2007年05月13日

カンヌ映画祭(3) FESTIVAL DE CANNES 2007

「週刊フランス情報」でもすでにいくつかのカンヌ情報を紹介した。

日本関連では何と言っても、お笑い芸人、松本人志が企画・監督・主演を手がける映画「大日本人」(6月2日全国公開)が、カンヌ映画祭「監督週間」部門の正式招待が決定したことだろう。この映画は、吉本興業が初めて本格的に映画界へ進出することでも話題になっていたが、それがいきなりカンヌの招待を受けた。

監督週間とは、コンペティション部門とは異なり、作家性の強い才能を世界に紹介するという理念で作品が選出される。「大日本人」の選出についてカンヌ映画祭ディレクターは「これはある種のコメディの最高傑作だと思います。ファンタジーとドキュメンタリーを非常に独創的で興味深い手法で融合させた全く新しいコンセプトの映画の誕生です。私のまわりでもすでにこの映画の熱狂的なファンが存在します」と絶賛している。一方、松本は「カンヌといわれても正直、まだピンときてないのですが、とにかく僕の映画を認めたカンヌは僕も認めます(笑)。映画祭のこととかは全く頭に入れず、あくまでも日本人向けに作ったので、外国の人がどう観るかは興味はありますね」とコメント。

何の番組だったか忘れたが、松本人志がアメリカ人を笑わせるための短編を作るという企画があった。松本がほとんど即興で作ったコント風の映画は、アメリカン・ジョークのツボや、アメリカ人が日本を見る視点をきちんと押さえ、アメリカ人の客を大いに笑わせていた。意外に普遍的な笑いを作れる人かも知れないと、そのとき思ったものだった。北野武の名を挙げるまでもなく、お笑い界はひとつの映画の才能の宝庫でもある。

また、「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」という強烈なタイトルの作品が、批評家週間に正式出品されることが決定。自らの劇団を率い、三島由紀夫賞・芥川賞ノミネートなど、新進気鋭の女流作家としても注目される本谷有希子の人気戯曲が、数多くのヒットCMを手がけてきた吉田大八によって映画化された。配役も絶妙で、強烈なキャラクターを放つ主人公・澄伽(すみか)を佐藤江梨子が演じる。漫画を効果的に使用し、絶妙な滑稽さで姉妹バトルを演出している全く新しいタイプの映画だ。全国にて近々公開。

今回は exquise さんの一昨年の記事を紹介。第58回の開幕直後に書かれたもの。カンヌ映画祭の各賞の解説もあるので、とても参考になる。



いよいよ5月11日から第58回カンヌ映画祭が始まりました。去年の柳楽優弥君の主演男優賞受賞が記憶に新しいですが、今年はどんな驚きが生まれるのか、早くもワクワクしています。

ブロークンフラワーズ オペレッタ 狸御殿 デラックス版 ラストデイズ

というのも、今年は例年になく豪華な顔ぶれが参加しているのです。まず、賞レースが展開されるコンペティション(長編映画)(注1)部門には、デヴィッド・クローネンバーグ、ダルデンヌ兄弟、アトム・エゴヤン、ミヒャエル・ハネケ、ホウ・シャオシェン、ヴィム・ヴェンダースなどなど、歴代の受賞者・候補者や実力者の作品がずらりと揃っています(注2)。日本からはイラクでの人質事件を扱った小林政広監督の『バッシング』がノミネートされました。私が注目しているのは、ジム・ジャームッシュとガス・ヴァン・サントのアメリカ勢。ジャームッシュの「ブロークンフラワーズ Broken Flowers 」はビル・マーレイ、シャロン・ストーンなど大物が出演する久々の新作長編で、カンヌでの前評判も高く、ファンとしては楽しみです。またヴァン・サントの"Last Days"は、90年代初頭のロック・シーンに衝撃を与えたアメリカのバンド「ニルヴァーナ」のフロントマン、カート・コバーンが自殺にいたるまでの数日間を扱ったもので、2年前にパルム・ドール(注3)と監督賞をダブル受賞した「エレファント」(注4)が非常にすばらしかっただけに、期待大です。

