2006年05月27日

『ブログ 世界を変える個人メディア』 ダン・ギルモア

ブログ 世界を変える個人メディア先回の郵政解散後の衆議院選挙では、公示後のサイトの更新が公職選挙法違反に当たるという話が出て、サイトを通じた選挙活動の是非が問題になった。トレンドに飛びつくのが意外に得意な自民党は早くもブログに目をつけ、「メルマガおよびブログ作者と自民党幹部との懇談会」を開催した。発案の主は、世耕議員。NTTの広報課長という経歴を持ち、選挙でも自民党のメディア担当として活躍。本人もブログをやっている。そのとき懇談会に呼び出されたブログ作者の方々はあまりにナイーブだった。「ブログが政治家に注目してもらえてウレシイ」みたいな。先回の選挙で自民党が圧勝したのは、若者が大挙して投票所に行ったからと言われている。それはネット上で郵政をめぐる政治論議が盛り上がったからなのだが、それを仕掛けたのが構造改革=規制緩和を望む若いIT企業家たちだった。ホリエモンもそうだったが、彼らの多くが小泉支持だった。

その投票日は、いみじくもアメリカで同時多発テロが起こった日だった。9・11はブログ・ジャーナリズムにとっても重要な日だ。当時は、日本から見ていると、コングロマリット化したメディアがひとつの方向に統制されていて、アメリカ国民はそれを真に受けている。何て国だと思ったものだが、アメリカの主要メディアがイスラム世界への敵対心を煽る一方で、それらが決して報じることのなかった事件の背景を知ろうと、ブログを通して情報交換や意見交換が開始されたのだ。フランスがイラク戦争に反対した際に(CPE撤回で面目丸つぶれのドビルパンだが、このときは輝いて見えた!)、メディアにのせられたアメリカ人がフランス産ワインを叩き割り、フレンチ・フライド・ポテトをボイコットしたときも、その背後で心あるブロガーたちが確実にネットワークを拡大していたのだ。

普段、アメリカの悪口ばかり言っているが、たまにはアメリカ礼賛でいこう。なにせアメリカはブログ発祥の地だし、ブログは西海岸的なリベラルなツールなんだから。この事実は認めなくては。ダン・ギルモアによる「ブログ−世界を変える個人メディア」は、短いけれど波乱に満ちたアメリカのブログの歴史をおさらいすることができる。

本書の重要な指摘は、「ブログによって、ジャーナリズムのトップダウン的、講義的な伝達から、対話的なスタイルへの移行したということ」だ。未来のニュースはますます対話形式やセミナー形式に近づいていくだろう。それまでの歴史の第1稿を決めてきたのは公式な報道機関だった。つまり、権威を付与された既成メディアが一方的に報道し、視聴者がそこに介在する余地はなかった。ところが今は、新しいツールを得た普通の読者がニュース生成のプロセスになっている。

kerryfonda01.bmp先のアメリカの大統領選挙(ブッシュVSケリー)では、ジョン・ケリー民主党候補が女優ジェーン・フォンダとベトナム反戦集会に一緒に参加している合成写真が出回ったり、彼の根も葉もない不倫疑惑がネット上に流れたりした。結局、去年11月のブッシュの再選の原動力となったのは、先回と同じように富裕エリート層からの巨額な献金(お礼に金持ち減税!)で、それを使って派手なTVショーをいくつもぶちかましたのだった。まだまだ理性的な議論の広がりよりは、視覚的なお祭り効果の方が強いのだろう。しかし、ブログ・ジャーナリズムはまだ始まったばかりで、それが成熟するには時間がかかるだろう。『ブログ』によれば、アメリカの共和党はブログを「価値観の共有」のために使い、民主党は「議論のための開かれた場」として使っているようだ。党のカラー、そのまま。

