、彼らはつかの間の愛に身を任す。原爆資料館の映像やドキュメンタリー映画の断片を背景に、彼女は自らも故郷<ヌヴェール>のことを語り始める。そして封印していた記憶、戦時下に敵側のドイツ兵と激しい愛を交わした記憶、そして終戦と共に殺された恋人の冷たくなっていく身体を抱き続けた記憶がよみがえってくる。デュラスは原爆投下という歴史的な出来事を、フランスのある一都市のごくありふれた出来事をとおして、戦争の残酷さを伝えようとする。

余談になるが、『ヒロシマ・モナムール』は『モデラート・カンタービレ』の「殺されたいと願う女性」というテーマを受け継いでいる。デュラスは広島での愛のさなかにいるフランス人女性に、「あなたは私を殺す。あなたは私に幸福をあたえる」と繰り返し言わせる。そしてこのテーマは『ヒロシマ・モナムール』の執筆時期に書かれたハードなポルノグラフィ『廊下ですわっているおとこ』の第一稿でさらに深められている。

「ヒロシマ、私の恋人 かくも長き不在 新装版―シナリオとディアログ」
HIROSHIMA MON AMOUR(FOLIO)


■「二十四時間の情事」
二十四時間の情事マルグリット・デュラスの脚本をアラン・レネが監督した日仏合作映画で、主演はエマニュエル・リヴァと岡田英次。1959年の作品。

反戦映画のために広島を訪れているフランス人女優が日本人の建築家と恋に落ちる。彼女の翌日の帰国ゆえに二人の愛は一層つのる。日本人との愛のさなか彼女の脳裏に戦時中の愛の記憶、ドイツ兵との愛の喜びとその悲劇的な結末がよみがえってくる。

二人の会話と彼女の内面のモノローグ、現在のヒロシマと戦時中の彼女の郷里、フランスの一都市ヌヴェールの交錯画面。それらが彼女の記憶をとおしてフラッシュ・バックで語られ、詩的な映像が戦争、愛、死、記憶と忘却のテーマを伝えてくる。

封切り当時フランスでは長蛇の列ができるほどの注目をあび、アメリカを筆頭に海外でも大いに賞賛された。レネが言うようにこの映画は「日本以外では大成功を得た」。

日本では封切り後三日で配給会社は中止を決定したということだが、それは題名にも問題があったのではないか。『二十四時間の情事』はその二年前に大ヒットした『昼下がりの情事』を連想してつけられた。『二十四時間の情事』はヌーヴェル・ヴァーグの最高傑作として映画史上欠かすことのできない作品だが、現在でも決して古くなっていない。

諏訪敦彦監督は『二十四時間の情事』のリメイクを試みるという映画『H STORY』(2001、ベアトリス・ダル、町田康が出演)を作りカンヌ映画祭に出品しているし、2006年にはデュラスの脚本を舞台化した二人芝居『ヒロシマ、私の恋人』が上演され、日本人建築家役は渡部篤郎が演じている(写真、トップ)。

現在の若いフランス人にとってもそのほとんどが、たとえデュラスの本を読んでいなくても、<ヒロシマ・モナムール>の名を知っている。在日フランス人の間では、広島を訪問したという人には、映画の中で岡田英次がくり返す非常に有名になったフレーズ「きみはヒロシマで何も見なかった。何も」で応じる光景が普通だとか。岡田英次を和製ジャン・マレーとして多くのフランス人が高く評価している。ちなみに彼はフランス語をまったく知らず、セリフはすべて音で覚えたという素晴らしく耳のいい俳優である。

二十四時間の情事
二十四時間の情事
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H STORY
「M/OTHER」の諏訪敦彦監督が、ベアトリス・ダル(「ベティ・ブルー」)を主演に迎え「二十四時間の情事」のリメイクを試みた。40年前に書かれた脚本通りに演じることに違和感を覚えるベアトリスは、監督と意思の疎通が図れず次第に追い込まれていく。今や小説家として有名な町田康の好演も光る。

□PLUIE D'ETE A HIROSHIMA(ヒロシマの夏の雨)
去年の5月渡部篤郎が2人芝居「ヒロシマ、モナムール」(「ヒロシマの夏の雨」)の日本人建築士の役でフランスの舞台に立った。マルグリット・デュラスの小説を舞台化したもので、広島に反戦映画のロケに来たフランス人女優との情交を描いている。渡部にとって演劇もフランス語も初挑戦だった。10月からはパリの国立ナンテール・アマンディエ劇場で5週間の公演をこなした。演出家に「東洋の男性特有の色気と声のよさ」を買われ、ブルターニュ地方の都市での初演では「大まかだがわかりやすいフランス語が、彼をはかなげに見せて感動的」と評された。


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posted by cyberbloom at 09:21 | パリ | Comment(0) | TrackBack(2) | フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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