2006年08月09日

記憶のなかのワイン 2006

最近、いろんな理由がいっぺんに重なって、ワインを全然飲んでいないので、今回は「記憶のなかのワイン」という昔の話題をひっぱり出してきて、少し埃を払ってからご賞味いただこうと思います。時間が経っているので、話の中味が熟成、もしくは変質しているかもしれません。

【記憶のなかのワイン】
フランス国内に限っても「女王」ボルドー、「王様」ブルゴーニュだけではもちろんなく、ほんとうにいろんな産地で美酒が今まさに生まれていて、また「赤」と「白」、そして「ロゼ」の区別もあるなかで、まったく個人的な好みでボルドーやエルミタージュの赤が好き、ブルゴーニュはどうも好きになれない。白はどうしてか外れることが多いので、あまり飲まないという偏った好みではあるのですが、フランスって奴に関わって、いたずらに歳をとっていくと、むやみに飲んだワインの数も増えていくわけで、これまでに1000本を超える酒瓶を転がしてきました。そのなかで、一番美味しかったワインは何か。

たとえば、ボルドーのワインはブドウの品種をいくつか混ぜて醸造しています。主要な品種だけでも6種類。「シャトー」の個性によって、それぞれの「アッサンブラージュ」(ブレンドの仕方)を持っていますから、たとえ畑が隣り合っていても、全然違う味・香りのワインが育ち、個性を主張し合っているというわけです。収穫年によってもブドウの出来が変わるので、一口にボルドーといっても、値段だけでなく、味も千差万別。それこそ無限の楽しみがぼく達を待っています。自分の好みのワインに出会ったときは、この上なく幸せな気分になります。Le bon vin rejouit le cœur de l’homme (美味しいお酒は人の心を楽しませる)、まさにこれです。

さて、ぼくが出会ったワインのなかで、最高にすばらしかったと断言できるワインがひとつだけあります。Haut-Medoc 地区の Château d’Arcins の 96年もの。このシャトーのワインはその後も毎年、欠かさず飲んでいるのですが、96年の味は忘れることができません。というか、記憶のなかで何度も味わい直すしかないワインなので、いまでは幻想も混じっているかもしれません。でもこれがぼくにとっての最高のワインです。飲めないほどに、思いは募るのですね。

フランスには「ニコラ」 Nicolas という名前のワインのチェーン店がたいていの街にあります。それぞれの店主は自分なりのこだわりでワインを仕入れ、売っているようです。96年の Château d’Arcins ともクレルモン・フェラン近くの小さな街の「ニコラ」で出会いました。試飲会 dégustation があると友人に連れていってもらったのですが、そこの主人がほんとうに愛おしそうに << Ma mignonne >> といいながら紹介してくれたのでした。彼にとってはまさに愛娘。ぼくはその陽気なワイン屋のおやじが大事にしてきたかわいい娘に一口で恋をしたようなものでした。初恋がそうであるように、きっとぼくのなかではいつまでも何ものにも変えがたいワインなのかもしれません。

ワインを飲むことが周期的にブームになって、びっくりするほど売れたりするのは、とっても日本的な現象だと思いますが、そういった流行廃りをくり返しつつも、ワインを楽しむ習慣が日本でも広まっていくのは歓迎です。自分の気に入ったワインを、ちょっとした料理といっしょに味わう。こんな素敵なひと時がほかにあるでしょうか。

ちなみに、ぼくの恋焦がれる d'Arcins 96年のお値段は1500円ほど。高値の華のように美く高貴なワインを飲んだこともあるけれど、自分としっくりくるワインが一番だと思うのです。ということは、ワインを飲むことは自分のことと他者のこととを知ることでもあるのか? 人間模索の日々は続く。

いつの日か、記憶のなかのワインと同じ、あるいはそれ以上のワインと再び出会うまで。


P.S.−先日ニュースで「ワイン王国」フランスの低迷が報じられていました。国際ワイン機関 (OIV) の統計によると、2005年のワイン輸出量・生産量共にイタリアに首位を奪われ、輸出量はスペインにも抜かれてしまったというのです。生産量は天候に、輸出量は市場に左右されるので、2005年の結果だけでどうこう言う必要はないように思うのですが、王者の転落はいつも大げさに報じられるものですね。曇りや雨の日もあれば、晴れる日もある。きちんとした誠実なワイン造りを続けていけばなんら問題はないはず。

ところで、気になったのは、「関係者は銘柄が多すぎて消費者に混乱を招いているなどの問題を指摘している」という低迷の理由づけ。もちろんそういう側面はあるかもしれませんが、いかにも消費者を馬鹿にした言葉じゃないですか? 自分の飲むものは、宣伝や説明を参考にしたとしても、少なくとも瓶を手にした瞬間から「自分で」選んだという気概を持ちたいものです。美味しいワインを飲みたければ、失敗も重ねなくっちゃいけません。




PST

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posted by cyberbloom at 23:37 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | CAFE+WINE+GOURMET | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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