2012年01月25日

夏石鈴子 『逆襲!にっぽんの明るい奥さま』 『虹色ドロップ』

逆襲、にっぽんの明るい奥さま夏石鈴子さんの短編集『逆襲!にっぽんの明るい奥さま』は、繰り返し読んだ1冊です。「普通の奥さま」がしまいこんでいる、つぶやき、煩悶、怒り、嘆き、その他もろもろがこれ以上ない的確さでむき出しにされています。強い感情は、その強さゆえに捕らえようがなく、さもわかったふりして使い古しの言葉で片付けられることが少なくありません。しかし作者は、奥さま達の中でふつふつ沸き立つ暗い思いも正面から受け止め、きちんと言葉にしてしまいました。思いが形成された過程 もきっちり描かれていて、すとんと納得できる。誰しも自然と奥さま達の思いを追体験できてしまうのです。

強い思いを抱える一方、奥さま達は意外なほど冷静に、自分と自分の背負っているものを見据えています。語り口は、時にユーモアすら感じさせる余裕を見せつつ、少しの無駄もない。だからこそ、安心して、奥さま達の独白に身を任せられるのです。

虹色ドロップ再読してしまう本にはもう一度体験したい何かがあります。ハッピーな気分を確約する本ではないのについ読んでしまうのは、こんなはずではなかった人生を前を向いて生きる奥さま達の独白を引き受けることで、何かしら自分自身も浄化され、強くなれるからかもしれません。「人生捨てたもんでない」と大見得切れる日はやってこないかもしれないけれど、一日一日生きてゆく。そんな精神的なタフさに共感します。奥さまも、そうでないひとにも、おすすめ。

この本を読んでおお、と思われた方には、同じ著者のエッセイ・書評をまとめた本『虹色ドロップ』もおすすめします。エッセイを読む楽しみとは、書き手の生活と意見を通じて良くも悪くも書き手に「触れ」ることであると思います。いろいろあった日々(かなりな事態が進行してゆくのです!)をさらりとユーモラスに綴る文章から、夏石鈴子という心底気持ちのいい人がくっきりと浮かびあがります。読むといつのまにか気持ちがぐっと明るくなる、元気の出る一冊。



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posted by cyberbloom at 00:00 | パリ 🌁 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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