2006年11月29日

オルセー美術館展(3) 預言者リブザ

鳴り物入りで始まったオルセー美術館展(神戸市立博物館)だが、あと1ヶ月を残すだけとなった。評判は上々のようです。まだの方はお早めに。



ところで、生まれて初めてパリのオルセー美術館に足を踏み入れたのは80年代の終わりごろだった。そして、「預言者リブザ」と「再会」したのはオルセー美術館の「象徴主義の間」だった。

そこには国際的に展開した象徴主義の作品が展示されていて、目が眩むばかりの絢爛豪華なジャン・デルヴィル(ベルギー)の絵が高い位置に飾られていた。個人的にも絵画の流れの中では象徴主義がいちばん好きだ。絵画が最後の充実を見せ、最後の輝きを放った時期だと思う。フランスのルドンやモローに加えて、象徴主義からシュルレアリスムにかけてのベルギー絵画が断然面白い。その流れを追えるベルギー王立美術館(ブリュッセル)も印象深い美術館だった(現在、国立西洋美術館で「ベルギー王立美術館展」やってます。12月10日まで)。

象徴主義とは1880年代後半のフランスで起こった反写実主義、反科学主義的な文芸・美術傾向だ。文学的な運動としては、詩人のジャン・モレアスが「ル・サンボリスム」(象徴主義)と題する宣言を掲載し、詩の目的は「理念に感覚的形態を纏わせること」であると述べた。美術における象徴主義は1880年代から1910年代にかけてのアカデミズムとポスト印象派に対する新傾向。印象派は目に見える外の世界しか描かないと批判はしているが、印象派を始めとする新しい絵画の流れの中で試みられた手法の成果がふんだんに盛り込まれている。

象徴派絵画にはおおまかに二つの潮流がある。ひとつはポール・ゴーギャンとポン・タヴァン派からモーリス・ドニを通じてナビ派に至る総合主義、あるいはクロワニズムと呼ばれる反印象主義的色彩表現法の系譜。

もうひとつは過去の宗教や神話に主題を採ることで、絵画に象徴的・暗示的な物語性を獲得しようとする反現実主義的な表現傾向であり、オディロン・ルドンやピュヴィス・ド・シャヴァンヌからフェルナン・クノップフ(ベルギー)、グスタフ・クリムト(オーストリア)らの世紀末絵画へと展開する。

「預言者リブザ」は後者の系統だろう。

「預言者リブザ」は、チェコの画家、マチェック(Masek, Vitezlav Karel 1865-1927)の作品。この絵が今回のオルセー美術館展に参加している。展覧会の感想を書いたブログに目を通してみると、有名な作品が目白押しの中で、この絵に感銘を受けたという方々がけっこう多い。そこそこ大きなサイズの絵(193×193)で見たときのインパクトも大きいようだ。

ここからは少々マニアックな話になる。かつてこの絵をジャケットに使っていたバンドがいた。上の写真はタイトルがついていることからもわかるように、レコードジャケットである。デザインのためか、実際の絵と右左逆の鏡像になっている。そのバンドはアイン・ソフ(Ain Soph)という神戸のバンドだ。

私のオルセー初体験での最大の驚きは、「何でこんなとことろにアイン・ソフのジャケットがあるの?」ってことだった。このアルバムはジャケ買いした。レコードレビューの大推薦もあったが、この絵が使われていなかったら買わなかっただろう。アルバムを購入した中学3年当時は、マチェックなんて画家は知るわけもなかった。しかし、暗い青と緑のトーンに彩られた、点描画のような緻密な作品に魅せられた。神秘的ではあるが、衣装や宝飾品が描きこんであって、装飾性も強調されている。

神戸のバンドのジャケットに使われたオルセー所蔵のチェコの画家の絵が今、神戸の美術展に来ているわけだ。何かすごくないですか?(笑)

アイン・ソフはジャズロック系のプログレッシブ・ロック・バンド。ロックが文学やアートに最も接近した時代のロックで、ジャケットに凝るのも重要な特徴のひとつだった。当時(1980年代初頭)、アイン・ソフと双璧を成していたNOVELAというグループ(これも関西系)がいたが、そちらは Sulamith Wulfing よるジャケ「魅惑劇」、漫画家の内田善美によるジャケ「青の肖像」が美しかった。こちらはプログレ・ハードって音で、今から見れば、X-JAPAN とかマリス・ミゼルにつながる元祖ビジュアル系でもある。

一方、アイン・ソフはボーカルなしのジャズ・ロック系。「預言者リブザ」を使ったアルバムのタイトルは、「妖精の森−A Story Of Mysterious Forest」。1980年の作品。B面(LP盤)を全部使った18分あまりの組曲「妖精の森」が素晴らしく、ジャケットのイメージともぴったりだ。当時は日本にもこんなテクニックと構成力のあるバンドがいたのかと驚愕したものだ。とりわけ、メロトロンをバックにむせび泣くギターには未だ鳥肌がたつ。

■関連エントリー
オルセー美術館展(1)
オルセー美術館展(2)


cyberbloom


posted by cyberbloom at 00:24 | パリ | Comment(4) | TrackBack(0) | 美術館&美術展 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
AIN SOPHのドラマーtaiquiです

とても貴重な情報をありがとうございます。
是非神戸に来ている間に「面会」にいかなくては!

私は1984年の参加なので(音源としてはセカンドから)当時の状況もバンドも別のシーンにいたために(&バンドが神戸で私が京都でパンクシーンにいた)詳しくはわからないのですが、私もその音の完成度に驚いた記憶が有ります。

現在はその当時の曲はあまり演奏していないのですが、まだ活動していますので、また機会が有ればライブにもお越し下さい。3月にはメキシコ公演も実現します。
Posted by taiqui at 2006年11月29日 16:17
taiquiさん、コメントありがとうございました。アイン・ソフのメンバーの方と直接交流できるなんて、ブログというツールの凄さを実感するばかりです。このアルバムを買った中学生のころには想像もつかないことですね。本当にこの記事を書いて良かったです。ベルギーのUnivers Zeroとも共演なさるというメキシコ公演に赴きたいところですが、ぜひ公演の様子をDVD化するか、youtubeに流すかお願いします。
Posted by cberbloom at 2006年12月01日 01:01
私は、先日、東京のオルセー美術館展で
予言者リブゼを見た者です。
アイン・ソフのアルバム、大事に
持っています。
Posted by リックディアス at 2007年02月28日 19:05
リックディアスさん、コメントありがとうございます。同じような体験をした方は他にもいらっしゃるでしょうね。アイン・ソフのメンバーの方からコメントをいただいときは本当にびっくりしました。
Posted by cyberbloom at 2007年03月01日 18:43
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