2012年10月11日

フォントの快楽

ヨーロッパの文化的伝統が育んだカリグラフィは、アルファベットを美しく書くアートである。それはコンピュータ文化の中で改めて注目されている。スティーブ・ジョブズが中退したリード大学では、アメリカ国内で最高のカリグラフィ教育を行っていて、彼は中退したあとになって同大学のカリグラフィのクラスにもぐりこみ、それが美しいタイポグラフィを持つ最初のコンピュータの誕生につながったというエピソードは有名である。ジョブズは「あのクラスに出なかったら、Mac に複数のフォントやプロポーショナル・フォントは入らなかった」と発言しているほどだ。

フォントのふしぎ  ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?文字情報の多いサイトの場合、フォントが全体の印象を決定するといっても過言ではない。ブログをカスタマイズするときなど、デザインに合ったフォントを的確に選ぶのは難しい。特に素人は頭の中にフォントの選択肢自体がちゃんと定着していないし、それを周囲のデザインと組み合わせるセンスも持ち合わせていない。それを非常に歯がゆく感じることの多いこの頃である。

最近、小林章氏の『フォントのふしぎ』という本を読んだのだが、フォントの美しい写真を眺めているだけでも楽しい。その中で紹介されているフランスのブランドのロゴをいくつか挙げてみよう。ブランディングにおいて、フォントが重要な役割を果たしていることは一目瞭然だ。

Louis Vuitton のロゴは Futura というフォントで組まれているが、特徴は 'O' がほぼ真ん丸なこと。一方で微妙な工夫がされていて、文字と文字のあいだが開いている。

Chrstian Dior のロゴのベースになっているのは Nicolas Cochin で、これは100年前にデザインされ、今もなお最前線で使われる銅版印刷系フォント。18世紀以降、招待状や名刺などの社交界の印刷物は銅版印刷で行われていたが、そのフォントは銅版印刷の様式文字に起源を持つ。老舗の紅茶屋 Mariage Frères のティバッグのお茶の名前の表示に使われる Copperplate Gothic も同じ伝統に属している。Copperplate はまさに銅版のことだ。

metier01.JPG

パリの初期のメトロの有名な看板は、アール・ヌーヴォーの建築家、エクトール・ギマールがフォントまで考案したものだ。現在のメトロのプラットホームの大きな駅名の表示は Parisine で、ジャンフランソワ・ポルシェのデザインによるもの。しかし全部がこれで統一されているわけではなく、昔からの手作り風のものも残っている(写真はプラットホームが銅板で覆われた ARTS ET METIERS 駅)。

ルーブル美術館のショップで見かける案内表示は Optima Nova Titling というフォントによるもの。小林章氏と、フォントデザインとカリグラフィー界の巨匠、ヘルマン・ツァップ氏のコラボなんだそうだ。

一方、ツィッターで 「フォントの歴史を考えて選んだと言うのはシロウトを説得するのに最も有効です。フォントの歴史はうんちく以上ではなく、このデザインにはこのフォントという定形思考こそクリエイティブの墓場です」というご意見を、あるグラフィックデザイナーの方からいただいたことがある。このクリエイティビティの原理はどの分野でも言えることなのだろう。

ちょうど『クーリエ・ジャポン』の7月号「北欧特集」にデンマークのコペンハーゲンに拠点を構えるブランディング・デザイン会社、e-Types のことが記事になっていた。宝飾ブランドのジョージ・ジェンセンやビール会社のカールスバーグなど、北欧の一流企業をクライアントに持つ。とりわけデザインのなかでもタイポグラフィにこだわる。やはりフォントはブランディング・デザインの要になるのだという。e-Types はフォントへのこだわりが高じて、世界初のフォントとフォントデザインの雑貨専門店 ”the Playtype shop” まで設立している。

https://www.e-types.com/
https://playtype.com/index.php?q=store

こんな本も見つけました↓↓これも眺めて楽しい、刺激的な本!

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posted by cyberbloom at 19:42 | パリ 🌁 | Comment(0) | TrackBack(0) | ART+DESIGN | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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