映画祭ではこのほかさまざまな部門に分かれて、作品が上映されます。特別招待作品では、去年『マトリックス・リローデッド』が話題になりましたが、今年の目玉はやはりジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ エピソード3』でしょう。その他ウディ・アレンの"Match Point"、日本からは鈴木清順の『オペレッタ狸御殿』(オダギリジョーとチャン・ツィイーという異色の組み合わせ!)などが上映されます。またコンペ外ですが、芸術志向の強い映画を集めた「ある視点」部門には、フランス人監督フランソワ・オゾン(注5)や日本の青山真治などが名を連ねています。これ以外に、フランス映画協会など別組織によって運営される「監督週間」、「批評家週間」といった部門もあり、ここでも小栗康平、柳町光男、内田けんじの日本人監督3人の作品が上映されます。

さて話はコンペに戻りますが、カンヌ映画祭では審査員が毎年変わります。今年の長編部門の審査委員長は、95年「アンダーグラウンド」でのパルム・ドールのほか、カンヌで数々の賞を獲得したボスニア・ヘルツェゴビナのエミール・クストリッツァ監督です。また審査員は各国の映画監督(「ミッション・インポッシブル2」のジョン・ウーなど)や、作家、俳優たちがつとめます。審査員陣のカラーが賞の行方を大きく左右するので、メディアの批評などはあまりあてになりません。昨年のウォン・カーウァイの「2046」のように、下馬評は高かったのに結局何の賞も取らなかった、なんていうこともあるのです(注6)。さあ、どの作品がパルム・ドールを獲得するのでしょうか。この結果は次回のエントリーでお伝えします!


注1:Compétition−「競争」の意味です。この部門は芸術性と商業性のバランスがとれた作品を対象としています。

注2:とはいうものの、無名・有名、新人・ベテランを問わずノミネートするのがカンヌのよいところ。今回も各国から幅広いジャンルの映画が集められています。なかにはアメリカの俳優、トミー・リー・ジョーンズの初監督作品、なんていうのもあります。

注3:Palme d'or−「金のシュロ」の意で、シュロの枝はこの映画祭のトレードマークです。カンヌには「グラン・プリ」という賞もあってまぎらわしいのですが、現在は最高賞がパルム・ドール、次点の賞がグラン・プリです。

注4:この年、カンヌは賞が1つの作品に集中しないように、各賞を分散させるきまりを作ったばっかりだったのに、早速例外を作ってしまいました。

注5:François Ozon −フランスの若手監督で最も意欲的なのは彼でしょう。次々と問題作・話題作を送り出しています。日本でも「まぼろし」、「8人の女たち」、「スイミング・プール」などの作品がDVDもしくはビデオで鑑賞できます。

注6:ちなみに去年の審査委員長は「キル・ビル」の監督クエンティン・タランティーノ。コンペ候補には彼の趣味が反映されたのか、ヴァイオレンスものや日本のアニメなどが挙がっていましたが、グラン・プリに彼好みの「オールド・ボーイ」(パク・チャヌク)が選ばれたものの、パルム・ドールは政治色の強いマイケル・ムーアの「華氏911」に決まりました。おそらくキャスリーン・ターナー、エマニュエル・ベアールといった大御所女優を集めた審査員陣の意見が強力だったのでしょう。タランティーノさんは押しが弱そうですし…。



この年はガス・ヴァン・サントによるカート・コバーン(ニルヴァーナ)の映画が話題になっていたが、今年はジョイ・ディヴィジョンのフロントマン、イアン・カーティスの伝記映画「Control」がカンヌで上映される。コバーンは90年代に、カーティスは80年代に自らの命を絶った。自殺したアーティストは神話化される運命にあるが、等身大の彼にどれだけ迫れるかが見物だ。カンヌとは関係ないが、ブロンディーのデボラ・ハリーの伝記映画の制作も決まったようで、マリー・アントワネットを演じたキルスティン・ダンストがデボラ本人からデボラ役の指名を受けたらしい。80年代人間にはたまらない話題。

この前、アメリカのヴァージニア工科大学で痛ましい乱射事件が起こったが、ヴァン・サントの「エレファント」、マイケル・ムーア「ボウリング・フォー・コロンバイン」は描き方は違うがぜひ見ておきたい作品である。


cyberbloom

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posted by cyberbloom at 14:09 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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