『ブログ』にも取り上げられている、世界の「オンラインと政治」の深い関係を列挙してみると、

☆共和党大統領候補をブッシュと争ったマケインは空前の640万ドルの献金をオンラインで集める。
☆イラク戦争にひとり反対していたディーン民主党大統領候補が、ブロガーたちの支持と活躍によって全米レベルで名声を上げる。奇跡として語り継がれているらしい。
☆イラク人捕虜虐待事件が明るみに出たのも、証拠写真がネット上に流出したのがきっかけ。あの事件も「カトリーナ」級のダメージをブッシュ政権にもたらした。
☆トレント・ロットという共和党上院議員の黒人差別発言を主要メディアは見過ごそうとした。しかし、ブロガーたちがそれを激しく糾弾し、怒りの連鎖がひろがって、ロット議員が失脚。
☆世界が震え上がったSARS(悪性の肺炎)の流行も、中国政府が必死に隠そうとしたのを、ネット上を情報が漏れ出していった。
☆盧泰愚韓国大統領の当選を、読者投稿によるオンライン新聞「オーマイニュース」が大きく後押し。「オーマイニュース」は韓国全土に張り巡らされた世界最先端の通信インフラを最大限に活用した。
☆フィリピンでは「エドサ(通り)に行け、黒を着ろ」というケータイのチェーン・メールが発信され、4日以上に渡って、黒い服を着た100万人を超える市民が通りに集結。腐敗したエストラーダ政権が崩壊する。

ブログを通して読者が生成過程に参加するのはニュースの世界だけではない。「ブログで商売」というと、アフィリエイトやネットショッピングを思い出すが、ブログを通してユーザーが製品の開発や改良の過程に参加することも起こっている。その筋のマニアの英知とユーザーの要求をブログに結集させて新製品の開発や既製品の改良に役立てようという動きだ。消費者が大量生産品を一方的にあてがわれた時代(フォーディズム)から、緻密なマーケティングによる少量多品種生産時代(トヨタイズム)を経て、ユーザーが生産に参加する新しい局面に入っている。もはや個人は消費者という一面的な役割を担わされるのではなく、能動的に、多面的に自己を展開できる。これは大きな変化だ。

この本はホリエモンも推奨しているようで、買ったときは、ホリエモンが本の帯で「脱構築せよ!」とニッコリ笑っていた。今やホリエモン自身が別の方向へ脱構築してしまったが、まだ同じ帯をつけて売られているのだろうか。

ブログ 世界を変える個人メディア
ダン・ギルモア 平 和博
朝日新聞社 (2005/08/05)
売り上げランキング: 4,932
おすすめ度の平均: 4.5
4 テクノロジーの進歩がジャーナリズムに及ぼすインパクト
5 技術論から見た倫理の書

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posted by cyberbloom at 23:12 | パリ ☁ | Comment(2) | TrackBack(3) | WEB+MOBILE+PC | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
非常に興味深い記事です。この記事を見る限りでは、先の大統領選挙で、ブログの力は政治を変える一歩手前まで行った印象があります。韓国のIT選挙が成功したのは、オンラインニュースと掲示板の力だったそうですが、それもやはり双方向の情報伝達の力ですね。この一年は来年の参議院選挙に向けて、ブログの力が試される時期なのかもしれません。やはり今回共謀罪をもし止めたのだとしたら、ブログの力だった気がさらにしてきました。なぜなら、アメリカの動きをもっとも気にしているのが、自民党だから。
Posted by KUMA0504 at 2006年05月28日 00:16
恥ずかしながら「共謀罪」などというとんでもない法案について知ったのは、あの「きっこのブログ」を読んだおかげでした。それまで全然知らなかったのが情けなかったです。日本の既成メディアがだらしなさすぎるせいもあって(報道すら「ヤラセ」だらけらしいですしね)、個人ではフォローしきれてないトンデモ法案がまだまだあるのでは、とますます「きっこの日記」は私の生活に必要不可欠なものとなってます。KUMA0504さんもおっしゃるようにブログの力は今後日本でも大きなものになっていくのでしょうか。だといいのですが。
Posted by noisette at 2006年06月18日 15:18
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