2006年12月28日

『待ち合わせ』クリスチャン・オステール

rendez-vous01.gifミニュイ社 Les Éditions de Minuit は、かつてアラン・ロブ=グリエやミシェル・ビュトールといった「ヌーヴォー・ロマン」の作家たちや、『ゴドーを待ちながら』のサミュエル・ベケット、また最近では日本でもおなじみのジャン=フィリップ・トゥーサンやジャン・エシュノーズなどの、ユニークな作家の作品を世に送り出してきた出版社です。白地に青い星印のシンプルで美しいその装丁の本は、モード写真の小道具としてたまに登場していますから、書店ならずとも、雑誌で目にした人も多いかもしれません。


そのミニュイ社で、ここ数年コンスタントに作品を発表している作家に、クリスチャン・オステール Christian Oster がいます。オステールはさまざまな職業を転々とし、数冊の推理小説を出した後で、1989年にミニュイから本格的デビューを果たしました。それが40歳になろうという年のことですから、遅咲きの人と言えますが、1996年以降はほぼ毎年1冊小説を発表し、1999年の作品『僕の大きなアパルトマン Mon grand appartement 』はメディシス賞(注1)を受賞しました。最近では子供向けの童話も次々出していて、非常に意欲的な活動を続けています。


オステールの小説では、家へ帰ったら鍵がなくて中に入れないだの、家の中にハエがいて気になってしかたがないだの、いかにもありえそうな日常的な事件からスタートします。しかし、物語はだんだんと思わぬ方向へ進み、読者が予想もつかないような結末へ至ります。その思いもよらぬ展開は、話者である主人公の風変わりな性格によるところ大であり、理路整然としているようで、どこか歪んだ彼らの考え方が、新しい局面を導き出していくのです。鍵が入っていたかばんをなくしたことに気がついても、「悲しいのは鍵をなくしたことではなく、それが入っていたかばんをなくしたことだ。だってかばんをとても気に入っていたし、鍵には愛情など持ってなかったから」と話が続いていくのは、やっぱりおかしくないですか? そんな奇妙な語りをユーモラスで楽しく仕立てあげているのが、オステールの発想の豊かさと魅力的な文体なのです。


新作がいつも待ち遠しいオステールですが、日本でも2003年作の『待ち合わせ Les rendez-vous 』が昨年翻訳されました。文字通り、主人公フランシスがカフェで元恋人と「待ち合わせる」場面から始まりますが、彼による「待ち合わせ」の定義がこれまた相当変わっていて、数ページ読んだだけでもフランシスの非常に理屈っぽい性格とどこかずれたものの考え方がすぐに分かっていただけると思います。この部分で辟易してしまう人もいるかもしれませんが、それがツボにはまれば話が次にどう転ぶのか、ワクワクしながらオステールの世界を楽しめることでしょう。そしてめぐりめぐった物語が、最後の段落に行き着いて冒頭のシーンとつながるときに、彼の小説家としての力が否応なく感じられるのです。


注1:ちなみに今年の受賞作はトゥーサンの最新作 Fuir でした。


rendez-vous01.jpg
待ち合わせ
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posted by cyberbloom at 17:53 | パリ 🌁 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−フランス小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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