2012年05月03日

ADBUSTERS & ANTI-PUB 広告退治と反広告

1月1日の朝日新聞に「ウォール街を占拠せよ」の仕掛け人、カレ・ラースン Kalle Lasn 氏のインタビューが載っていた。彼は「アドバスターズ」という雑誌を発行している。アドバスターズ、つまり広告退治の雑誌だ。

「企業がもうけに走ることは善である。ゆえに商品を売り続けることが目標になる。そのためにテレビや雑誌に広告を出すのが効果的で、広告が浸透すれば消費意欲が高まり、企業は永続できる」というアメリカ流の常識と戦っている。私たちは過剰な消費、過剰な広告に無感覚になっているのだ。具体的な戦術としては、大企業広告のパロディーや環境保護についての意見広告を載せた雑誌を発行している。もちろん商業広告は一切なしだ。

商業広告と戦うために、反広告の広告を打つ。まさに情報戦だ。他にも米小売業界が狂ったように買い物を煽る歳末商戦の週末を選んで、No Buy Day を呼びかけ、デジタルに魂を抜かれないようにデジタル製品に触れない "unplugged" 状態で過ごす週、デジタル解毒ウィーク Digital Detox Week を設定する。消費者が動かされるのは、ちょっと視点を変えるようなユーモアだ。

ラースン氏は自社サイトで最も画期的な広告「ウォール街を占拠せよ=Occupy Wall Street(OWS)。9月17日決行、テント持参のこと」を打った。それは世界に火をつけ、最盛期には世界の1000ヶ所を若者たちが占拠した。彼は「ウォール街占拠」という知恵を出しただけで、占拠デモに参加したり、指導したりしなかった。運動は彼の手を離れ、ひとりで育っていった。しかし OWS は「アドバスターズ」の何よりも効果的な広告になった。毎号9万部発行していたのが、OWS 後12万部に増えたという。

リーマンショックの際に、アメリカ政府は、つぶれると世界の金融経済に大きな影響を及ぼすという理由で、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの金融大手に税金を投入した。「大きすぎてつぶせない」という論理がまかり通った。しかし業績が回復すると性懲りもなく自社幹部に何千万ドルという報酬を支払った。一方で失業者は全く減ることがなく、若者は大学を出ても就職先が見つからない。住宅ローンの返済が滞った庶民の自宅は、税金で助けられた銀行が差し押さえてしまう。このゆがみはどこから来ているのか。OWS はそういう問いから始まった。’We are the 99%’ という OWS のスローガンは単なる数の比の問題だけではなく、1%にやりたい放題を許してしまう圧倒的な力の差でもある。

ラースン氏の主張と手法は、2003年の秋、フランスを騒がせた事件を思い起こさせる。
 
ある若者の集団がパリの地下鉄の構内に侵入し、大きな広告のポスターにスプレーで落書きして回った。そう聞くと、ヒップホップの落書きアート、グラフィティを想像してしまうが、それとは全く系統の違う、ある主張を持った組織的な活動だった。
 
襲撃されたのはパリ15区の La Motte-Piquet-Grenelle 駅。その駅には6号線、8号線、10号線のメトロが乗り入れている。この事件では3人の高校生を含む62人が逮捕され、地下鉄の会社に95万ユーロ (1億円)の損害賠償を請求された。そういう結末を迎えることは、彼らもわかっていただろう。しかし、彼らはなぜそのような行動に出たのか。

パリの地下鉄の壁は広告のポスターで覆い尽くされている。乗客たちはそれに慣れていて、誰も気に留めない。もちろん同じような光景がどこの国でも見られる。ヨーロッパの若者のあいだには環境破壊に対して相当な危機感があるようだ。彼らは自然環境だけでなく、都市環境にも破壊がもたらされていると感じている。彼らの確信犯的な行動の裏には「街は企業のものじゃない、私たちのものだ」という強い権利意識がある。



Laissez vos enfants rêver sans la pub!
−子供たちが夢見るのに広告は要らない!

