2007年05月15日

カンヌ映画祭(4) FESTIVAL DE CANNES 2007

カンヌ国際映画祭では日本の映画も数々の賞を受賞してきた。古いものでは、衣笠貞之助監督「地獄門」(1954年、グランプリ)や今村昌平監督の「楢山節考」(1983年、グランプリ)などがあげられる。今村昌平は1997年に「うなぎ」で2度目の受賞(パルム・ドール)を果たす(そして去年のカンヌ閉幕直後に亡くなった)。同年にカメラ・ドール(新人監督賞)を獲った河瀬直美の「萌の朱雀」も味わい深い映画だった。

そして河瀬直美の「殯(もがり)の森」が今年のコンペ部門の唯一の邦画としてが出品される。主演女優は「萌の朱雀」でデビューした尾野真千子。中学3年のとき、学校で靴箱を掃除中、撮影に訪れていた監督にスカウトされた全くの素人だった。10年の時を経て「殯(もがり)の森」で再び黄金タッグを組んだ。

それでは去年のカンヌ映画祭の結果はどうだったのか。先回に引き続き、exquise さんの去年の授賞式後のエントリーを紹介します。


第59回カンヌ映画祭の授賞式が28日に行われ、各賞が発表されました。ウォン・カーウァイ監督が選ぶ作品は何かと期待していたところ、意外(?)と硬派な作品に賞が集中しました。

麦の穂をゆらす風 プレミアム・エディション ユマニテ ふたりの人魚

まず今回のサプライズは主演女優・男優賞でしょう。女優賞はペドロ・アルモドバル監督の Volver の主な出演女優ら、男優賞はラシッド・ブシャレブ監督の Indigènes の主な出演男優ら(「アメリ」や先頃公開されたリュック・ベッソンの新作「アンジェラ」に出演しているジャメル・ドゥブーズも登場)全員に授与されることになり、式場では大変盛り上がりました。どちらの賞も主要な俳優全員が獲得する、ということはこれまでなかったように思いますが、ここには俳優だけではなく作品全体も評価しているよ、という審査員側のメッセージも感じられます。Volver は脚本賞も受賞しており(また今回も掟破りが)、以前に「オール・アバウト・マイ・マザー」でも監督賞を受賞したアルモドバル監督は、母親をテーマに扱うと、カンヌで受けがよいですね。

さて、最高賞であるパルム・ドールはイギリスのケン・ローチ監督作品 「麦の穂をゆらす風 The Wind That Shakes The Barley 」が、また次点のグラン・プリはフランスのブルーノ・デュモン監督の Flandres が受賞しました(リンクの写真は、1999年にカンヌで審査員グランプリ、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞の三冠を獲得した「ユマニテ」)。ローチ監督は常にイギリスの社会問題を見つめて映画を撮り続けて来きたベテランで、逆にブリュノ・デュモンは長編がこれがまだ4作目(とはいえカンヌ受賞はすでに2度目)という若手。前者は1920年代のアイルランド紛争を、後者は中東らしき戦場に派遣された若者たちを扱っての受賞です。第2次世界大戦時のフランス軍アルジェリア系兵士を題材にした先述の Indigènes も合わせて、今回は戦争や民族間闘争を取り上げた作品が多く注目されました。

また私がちょっと気になっていたアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の「バベル Babel」は監督賞を受賞しました。難解な構成が特徴的な監督ですが、今回はわかりやすい編集にしているそうで、それが功を奏したのかも。銃の問題が取り上げられるなど、これも社会性の強い作品のようです。

スカパーのハイライトでいくつかの作品紹介を見てきたところ、受賞を逃した他の作品にも、興味深いものがたくさんありました。ファストフード業界裏側の暴露本をもとに作られたリチャード・リンクレイター監督の Fast Food Nation、天安門事件の頃の若者たちの日常を描いたロウ・イエ監督の Summer Palace などはぜひ日本でも公開してほしいです。今年は政治や社会問題をテーマにした映画が意識的にノミネートされたそうで、評価が高いものが多く混戦模様でした。ウォン・カーウァイのことだから、映像美や実験性のあるものが有利かなと思っていたら、それどころかシンプルでストレートに事柄を伝えるやり方のほうが好まれたようです。パルム・ドールは満場一致だったそうですから、真摯に作られた映画の力強さがまさに「国境を越えて」審査員に受け止められたといえるでしょう。


ロウ・イエ(婁Y)監督は、カンヌの後、去年9月に中国の当局に呼び出され、5年間の映画製作の禁止を言い渡された。「頤和園 Summer Palace 」を無許可で出品したのが理由だ。映画は1989年の天安門事件と、その後に大きく変貌する中国社会を背景に、地方出身の女子大生と北京の青年の「愛と性」を描いたが、微妙な政治的話題と性愛場面がひっかかったようだ。同じ命令を受けたのは「ふたりの人魚(蘇州河)」(2000年、写真のDVD)以来2度目。イエ監督自身は「映画監督は政治家じゃない。事件は歴史学者が討論すればいい。これは愛の物語だ。天安門事件そのものを描くことは目的でなかった」と反論。

ファストフードが世界を食いつくすリチャード・リンクレイターの「ファスト・フード・ネイション」も早く見たいが、日本のアメリカ産牛肉輸入と関わっているので公開されないのかも。この映画のもとになったエリック・シュローサーの同じタイトルの著作は翻訳が出ている。邦題は「ファーストフードが世界を食い尽くす」。アメリカの食肉産業の実態が克明にレポートされ、ハンバーガーを食べる気が完全に失せる。映画にはシュローサーも脚本で参加。映画はあくまでフィクションだが、食肉加工工場の凄まじいシーンは原作に引けをとらないようだ。ファーストフード業界からの反発を避けるために別のタイトルで製作が進められ、店の名前もマクドでなく、「ミッキー」になっている。歌手のアヴリル・ラヴィーンも出演。     

菊池凛子のアカデミー賞・助演女優賞ノミネートで話題になった「バベル」は現在上映中。公式サイトはコチラ



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posted by cyberbloom at 23:06 | パリ ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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