2006年08月29日

新刊「夢見た日本」小山ブリジット


夢見た日本
夢見た日本
posted with amazlet on 06.09.05
小山 ブリジット
平凡社 (2006/07/25)

そもさん。せっぱ。これなあに?

(1)「魚の小さいパイのようなもの」
(2)「あぶった海藻の葉のなかに米飯を小さく巻いたもの、なんというか黒い腸の皮の中に白い腸詰を入れたような具合の代物」

じっちゃんの名にかけておわかりになりましたでしょうか?(1)は天ぷら。(2)は巻寿司でした。産湯につかってからこっち、天ぷらや寿司を見たことないお人がおるとして、さてそのかたがこいつらを描写すれば、なるほど合点承知の助といった言葉つかい。さもありなん、これはフランス人エドモン・ド・ゴンクールの日記(1878年11月6日付、斉藤一郎訳を拝借)のひとこまっすわ。

「なんというか黒い腸の皮の中に白い腸詰を入れたような具合の代物」…巻寿司をソーセージにたとえてる…奥ゆかしいポエジーがあるね。こうもり傘とミシンの結婚とまではいかんけど、巻寿司のネタに魚肉ソーセージっちゅうのは韓国では定番やし、それを見越したご意見としたらそら恐ろしくてワクワク膝が震えるぞ。あと「魚の白や緑の煮こごり」なるものが日記に登場してるけど、白は白身として、緑はなんぞや、バカな、にがだま(胆のう)か? なんやろ、気になる、ちゅーねん。

ま、それはとんかく、これら日本料理はエドモンさんのお口に合わんくて贔屓筋とはいかんかった。エドモンさん(1822-96)は弟ジュールくん(1830-70)と一緒にゴンクール賞をこさえた人。ゆうても二人とも彼岸に旅立ってからできたんやけどね、今年フランスでごっつう良かった小説にあげちゃうで賞がゴンクール賞、小説のアカデミー賞みたいなんかな、結構なお歴々が受賞してる。

死んで名を成すのとちょい違う。当時の文壇でもそうとうの大御所で、フロベール、ユゴー、ゾラ、ドーデ、マラルメ、ユイスマンス、ドガ、ツルゲーネフ、ロダンなどなど、そらもう、きら、星のごとき交友関係が日記にうかがえる。それよりなにより、だいの日本好き。ムシューとニッポンはエイドリアーン、ロッキー、エイドリアーン、ロッキーなのだ(日本に来たことなく、日本語ちんぷんかんぷんやけどそれが逆にプラトニックな憧憬をかき立てたんやろね)。

日本を愛した異人さんといえば、KWAIDAN好きのヘルンさんこと小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)などおるけど、エドモンさんは怪談やなくて浮世絵や工芸品に目がなくせっせせっせと「屋根裏部屋」にためこんだ。浮世絵を目にして印象派は、こっちもやったれと奮起し、工芸品にかぶれてアール・ヌーヴォーがごそごそうごめき出す。ジャポニカ学習帳、もといジャポネズリー、ジャポニスム(日本趣味)のはじまりはじまりの立て役者の一人。

「ある芸術家の生涯を研究し論じた書物のことをモノグラフィーという」らしい、大層やな。「その意味で美術史上はじめて「存在する」ことになった日本の画家は喜多川歌磨である」とはゴンクールの『歌磨』の訳者の弁、へー、歌磨か。大枚はたいた日本美術コレクションが元手となって、ゴンクール賞関係がうまれたというのは複雑なとこあるけど、不満はここ(↓)。

「魚の好きな民族は、すべて繊細な好みを持っている」と言いながら(ゆうてるらしい、未確認)、天ぷらに寿司をけっちんしてるとこ。エドモンさん、そらないで。今じゃ、それなりに皆はんよろしくしてるのに。そや、高野(こごり豆腐)の天ぷらをご馳走したろ。ここらではその名もオランダ揚げ。やっぱダメかな。

□BOOK INFO:「夢見た日本」小山ブリジット(平凡社、新刊)
★19世紀末フランス、ジャポニスムの最重要人物のひとり、文豪ゴンクールと、彼の日本美術研究に大いに協力した、明治日本最初の国際美術商、林忠正。二人の相互交渉をフランス人研究者が捉え直し、ジャポニスムの生きた姿かたちを評伝スタイルで鮮やかに描き出す。第23回ジャポニスム学会賞受賞作の邦訳。(Amazon.co.jpより)


木魚

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posted by cyberbloom at 23:18 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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