2007年02月24日

「ここが変だよ寿司ポリス」 NEWSWEEK日本版 2/14号

NW20070214.gif先月、パリで正統的な日本料理を選別する試みが始まったことを紹介したが、これはフランスに限った話ではないようだ。実は日本の伝統を守るために「正しい日本食」認証制度を提唱したのは松岡農水相で、日本の農水省の旗振りが背景にあったのだ。どうやらこれも「美しい国」プロジェクトの一環らしい。外国にもひとりよがりな「美しい国」を押し付けようという作戦か。しかし、「日本政府が認めない店は和食と名乗らせない」と言わんばかりの制度に、「グローバル時代に料理を定義する権利が政府にあるのか」と欧米メディアは激しく反発。日本食を審査する覆面審査官は「スシポリス」と呼ばれているらしい。パリの場合、複数の覆面スシポリスが店を訪れ、日本的な店舗や雰囲気、日本料理の有資格者の有無、メニューに日本食としての質や多様性があるか、米やしょうゆ、酒が日本製か、それと同等の品質か、など18項目に及ぶ基準を点数化。そして50点満点で7割以上取得した料理店を「日本食レストラン」として推奨している(*日本食レストラン価値向上委員会) 

「日本は他国の技術や料理に手を加えておきながら、その逆は許さない」と批判したアメリカのラジオもあったようだ。確かに日本は「オマエに言われたくない」って状況だ。「テリヤキバーガー」は売られているし、「ナポリタン・スパゲッティ」はイタリアに存在しないし、「天津飯」も天津の人たちには想像できない料理らしい。こういう出所不明の料理は枚挙にいとまがないが、そういうコンテクストを無視したラディカルな加工が日本の面白さでもある。この前、創作和食レストランで食べた「生麩の豆腐フォンデュ」は独特の食感があり、なかなか美味しかった。

松岡農水相がアメリカのコロラド州を訪れた時に、メニューに寿司と焼肉が一緒に載っていたのを見て、「こんなのは日本食レストランじゃない」と憤慨したそうだ。外国に行き、言葉が通じないときに、こういう感情がよく喚起される。言葉が全くわからない状況で、日本食レストランを見つけて嬉しくなるが、同時に日本人としての誇りの感情も同時に沸き起こる。それが、「こんなもの、日本料理じゃねよ」、とケチをつける行動として表れる。言葉が通じないコンプレックスがナショナリズムをくすぐる。しかし、日本に帰って国家権力をバックに日本食の検閲制度を作るなんて大げさなことをやらなくても、その場で自分の言葉で店主に日本料理の何たるかを説明すればいいことだ。この制度の発想が国際感覚の乏しい人たちの皮相的な海外体験がベースになっていることは容易に想像できる。そういう日本人の個人的な発信能力を鍛え、発信の場を積み重ねて行く方が先決だろう。時間はかかるが健全なやり方だ。

「創造する主体は日本人であるべきという、文化ナショナリズム的な発想だ」とか「スシポリスは文化における複数性の無視、否定になる。国や文科省の考える文化を愛せという愛国心に関する議論と同じ構図だ」と手厳しいのは、上智大学の吉野耕作先生(社会学)。加えて、日本文化自体が混淆的で、ジャポニカ米のルーツ(揚子江下流?)はどこかとか、寿司のルーツ(東南アジアのなれ寿司?)は何かとか、正統性にこだわればこだわるほど自己矛盾に陥っていく。

しかし、それを超えたコンセンサスとしてスタンダードな日本食や和食というものは存在することは事実。「舌で食べるか、頭で食べるか」というコラムもあったが、私たちは舌で食べる以上に、頭で納得しながら食べている。美味しければ何でもいいというわけでもなく、私たちは食に関しても、正統性とか、本物という言葉に弱い。

外国の人々が日本食に興味を持つのは、日本の伝統文化に直接興味があるからではない。マンガやアニメに関しても言えることだが、日本文化に興味を持つきっかけになるかもしれないが、直接的な動機は明らかに別のところにある。それは、「脂質が少なく健康に良い」というダイエット志向や、BSE以降の脱=肉食の流れに乗っての再評価ということだ。

先月、マクドナルドが期間限定で発売した「メガマック」がバカ売れした。それに乗じてマクドナルドの株(JASDAQ)も急騰。一方、マクドナルドのお膝元のアメリカですら確実に脱ジャンクフードの流れが起こっている。NY市は最近、市内の飲食店に対してフライドポテトの油によく使われる「トランス脂肪酸」を含む調理油の使用を禁止したばかりだ。また、イギリスでは脂質、塩分、糖分の高い食品(つまりジャンクフード)のCMを、今年の1月から16歳未満を対象にしたテレビ番組で流すことが禁じられた。それまで子供番組のCMといえばジャンクフード(日本もまさにそうだ)という慣習が覆るらしい。

少なくとも言えることは、他国に口出している場合ではないということ。そんな認証制度に2億7600万円(!)の税金をつぎ込むより、まだ終わっていないBSE問題、最低水準の食料自給率、大量の残飯廃棄、そういうものに意識を促した方が断然いい。ついでに「あるある」の言いなりになって納豆を買いあさり、やらせが発覚すると怒り狂うというメンタリティーを何とかした方がいい。日本の食卓自体が崩壊寸前で、日本食が世代的に継承されていくかすら怪しいのに。


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posted by cyberbloom at 23:54 | パリ ☁ | Comment(1) | TrackBack(3) | 時事+トレンド特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
痛いニュース っていうブログを検索してみてみ^^
Posted by あ at 2007年03月16日 11:59
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