2015年08月02日

『木村伊兵衛のパリ ポケット版』 朝日新聞出版

1950年代の中頃、渡航は夢のまた夢という時にパリに足を踏み入れた木村伊兵衛がカラーフィルムで撮影した街の姿。外遊の気負いも興奮もどこかにうっちゃって、東京の下町を着流しで歩くように街を歩き回り出会い頭に切り取った、お、という瞬間は、静かでおだやかな明るさに満ちている。パリ祭のようなハレの日の写真もあるものの、大半は街のいつもの暮らしのひとこま。屋台の店先。商家のおかみさん。若くない、逢い引きする二人。路上の子供たち。しかし一枚一枚ながめているとなんとなく心和むのである。古き良き時代へのノスタルジアのせいではない。前向きにいい気持ちになるのだ。

1月7日のパリでのあの事件以来怒濤のように押し寄せた一連の出来事が、この写真のかもし出す雰囲気を求めさせているのかもしれない。信じるものがちがっても、この一冊が記録した街と人々のおだやかさ、明るさは誰しもが大事にしたいのではないだろうか。夕暮れのパリの空の美しい色には何年も前にギャラリーで見た時もときめかされたけれど、この2015年2月に、手に載るサイズの本で見ると、なおいっそう心がふるえる。

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木村伊兵衛のパリ ポケット版
木村伊兵衛
朝日新聞出版 (2014-12-19)
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タグ:パリ
posted by cyberbloom at 19:09 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−文学・芸術・思想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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