2007年08月03日

公園で夏休み(2) vacances dans le parc

BRUTUS には、exquise さんが以前レポートしてくれた岐阜県養老町の「養老天命反転地」も紹介されていた。荒川修作がマドリン・ギンズと共同で設計した摩訶不思議な公園だ。

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「さて圧巻はこちら。楕円形にくりぬかれた土地に木々が植わり、日本地図だの屋根瓦だのが埋め込まれ、私たちはほとんどすべての部分を通ることができます。決まった順路も無いので、歩き方は自由。外側を、英語、中国語、フランス語、ドイツ語で表記された街路図が覆い、その外壁づたいに行けば、周囲の山並みも含めて壮大な風景を一望できます。

この施設には平らな部分はほとんどといって無く、気をつけていないとよろめくし、転ぶし、不自然な姿勢を取らされるし、頭をぶつけることもあるし、全く「人にやさしくない」作りになっています。けれども、地を踏みしめて進んでいくうちに、普段使っていない筋肉の存在を感じたり、目や耳を使って周囲に注意を払ったりすることになり、生きている自分の肉体を実感することになります」

ところで、BRUTUS ではエコ先進国として知られるスウェーデンやドイツの公園も紹介されていた。それらは製鉄所や造船所の跡地に、それらの遺物をリサイクルする形で作られている。その風景自体が新しい時代の変化を象徴している。

ヨーロッパでは公園は「脱クルマ社会」の新しいライフスタイルと結びついている。クルマは個人消費主義の象徴で、クルマに乗って郊外にショッピングに出かけ、遊園地やテーマパークに遊びにいくとすれば、公園は歩いて、あるいは自転車に乗って行く場所だ(いちおう都市型の公園を念頭に置いている)。路面電車とも親和性が高い(今やパリのモンスーリ公園の前を路面電車-T3が走っている)。

公園の楽しみは、ショッピングや遊園地のように、消費欲とはあまり関係がない。また楽しみ方があらかじめ決められていない。公園は自由に楽しめる場所だ。消費的なパッケージに乗ることに慣れきった私たちにとって自分で楽しむことは逆に難しいことではある。しかし、一元的な流行に乗り、ブランド物を買いまくる高度成長期の消費生活が難しくなった今、自分で楽しむことは低所得時代の合理的な生き方でもあるのだ。

「公」という字がついている通り、公園は本来パブリックな場所であることも忘れてはいけない(仏 jardin public)。そこでは消費するより、人のとのつながりを作っていくことが重要なのだ。だから新しい公園は、野外コンサート、フリースタイルのアート、あるいはフリーマーケットなどと相性がいい。

鑑賞や消費の対象でしかなかったアートや音楽のあり方も変わりつつある。「公園自体がアート」だというコンセプトが物語るように、人と人とを結びつけたり、それを後押しするアートの社会的な機能がだんだんと注目されるようになっている(過去の個別作品しか問題にできない文学より、多様なアートのアクチュアルな社会的機能を問題にする社会学が魅力的なのもそのせいだ)。

エコロジーに関していつも書いていることだが、新しい考え方を広めるには、強制することは逆効果になるし、排他的な宗教のようになってもまずい。重要なことは「日常生活」と接点を求めていくことなのだ。優れたデザインは人々の日常性に切り込んでいく。人を惹きつけ、誘導するだけでなく、考え方やライフスタイルも自然な形で変えてしまうものだ。

exquise さんが養老天命反転地についていみじくも、「私たちはほとんどすべての部分を通ることができます。決まった順路も無いので、歩き方は自由」とか、「地を踏みしめて進んでいくうちに、普段使っていない筋肉の存在を感じたり、目や耳を使って周囲に注意を払ったりすることになり、生きている自分の肉体を実感することになります」と書いているように、優れたデザインは私たちの身体と精神に自由を与え、今まで気づかなかったことを気づかせ、自分の深い部分からの呼びかけに対する感度を高める。何よりもこっちの生き方、楽しみ方が断然カッコいいと思わせる。

地球温暖化の危機を声高に叫ぶことも確かに必要なのだろうが、一方で脱クルマ社会を促す新しい都市デザインが世界中で確実に進行している。

養老天命反転地
Duisbug-Landscape Park(ドイツ:製鉄所跡に作られた公園)
Malmoe-Vastra Hamnen(スウェーデン:造船所跡に作られた公園)



cyberbloom

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posted by cyberbloom at 23:15 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | エコロジー+スローフード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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