2007年05月26日

デビッド・セダリス 仏蘭西のアメリカ人

sedarispix.gifフランスに住み始めて6ヶ月。でもフランス語は上達せず、語学学校に通うのもやめてしまった。会話の内容はなんとか理解できるけれど、きちんとわかっているのか心もとない。でも、「何とおっしゃいました?」を連発するのはきまりが悪い。だからついついあの魔法の決まり文句、“D’accord.(=わかりました)”が口を付いてしまう…。“D’accord.”と言ってしまったばかりに我が身に降りかかった思いがけない体験を在フランスのアメリカ人作家、デビッド・セダリス David Sedaris はエッセイ”In The Waiting Room”に綴っています。

病院でナースに「服を脱いで下着だけになってください。」と命じられ、気軽に例のヒトコトで応じたものの、ちょっと待てよと思ったがあとの祭。どこかに去っていったナースは他にも何か言い残したようだが聞き取れず…。かくして、中年、やや長髪ぎみのアメリカ人は、ナースの指示した通りの格好で、普通の身支度の患者とともに待合室で一時を過ごすはめに陥るのです。
 
悪夢のような自身の体験を、クリームのように滑らかに、明るいユーモアをこめて描いた上で、セダリスはこう締めくくります。不完全なフランス語の語学力と“D’accord.”は、こんどはどんな冒険を、お楽しみを用意してくれるのだろう?

Dress Your Family in Corduroy and Denim人気作家として The New Yorker を始めメジャーな雑誌に頻繁に寄稿しているセダリスは、ゲイである自分のアイデンティティーや年下のパートナーとの生活、中流家庭に育った幸せな子供時代の思い出にこだわったエッセイを多数発表しています。フランスに住んでいても、彼の作品は異国の香りをさほど感じさせてくれません。(日本のフランス発のエッセイがいやおうなしにフランスを語るものとなっているのとは対象的、面白いですね。)異邦人であることを強調せず、コスモポリタンであることを自慢せず、誰しもの身にも起こりうる日々の暮しのあれこれから得た思いや意見を軽妙な筆致で描きだす。そんな作風がアメリカでうけている理由なのかもしれません。異国にあってぶしつけに振舞わないけれど、卑屈にもならない、よい意味でアメリカ人らしいフランクな雰囲気がセダリスの作品の魅力となっています。作品中で作り上げられた彼のイメージは、アメリカの読者が楽しみ羨む、理想的な「パリのアメリカ人」のように思います。
 
彼の作品は雑誌やペーパーバックなどで手軽に読むことができます。子供時代の思い出を綴った物も絶品で、特に子供の頃に出くわした「恐怖のベビーシッター」の話は抱腹絶倒ものです。


*David Sedaris
"Dress Your Family in Corduroy and Denim"
"Holidays on Ice"
"Je Parler Francais"

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posted by cyberbloom at 00:03 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−フランス小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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