2007年05月23日

カンヌ映画祭(6) FESTIVAL DE CANNES 2007

松本人志の映画がウケているというニュースが相次ぐなかで、「松ちゃんカンヌで洗礼、監督の才能ないのでは」(5月22日、夕刊フジ)という「大日本人」に対する厳しい記事があった。日本ではいかにもカンヌで話題になっているようなニュースが流れてくるが、松ちゃんの名前で検索をかけてもフランス語の記事が出てこない(代わりに「松本零士」が出てくる)。一方、世界のキタノはちょんまげカツラをかぶった姿が地元の新聞に出たり、検索にかけてもフランス語の記事はもちろん、インタビュー動画まで出てくる。カンヌ60周年企画、「トゥー・イーチ・ヒズ・オウン・シネマ」(世界25か国、35人の監督が、「映画と人」をテーマに3分間の短編を製作)のために作った3分の映画も好評だったようだ。北野監督もエールを送っているように、松本監督の才能が開花するのはこれからだろう。

木村拓哉は「西遊記」の香取慎吾と一緒に主演映画「HERO」の宣伝のためにカンヌ入りしたが、キムタクは2004年のカンヌ映画祭でレッドカーペットは経験済み。ウォン・カーウァイの「2046」に出演したからだ。

恋する惑星 in the Mood for Love ~花様年華 2046

最近、カーウァイはカンヌの顔って感じで、去年は審査委員長を務め、今年は新作「マイ・ブルーベリー・ナイツ」(日本来年公開)がオープニング作品として上映された。カーウァイの話をしても今の学生さんはピンと来ないようで、日本での知名度はいまいちなのだろうか。前作「2046」は下馬評が高かったが、結局2004年のカンヌでは何の賞も取れず。キムタクに関して、カーウァイはだいぶ前から目をつけていたようだ。彼の演技は、賛否両論だったが、中国の俳優・女優たちの圧倒的な存在感(チャン・ツィイーの壮絶な表情ときたら!)に対して、木村拓也の薄っぺらな、存在感のなさが対象的だった。これは別に悪い意味ではなく、外国から見た日本人像みたいなものが反映されているのだろう。

つまり、キムタクが演じているのは先端技術が普及した未来国家の、自我の希薄な若い男。彼は2046年から帰還できた唯一の人間で、映画の中で日本は未来に位置づけられている。だから、彼は2046年に向かう列車のシーンと不思議な親和力を発揮している。これまた日本=未来というような、ポストモダン神話が復活してしまいそうな話だが、それを60年代のレトロな香港と対比させて描く、強烈なコントラストが何だか分けわかんなくて凄い。お子ちゃまはおとといおいでって感じの、恋愛の酸いも甘いも知り尽くした大人にしかわからない、匂いたつほど官能の世界も見所なのだが、「花様年華」とは明らかに別のものを狙っている。

言葉の問題もあるだろう。広東語が響いている中で日本語を聞くと、キムタクの話し方のせいもあるのだが、一種の軽さというか、はかなさを感じてしまう。これは私が広東語がわからないせいもあるかもしれないが、ああいうパースペクティブから日本語を聞くのも独特な体験だ。

「2046」はフランスもかんでいる多国籍合作映画。カーウァイのキャリアにおいてフランスは重要な国だったはずだ。カーウァイ人気はフランスでまず火がついたと言われている。それまで香港映画と言えば、ブルース・リーやジャッキー・チェンのようなカンフー映画しか連想されなかった。カーウァイは映画を通して、アジアの若者の生態やライフスタイルをヨーロッパに知らしめたと言える。つまりは、アジアはいつまでもヨーロッパの観客のエキゾチズムの対象ではなくて、ヨーロッパの若者と同じように恋をし、ライフスタイルを楽しんでいるんですよ、というアピールにもなった。グローバリゼーションの進行によって、西洋も東洋もさほど違いがなくなり、グローバルな日常やそこから生じる感受性や問題意識が共有されているということだ。

フランスは自国の映画だけでなく、他国の映画の紹介にも熱心で、フランスに行くといろんな種類のアジア映画を見ることができる。カーウァイは明らかにヨーロッパの観客を意識した映画作りをしており、自国よりもまずヨーロッパで「発見」されたという意味で、これまたヨーロッパで絶大な人気を誇る北野武監督(あざといくらい意識してる)と共通点がある。

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「In mood for love〜花様年華」(2000年)はフランスで70万人を動員。「天使の涙」(1995年)は公開時にパリで見たが、ブームと言えるほどの人気ぶりで、街中にポスターが貼られていた記憶がある。この作品と「恋する惑星」(1994年)には、日本のドラマでもお馴染みの金城武が出演しており、彼はカーウァイによって見出された俳優のひとりだ。「恋する惑星」にはモンチッチ頭のフェイ・ウオンも出ていて、ケチャップの瓶を振り回しながら60年代の名曲「カリフォルニア・ドリーミング」に合わせて踊るシーンが素敵だ。フェイは「2046」にも出演。未来へ向かう列車の中の、アンドロイドになった姿(写真)が悲しい。


cyberbloom

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posted by cyberbloom at 12:14 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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