2015年11月26日

ジェニファー・L・スコット『フランス人は10着しか服を持たない』

ジェニファー・L・スコットの『フランス人は10着しか服を持たない』という本が、2015年度上半期1位のベストセラーを記録した。フランス関連では、異例の売れ行きとさえ言える。学生が貸してくれたので、僕もようやく読んでみた。内容は、2001年1月から半年間、パリのフランス貴族の家にホームステイしたカリフォルニアガールのカルチャーショックを綴ったブログの書籍化である。もとがブログだから、と言うと失礼だけど、ざっと読み飛ばせる内容だ。そのうえ、各章に1ページの「まとめ」まで付いていて、要点を取り違える心配はない。

フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ“暮らしの質Lessons from Madame Chic: 20 Stylish Secrets I Learned While Living in Paris (English Edition)

原題は Lessons from Madame Chic. 20 stylish secrets I learned while living in Paris. マダム・シックとは、ホームステイ先のマダムに付けられたあだ名で、もう一人、マダム・ボヘミエンヌというカジュアル系人物もちらっと登場する。邦題は、服は各シーズンに気に入ったものを10着持てばよい、というマダムの教えに由来する。だから、全部で10着しか持たないのではなく、ワードローブには10着しか掛けない方がかっこいい、というニュアンスだ。その点、邦題は、やや誇張広告ぎみではある。ちなみに僕は、「フランス人はケチだから、10着の服を着回している」という、どちらかといえば、ネガティブな話かと思って読み始めたのだが、これは僕の先入観の方に問題があったのだろう。ごめんなさい、フランス人。

本書のメッセージはシンプルで、量より質が大事、ということに尽きる。間食せずに、食事を楽しむ。良品を普段使いする。部屋は散らかさない。近年のフランス映画を少しでも見ていれば、この貴族的なフランス人イメージが、平均的フランス人にあてはまるわけがないことくらい、すぐ分かるだろう。しかし、フランス人といえば、ワイングラスをかちんと当てて「トレビアーン」とか言っている感じ、というステレオタイプがあいかわらず存在しているのも、まぎれもない事実だ。これを、平均的アメリカ人は、チップスとジャンクフードしか食べず、普段はジャージーを着て、部屋は散らかり放題、というもうひとつのステレオタイプと対比させることで、質のフランスvs量のアメリカという本書の構図が、よりはっきりしてくるだろう。

質の向上は、物質的な側面だけでなく、人間においても求められる。新聞購読や「インディペンデント系の外国映画」や旅行を勧めるのは、そのためである。ここでも、平均的アメリカ人は、ネットの芸能ニュースしか読まず、ハリウッド映画を見て、パスポートなんて一生取得しない、というステレオタイプがあってこそ、わざわざ主張する意味が出てくる。

さらには、人間性向上の一環として、「ミステリアスな雰囲気を漂わせる」ことが推奨される。「初めて会った人に私生活のことをあれこれ話さないこと。それよりもアートや哲学やいま開催中のイベントなどについて話そう。興味深い話をして、どんな人なのだろう、とみんなに思わせるように」と、ジェニファーさんは提案している。あれ、こういうのを、スノビズムと言うのでは? いろんなことに興味をもって、自分の意見をもつことは大事だが、「あの人すごい」と思われたい、という動機でいいのか? そういうゲーム的なアプローチでも、いつか本物になるかもしれないという意味だろうか。

さて、不思議なのは、なぜこの本が日本でベストセラーになっているのか、というところだ。この本を手に取る人は、断捨離ブームの流れで、シンプルな生活のヒントを、フランス人に求めるのかもしれない。フランス人はおしゃれというイメージがあるが、10着の服しか持たないって? だったら、たとえ10着でも、「清貧」ではなく、なにかエレガントで知的な暮らしを提案してくれるはず、と読者は期待するのかもしれない。そのあたりは、正直なところ、僕にはよく分からない。

ただ、僕が思うのは、本書の面白さのひとつは、「日本人がパリでシンプルライフを発見した」というありがちなストーリーから少しずれている点にあるのではないか、ということだ(まあ、そういう本もよく売れていますが)。読者は、日本以上に大量消費社会であるアメリカから来た著者がパリの貴族邸であわてふためている場面では、「いや、ジェニファー、それはないだろ!」と突っ込みを入れつつも、「やっぱり人生はクオリティで勝負だよね」という結論部分では共感する、という読み方をしているのではないだろうか。

フランス人は人生を楽しむ達人である、というイメージは、かくしてアメリカ経由で、さらに強固なものになっていく。しかも、人生の楽しみは、恋と美食だけでなく、ファッションからアートまで、知的な楽しみも含む。フランスという文化アイコンの幅の広さと、その機能性の高さを、あらためて再確認できる本である。


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タグ:フランス人
posted by cyberbloom at 21:06 | パリ 🌁 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−フレンチ・ライフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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