2012年04月09日

フランス製サスペンス・スリラーの秀作 ”Tell No One” 4月4日DVD発売

「主人公が動き回る映画」を好むものにとって、その手のジャンルという触れこみで封切られた今のフランス映画にはどうも関心しませんでした(ベッソンとその傘下の映画が肌に合わないこともありますが)。キビキビとしてスカッと腑に落ちて、フランスでしかお目にかかれない渋い男とイイ女が絡み合う映画がみたいのに、どうも巡り会わない。60年代、70年代に作られたフランス製フィルム・ノワールは、ハリウッドでは決して作れない粋な映画として今なお新鮮なのに―もはや無いものねだりなのだろうか?そんな嘆きを解消してくれたのが、”Tell No One”(邦題は『唇を閉ざせ』。ちょっと違うのでは…)。海外で偶然見る機会があったのですが、これはとても面白かった。

唇を閉ざせ [DVD]暑い夏の夜、思い出の湖で泳ぎ戯れる夫婦。まどろむ夫を目覚めさせたのは、対岸で暴漢に教われている妻の悲鳴。助けようと立ち上がったところ頭を強打され、 意識を失う。目覚めた彼を待っていたのは妻の死という非情な現実だった。それから8年。愛する妻を救えなかったことにとらわれ、医師として仕事だけに打ち込んできた彼のもとに、謎のメールが届く。それは死んだはずの妻の生存をほのめかすものだった…さわりの部分をまとめるとこんな感じ。

謎が謎を呼び思いがけないところへ連れていかれるストーリーのおもしろさに加え、サスペンスとしても一級の出来映え。なで肩で、“フランス流に洗練されたダスティン・ホフマン”をといった感じの主演俳優、フランソワ・クリューゼが体を張って、ここまでさせるの!というぐらいの運動量をこなしています。大柄でないことを逆手に取って街を走り回るシーンは、見ている方も横っ腹が痛くなりそうなほど。悪役も、ハリウッド映画ではお目にかからないタイプが登場。相手を制圧する方法も意表をついていて、実にコワい(どうコワいかはぜひご自身の目で見て頂きたい。ああいう目には合いたくないもの)。

謎が解けてゆくにつれて浮かび上がるのが、登場する人々の様々な「愛」の姿。奪われた妻を求めて嵐の中に身を投じる男の「愛」。妻の親の、娘に対する「愛」。そして闇に潜むもう一つの「愛」。複雑に絡み合った色合いの異なる「愛」が、映画をより深く、官能的なものにしています。この野心的な試みが成功したのは、フランス映画だからこそ実現できた個性あるキャストのおかげかもしれません。とりわけ女達の魅力的なこと!主人公の妻を演じるマリー=ジョセ・クローズのみずみずしいサマードレス姿も印象的ですが、クリスティン・スコット・トーマスが最近の傾向とは違う、ちょっとハジけた女性を演じているのもおもしろい。  

音楽の使い方にもご注目を。上質のヨーロッパ映画に共通して言えることですが、アメリカのポップスの取り込み方は、ハリウッド映画より数段すぐれているのではないでしょうか。歌詞や演奏するアーティストのイメージに捕われすぎないで、音そのもののもつセンシュアルな面も計算に入れて使っているように思います。この作品の通奏低音となっているロマンティックな感情を支えているのは、アメリカ製の音楽なのです。 

また、雑誌やセレクトショップのディスプレイで見慣れた「お洒落フランス」の枠外にある、リアルなフランスが垣間見れるのも興味深い。フランス人もU2が好きだし、インターネットカフェに行くし、みんながみんなこじゃれた格好をしているわけではないんです。(このへんの「普通」さが、日本でまともな劇場公開が見送られた理由のひとつかも。)

レコ屋の店主の殺し文句「あるうち買うときヤ!」ではありませんが、「見れるうちに見ときヤ!」と今回ばかりは声を大にしていいたい。これはフランス映画として作られたからこそ上手くいった、大人のための映画です。くれぐれもお見逃しなく。

トレイラーはこちらで。海外向けの方を選んでみました。その気になったら、こちらをチェックせずにおくことをオススメします。

http://youtu.be/ryMVzQsTmZY



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posted by cyberbloom at 00:00 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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