2013年08月31日

河盛 好蔵『エスプリとユーモア』

文化=親の本棚、だった子供の頃偶然であった一冊。標題に掲げられたテーマを、フランス文学者・文筆家としてしられた御大が、豊かな見識とひょうひょうとした語り口で解き明かす名著ですが、この本を推す理由は、実は本文ではなくおまけとして添えられた小文、「あるユモリストの話」にあります。
 
エスプリとユーモア (岩波新書)ベルエポックの頃に活躍、ムーラン・ルージュの踊り子を追っかけ回す青春時代を経て、フランス庶民のお腹をよじらせる事に人生を捧げ、死後綺麗さっぱり忘れ去られた後アンドレ・ブルトン等に見いだされた作家、アルフォンス・アレ。ユニークなその仕事と人生について、作者は程よい距離をたもちつつも限りない愛情と敬意を込めていきいきと描いています。アレの小粋な肖像も掲載されていますが、線であっさりまとめた絵とこのこじんまりとした評伝、簡潔だけれども見事に対象を捉え、互いに響き合っているかのようです。
 
この小品はまた、アレという一フランス人の人生を辿ることで、はからずもフランスという国の文化の芳醇さをもさりげなく伝えてくれます。コドモ時代の寝そべりながらの読書では、出てくる固有名詞はチンプンカンプンながら、今自分がいる畳の部屋とは時間も距離もかけ離れた、オンフール生まれの“アルフィ”がいた世界に胸をときめかせたものです。初めて嗅いだ赤ワインの香り、といったぐあいでしょうか。オトナのみなさまにはその芳醇さ、馥郁たる香りがもっと堪能できるのでは。
 
先頃岩波新書復刊フェアの一冊として再び本屋で手に入るようになりました。この評伝のためだけでも、買い、の一冊です。

□初出は2007年8月3日(「夏のなげやりブックガイド」より)


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posted by cyberbloom at 13:44 | パリ 🌁 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−文学・芸術・思想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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