2006年09月17日

あるフレンチ・ラッパーの裏切り(2)

しかし、これまでラッパーと右派政党とのあいだに親和性が全くなかったわけではない。ラップはフランスのナショナリズムを揺るがす象徴でありながら、一方でそれを担う役割も果たしてきたのだ。

例えば、MC Solaar は洗練された文学的なラップで知られているが、1994年に国民議会の演説で当時の文化大臣、ジャック・トゥーボンがフランス語の擁護者としてSolaarソラーの名を挙げ、「現代のランボー Nouveau Rimbeaud」と賞賛したのは有名なエピソードだ。ソラーはフレンチ・ヒップホップの系譜よりも、レオ・フェレ、ジョルジュ・ブラッサンス、セルジュ・ゲーンズブールなどのフランスの伝統的な詩人=ミュージシャンの系譜に数えられたりする。またル・モンドがアルバムや発言を紹介したり、高校や大学でソラーのラップが授業の教材として取り上げられたり、インテリ好みのラッパーだ。当然、その一方でハード系のラッパーたちからは、システムへの妥協だと非難される。

フランスのポストコロニアルな状況において、移民系のミュージシャンが、アメリカの黒人文化に端を発するラップという形式を用いて、フランス語を新鮮に響かせ、言語を通したナショナリズムの顕揚に動員されるという興味深い事態に注目しよう。一方で、Daft Punk ダフトパンクのようなグループ(フレンチ・エレクトロが富裕層の子弟によって担われているという指摘もある)が、英語で歌ったり、日本のアニメーターとコラボしたりして、脱ナショナルな、グローバルなものを志向している。

フランス文化の保護を目的としたペルシャ改正法という法律がある。放送サービスにおけるバラエティー音楽番組は、視聴率の高い時間帯(6:30-22:30)において最低40%をフランス語表現の歌とし、そのうちの半分はゴールドディスクを取っていないアーティストか、正式に発表されてから6ヶ月に満たない新曲とすることが、この法律によって定められた。つまりこの法律が意図するところは、圧倒的な力を持つ英米音楽から、フランス語によって表現される音楽を保護し、フランスの若いミュージシャンを育成することである。

このペルシャ改定法は一方でフランスにおけるヒップホップの普及に貢献したと言われている。フランス語の新しい曲のレパートリーを要求するその法律が、フランス語で歌われるマイナーなヒップホップの発掘を促したからだ。それはヒップホップを聴く層とラジオを聴く層がある程度一致していたからなのだろう。ラジオを聴くのが好きというより、CDが高価すぎて買えないという層も確実に存在するのだ。しかし、フランス語で歌われているとはいえ、ヒップホップというNY生まれの、それも移民系のミュージシャンによって担われる音楽が普及することを、この法律は果たして望んでいたのだろうか。

98年のワールドカップのフランス大会での優勝時に、シラク大統領が多民族で構成されたナショナル・チームを通して多民族国家フランスをアピールしたこと。あるいはイラク戦争に反対する立場を取ったシラク大統領が移民系の人々の支持を集めたこと。このようなナショナリズムのねじれ現象を私たちは頻繁に目撃する。19世紀的な、国民国家的なものが空中分解しているのを目の当たりにする一方で、現在のフランスのナショナリズムが、それまで排除されていた人々をも動員しながら、巧みに演出されていることを見逃してはならない。


cyberbloom

banner_02.gif
↑クリックお願いします!
メイン・ブログ-FRENCH BLOOM NET を読む
posted by cyberbloom at 12:05 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(1) | 時事+トレンド特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

日本版CIA?軍事?
Excerpt: 軍事費約4.4兆、GDP比1%。TOP10の国でGDP比は最下位だった。もちろん、軍事の事に口を出すつもりはない。私はどれぐらいの費用を費やすべきなのかは分からないからだ。 アメリカは約60兆、中国..
Weblog: 日本大改造〜立ち上がれ日本人〜
Tracked: 2006-09-17 18:16
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。