2006年07月07日

フランスのオタク文化(1)−子供の発見

ぞうのババール 1 ~いざ出発! 冒険の旅へ~黒猫亭主人さんが「さらばシベリア鉄道」で書いていた『リベラシオン』紙の記事には驚かされた。フランスの2人の少女が日本を目指して家出をしたというのだ。マンガがあふれ、雅(Miyavi)が歌い、人々が素敵な暮らしをしている日本に憧れて。それも、陸路をシベリア鉄道経由で!

なぜ、日本のサブカルチャーが16歳のフランスの少女の心を完全に虜にしてしまったのだろうか。日本のマンガやアニメの何が特別なんだろうか。

フランスに「テレラマ」(Télérama)という中堅のテレビ週刊誌がある。この雑誌は、フランスを侵食し始めた日本のアニメを執拗に批判してきた。とりわけ、日本のアニメを流していた番組「クリュブ・ドロテ」の司会者、ドロテ姉さんに対するバッシングは凄まじく、ほとんど個人的な中傷に近いものだった。それは番組が終わるまでの10年間続くことになる。彼らの日本アニメ批判は、エリート主義が基調になっているのだが、彼らの主張には注目すべき点がいくつかある。

まず彼らは、子供というカテゴリーを12歳という線でふたつに分けている。これはフランスではコレージュ(中学校)にあがる年齢だ。この年齢から子供たちは、つまり青年期 adolescent と呼ばれる時期に移行し、子供 enfant から区別される。ロベール仏語辞典では少女に関しては12~18歳、少年に関しては14~20歳と細かく定義されている。そして、アニメは12歳以下の子供のためのものであり、その場合は何よりも教育的でなければならず、表現も一定の節度を越えてはならない。一方で、12歳以上の子供は十分成長しているのだから、アニメなど幼稚なものを見る必要はないと、彼らは主張している。

しかし、日本のアニメはそのような区分を侵犯する。アニメがそれまでフランス人に想起させたものと言えば、「象のババール」のような、小さな子供向けのヨーロッパ産のおとぎ話だった。だから、アニメが暴力やセックスを扱うなど思いもよらなかった。「テレラマ」がとりわけ憂慮したのは、やはり青年期の子供たち adolescent に対する影響である。その時期は、あくまで大人になる準備段階であり、大人になるための教化、良識ある市民の育成が最優先される。娯楽に関しては、子供は大人が与えるもので満足すべきであり、彼ら固有の文化など必要ないのだ。だから彼らは早く大人になろうとした。自立心が旺盛なのもそのせいだった。

フランスの文化は成熟した大人の文化と言われるが、その背後には、子供は入れない大人の堅固な公共性が存在していた。テレビもあくまでそれを支えるサービスであり、子供向けの番組は一定の枠と節度の中に押し込められていた。そのような条件下では、子供固有の文化が育まれる余地はない。しかし、テレビの民営化がもたらした大量の日本アニメはその構造を撹乱することになった。フランス社会はアニメのような文化のあり方が理解できなかった。いわば意表をつかれた形で、オタク文化の流入を許してしまった。大人は暴力やセックスなど、アニメの内容について激しくバッシングをしたが、最も重要なことは、大人と子供の関係を組み変えてしまったことだ。

オタク・ジャポニカ―仮想現実人間の誕生「オタク文化の魅力は、若者を子供扱いしないことや、とりわけ説教臭くないことにあるのだろう。そのうえで十代の夢をふくらませることのできる若者文化は珍しいのだ」

「オタク・ジャポニカ」の著者、エチエンヌ・バラールはこんな言い方をしている。社会から文化的に疎外されてきた子供たちは、自分たちの文化が世の中に存在しうることを知る由もなかった。彼らは日本のアニメを通して、「子供」という固有の時間が存在しうることを知ったのである。大人でも子供でもない、大人になるための過渡期的な存在にすぎなかった子供が、その多感な時期にふさわしい自分たちの文化を発見した。それは、大人と完全に切り離され、大人を目指して急き立てられる必要のない、彼らだけの居場所、立ち止まることが許された時間なのだ。それゆえに、モラトリアムを限りなく引き伸ばしたいという危険な欲望にもかられるのだ。

アニメのさらなる問題は、子供が固有の文化を享受し、関連商品を買うことで大人と同じように消費活動に参入したことにある。今や子供はマーケティングの重要なターゲットだ。それまで子供は消費なんてしなかった。アニメは何よりも成熟した消費社会の産物ともいえる。この話は、次の機会に。



cyberbloom

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posted by cyberbloom at 01:14 | パリ ☁ | Comment(2) | TrackBack(0) | マンガ+アニメ+BD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
2001年以降フランスには久しく行っていないのですが、報道されているようにオタク文化は盛り上がっているのでしょうか?。当時、ゲームメーカーに在籍し、ヨーロッパ駐在員として色々なネット系コンテンツアグリゲーターに話を聞いて回っていましたが、漫画やアニメの事を詳しく聞かれたのを思い出します。チャンスがあるなら、Japan Sub Cultureをコンセプトにしたビジネスをやってみたいと考えております。
Posted by Linkroma at 2008年12月29日 08:07
Linkromaさん、コメントありがとうございます。フランスでのオタク文化は盛り上がりの段階から、日常化している感じなのでしょうか。漫画やアニメだけでなく、ヴィジュアル系やゴシック系、さらには普通の日本の日常にも関心が広がっているようです。それがどのくらいの人間を巻き込んだレベルなのか詳細を知りたいところです。
http://jp.youtube.com/watch?v=vbjBYQXjBZE
少し古いですが向こうでこういう番組も放送されています。
Linkromaさんの盛りだくさんの内容のブログも見せていただきました。マルチプロデューサーという肩書きなんですね。これからもよろしくお願いいたします。
Posted by cyberbloom at 2009年01月05日 16:05
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