2006年12月07日

CAHIERS DU CINEMA 宮崎吾朗インタビュー(2)

cahirs616.gif―スタジオ・ジブリの偉大な戦略家、鈴木プロデューサーとのやりとりや対話はどんな感じだったのですか。
宮崎吾朗:私にとって映画を撮ることは初めてで、私は鈴木さんの誘いに応えました。私には具体的な経験がなかったので、具体的な問題があるといつも彼に聞きました。彼は各段階をどのように踏んでいくかを説明してくれました。彼がいなかったら映画を撮れなかったでしょう。彼がいなかったら、映画を撮るという具体的なイメージすら持つことができなかったでしょう。しかしながら、撮影のプランに関しては、私と父の作品には重要な違いがあります。父の映画では、主観的なカメラ(=視線)が物語の構成において重要な役割を果たしていますが、「ゲド戦記」では、私は決して登場人物たちの視点には立たずに、2、3メートル離れた位置にいました。しばしば後ろから、ときには前からといったふうに。

―押井守さんはあなたの映画を擁護しています。あなたとあなたのお父さんとの対立について「創造は対立から生まれる」と強調しています。
宮崎吾朗:押井さんの映画は私の人生の一時期、重要なものでした。私は大きな影響を受けました。今は全くそうではありませんが。宮崎駿と高畑勲は日本の現代アニメのパイオニアですが、押井さんはその次の世代の代表者です。スタジオ・ジブリと競合し、ライバルになりました。「ゲド戦記」は私の世代の他の監督たちへのメッセージです。アニメをコントロールし、シンプルにし、ジブリの最初の価値観に立ち戻ろうというメッセージです。このメッセージを私の同業者たち全員が喜んでくれるかどうかはわかりませんが。

―映画の最初の方に、親殺しのシーンを置くことを決めたのはあなたですか。
宮崎吾朗:はい。それは人々の好奇心をそそるでしょう。私はアレンではありません。私と父との関係は、父を殺したいと思うほど深いものではないし、私は復讐なんてしません。ただし、架空の物語の枠組みの中では、親殺しという行為によって主人公は自分の土地を離れ、冒険に出ることができるのです。一方で、それは日本の若い人たちにとって、より現実的なモチベーションだと思います。過ちを犯して逃亡するというモチベーション。プリンセスを救うとか、ポジティブなことから始まるよりも、こちらの方がモチベーションが高いと思います。

―最後に若い主人公は自分の国に帰ることを決意します。観客はそこにあなたとあなたのお父さんとの和解の試みをみるにちがいないでしょう。
宮崎吾朗:唯一の和解があるとすれば、それは自分の責任と向き合う、アレンとアレン自身との和解です。それには次の長編が必要でしょう。

―スタジオ・ジブリとは別の場所で映画を撮ることを想像できますか。
宮崎吾朗:私は2つの理由でこの映画を作りました。ひとつはそれが「ゲド戦記」だったからです。それは父の愛読書でした。もうひとつはそれがスタジオ・ジブリから来た話だったからです。スタジオ・ジブリの将来がどうなるかはわかりませんが、私は将来性を感じています。私は宮崎駿や高畑勲の後継者を探すより、鈴木プロデューサーの後継者を探すほうが難しいと思います。

(2006年8月 武蔵小金井のスタジオジブリにて)

□インタビュアーの関心はやはり宮崎親子の関係に向かっている。おそらく父子の対立を強調し、話題にしたかったのだろうが、拍子抜けって感じだったのだろうか。ポーズだけでも自分と親は違うと主張する2世が多い中で、この葛藤のなさは何だろう。「父は全く家にいなかった」とか「私と父の関係は殺したいと思うほど深いものではない」というのがすべてを物語っているのだろうか。鈴木プロデューサーに全面的に頼りましたとか、ジブリという枠から出るつもりもないと言ってはばからないし。親の遺産とノウハウをそのまま引き継ぐと臆面もなく宣言する、葛藤のない新しい2世の登場なのだろうか。
□「ゲド戦記」の原作者、ル・グィンは、宮崎駿のことを現代のクロサワとかフェリーニとか言って褒め称えている。宮崎駿が撮るというから「ゲド戦記」の映画化を許可したのに、息子が撮るなんて聞いてない、とかいったすれ違いもあったらしいし。とりわけ宮崎吾朗の「ゲド戦記」解釈には不満を漏らしていたようだ。


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posted by cyberbloom at 22:53 | パリ ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 宮崎駿 Studio Ghibli | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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