2006年05月31日

フランス語で学ぶ村上春樹

kafkarivage01.jpg今週発売の『アエラ』第27号で、「昔の『春樹』に会いたい」という特集が組まれてました。ここで言う「昔」ってのは、1987年出版の『ノルウェイの森』以前ということらしいです。この企画のためにアエラ編集部が行ったネット・アンケートのデータなんかもいろいろ出ていて、面白い。たとえば一番好きな作品は『ノルウェイの森』がトップ、そして最初に読んだ作品も『ノルウェイの森』がダントツ・トップ。これは仕方ないですかね。また、村上春樹の小説を読み返したくなる時は「昔のことを思い出した時」で、彼の小説を読んだ後は「一人旅」がしたくなるとか。福田和也と斉藤環両氏の対談や、内田樹氏の語るキーワードなんかもあり、かなり充実した内容。しかも、小森陽一氏の『村上春樹論『海辺のカフカ』を精読する』という本が平凡社新書から出たばかり。村上春樹をめぐる「冒険」はがぜん勢いを増しているようです。

世界的な作家になり、ノーベル文学賞受賞も遠くないと囁かれる村上春樹。フランスでももの凄い人気で、ほとんどすべての作品が高い評価を受けています。ぼくも何冊かフランス語版の春樹小説を持っていますが、それらを買った当時は実はそれほどでもなかったように記憶しています。小川洋子とか、吉本ばなななんかと本屋の棚に静かに並んでいた記憶があります。フランス語版のタイトルはほとんどが直訳なんですが、いくつか挙げてみると、『羊をめぐる冒険』は La course du mouton sauvage 、例の『海辺のカフカ』は Kafka sur le rivage と訳されています。傑作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』はさらりと La Fin des temps。『ノルウェイの森』は、La Ballade de l’impossible となり、これには異論のある読者もいるようです。   

それにしても、フランスに限らず、アメリカ、韓国、中国でも、国を問わずよく読まれている村上春樹。もちろん僕も熱心に読みふけった読者のひとりですので、彼の小説が世代も国境も越えて読まれ、評価されていくのはうれしい反面、最近の作品には違和感というか、反復感というか、なにかのめり込めないものを感じていて、やはりぼくも「昔の『春樹』に会いたい」ひとりなのかなと思ったりもします。皆さんはどうなんでしょう?

findestemps.jpgで、こんなにもみんなに読まれているのなら、「村上春樹で学ぶフランス語」なんてのはどうだと思いつき、思いつきでこの記事を書き始めたものの、肝心の本が見つからない。やっとのことで見つけた断片で、今回はお茶を濁して、春樹文学の名台詞たちをフランス語で味わうのはまた今度、ということで... La Fin des divagations 。代わりに、ちょっと長いですが、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』からの引用で締めましょう。

En général, je suis quelqu'un de plutôt sincère. Quand je comprends, je le dis clairement et, quand je ne comprends pas, je le dis aussi. Je ne laisse planer aucune ambiguité. Je pense que la plupart des gens dans le monde où nous vivons, qui s'expriment de façon ambigue, cherchent des ennuis inconsciemment, au fond d'eux-mêmes. Je ne peux pas penser autrement...

(私はだいたいが正直な人間である。わかったときにはちゃんとわかったと言うし、わからないときにはちゃんとわからないと言う。曖昧な言い方はしない。トラブルの大部分は曖昧なものの言い方に起因していると私は思う。世の中の多くの人々が曖昧なものの言い方をするのは、彼らが心の底で無意識にトラブルを求めているからなのだと私は信じている。そうとしか私には考えられないのだ。)[新潮文庫、上巻、87頁]

どうでしょう? 村上春樹の文体をフランス語はうまく写し取っているでしょうか?



PST

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posted by cyberbloom at 11:20 | パリ | Comment(0) | TrackBack(2) | 書評−フランス小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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内田樹を読む
Excerpt: <p>内田先生の本を紹介するサイトを作成して一応、昨日オープンさせた。</p><p><a href="http://www.uchida-tatsuru.com/">http://www.uchida-tatsuru.com/</a></p><p>まだざっくり枠組みをつくっただけという感じなので、これから肉付けしていく予定..</p>
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Tracked: 2006-05-31 21:36

村上春樹を英語で読む
Excerpt:  4月からあるカルチャーセンターで「村上春樹を英語で読む」という講座を始めようか
Weblog: 翻訳blog
Tracked: 2007-02-26 11:26