これは広告の上に彼らが書き残したが書き残したスローガンのひとつ。つまりは、子供たちの想像力が広告に蝕まれているということだ。彼らはANTI-PUB と名乗る(広告に反対する運動、pub はpublicité=広告の略)。この2003年秋の事件でフランス中に名を知られるようになった。

企業による広告の垂れ流しと、街の風景の汚染。私たちにとっても決して他人事ではない。広告が批判されるのは、それが公共空間や日常生活を侵略しているからだ。テレビ、ラジオ、ダイレクトメール、電話、新聞、映画、広告パネルを活用し、騒音によって注意をひきつけ、インターネットの世界への進出も著しい。さらに ANTI-PUB は広告が強い政治的なメッセージを発していると考える。すなわち、「消費しろ、汚染しろ、資源の枯渇に参加しろ」というメッセージだ。

広告はそれを見る人々よりも、メディア側に利益をもたらしている。売り手と消費者は広告によって非対称な関係に置かれる。売り手は消費者の行動や欲望や選択の基準に関して、明確で客観的な情報を持つことができる。それに対して、消費者は売り手から受動的に情報=広告を受け取るだけである。それは消費者の利益ではなく、売り手の利益になるように選択されたものである。今や広告には先端の社会科学を応用して練り上げられたテクニックが用いられている。

さらにフランスでは違法ギリギリの方法で世論に訴え、議論を巻き起こそうという戦術を取る運動がいくつか起こっている。彼らは強い社会的、政治的影響力を持つ企業に対抗するには、それくらいの確信犯的な戦術が必要だという信念を持っている。彼らのやり方はときには法に触れ、逮捕を免れえない。しかし、そういう運動がフランスでは一定の支持を受ける。その象徴的な人物がジョゼ・ボヴェだ。彼は1999年8月、建設中のマクドナルドの店舗を解体して逮捕されたが、6週間の刑期を終えて出所してきたとき、多くの市民が彼を英雄として出迎えた。彼は今やヨーロッパ議会の議員である。

ANTI-PUB やジョゼ・ボベの話を学生にすると、「暴力はいけない」とか「法を犯してはいけない」とか理性的な答えが返ってくる。しかし、さらに彼らはこう問いかけるだろう。それでは、私たちが望まないような環境を強制することは暴力や犯罪ではないのか。私たちは今生きているのとは別の人生や環境を選択する権利はないのか。



TROP D'IMAGE TUE L'IMAGINATION
―多すぎるイメージは想像力を殺す
CONSOMMATION=ESCLAVAGE MODERNE
−消費、それは現代の奴隷状態

もちろん、ANTI-PUB の論理につっこみをいれることは可能だ。広告がかきたてる欲望や想像力は、必ずしも広告された商品に向かうわけではない。消費者はいろんな広告の見方を知っているはずだ。広告批評というジャンルもあるくらいで、成熟した消費社会の住人は広告を批判的に再解釈したり、新しい意味を付け加える方法を知っているだろう。広告と消費者の関係は相互的に生じるものであって、広告の作用を一方的なものとして規定できるわけではない。

また、かつての絵画や彫刻に代わって、広告はビジュアル・アートの先鋭的な部分を担っている。私たちの視覚的な楽しみの対象であり、美的経験ですらある。ANTI-PUB のコマンドたちがターゲットにしたパリの地下鉄の巨大ポスターは、個人的に気に入るものが多かった。特に12号線の Assemblée Nationale 駅のプラットホームを通過する機会を楽しみにしていたほどだ。

またウェブの到来によって、企業VS消費者という関係も崩れつつある。ウェブの世界は広告によって成り立っている部分が大きいが、アフィリエートやネットショップによって個人が小さな仮想商店を営むことができる。消費者が売り手に参入する壁は低くなり、逆に消費者が企業に提案したり、商品の企画に影響を及ぼしたりすることもある。最近では企業の広告に煽られて買うのではなく、SNSによる情報の共有を通して買うという変化も見られるようだ(一方で、ステルスマーケティングなど、より巧妙なやらせ的な広告が問題視されている)。

しかし、彼らが問うているのはもっと根源的な問題だ。私たちは「今生きている環境」を変更のできない自明のものと考え、決して問い返したりしない。企業天国にして権利意識の希薄な非民主国家にいては、あまりにも現実味がない問いかけに聞こえるかもしれない。しかしこんな世界に生きていてハッピーなのだろうかと、立ち止まって考えさせられるのも事実だ。日本の公共空間が「広告の無法地帯」と化していることをハタと思い出したりもする。ANTI- PUB のコマンドたちは日本の街の宣伝がらみの喧騒や、電車の無節操なアダルト吊り広告を見たらどんな行動に出るだろうか。

ちょっと風変わりで過激な人たちが、信じて疑わない常識を揺るがすような行動によって一般市民を挑発する。ある意味、健全なものを感じるし、ユーモアも感じる。そこにはロック的な表現や文学的な感性すら見出せるだろう。昔だったら文学や音楽に身を投じたであろう若者は、今は反グローバリゼーションの運動に向かっているとも聞く。

□ADBUSTERS http://www.adbusters.org


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posted by cyberbloom at 09:57 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | グローバリゼーションを考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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