2006年05月12日

カンヌ映画祭特集(4) 今年の審査委員長はウォン・カーウァイ

一昨年のカンヌ映画祭で木村拓也が赤い絨毯の上を歩いていて、「何で?」と思ったら、カーウァイの「2046」に出演していたのだった。この映画は下馬評が高かったが、結局2004年のカンヌでは何の賞も取れず。カーウァイはだいぶ前からキムタクに目をつけていたようだ。彼の演技は、賛否両論だったが、中国の俳優・女優たちの圧倒的な存在感(「SAYURI」にも出てるチャン・ツィイーの壮絶な表情ときたら!)に対して、木村拓也の薄っぺらな、存在感のなさが対象的だった。これは別に悪い意味ではなく、中国から見た日本人像みたいなものが反映されているのだろう。

faye02.jpg

つまり、キムタクが演じているのは先端技術が普及した未来国家の、自我の希薄な若い男。彼は2046年から帰還できた唯一の人間で、映画の中で日本は未来に位置づけられている。だから、彼は2046年に向かう列車のシーンと不思議な親和力を発揮している。これまた日本=未来というような、ポストモダン神話が復活してしまいそうな話だが、それを60年代のレトロな香港と対比させて描く、強烈なコントラストも何だか分けわかんなくて凄い。とはいえ、見所はやはり、お子ちゃまはおとといおいでって感じの、恋愛の酸いも甘いも知り尽くした大人にしかわからない、匂いたつほど官能の世界。

言葉の問題もあるだろう。アクセントの強い広東語が響いている中で日本語を聞くと、キムタクの話し方のせいもあるのだが、一種の軽さというか、はかなさを感じてしまう。これは私が広東語がわからないせいもあるかもしれないが、ああいうパースペクティブから日本語を聞くのも独特な体験だ。

「2046」はフランスもかんでいる多国籍合作映画。今回、カンヌで審査委員長を務めることになったが、カーウァイにとってフランスは重要な国だったはずだ。カーウァイ人気はフランスでまず火がついたと言われている。それまで香港映画と言えば、ブルース・リーやジャッキー・チェンのようなカンフー映画しか連想されなかった。カーウァイは映画を通して、アジアの若者の生態やライフスタイルをヨーロッパに知らしめたと言える。つまりは、アジアはいつまでもヨーロッパの観客のエキゾチズムの対象ではなくて、ヨーロッパの若者と同じように恋をし、ライフスタイルを楽しんでいるんですよ、というアピールだ。グローバリゼーションの進行によって、西洋も東洋もさほど違いがなくなり、グローバルな日常やそこから生じる問題意識が共有されているということだ。

フランスは自国の映画だけでなく、他国の映画の紹介にも熱心で、フランスに行くといろんな種類のアジア映画を見ることができる。カーウァイは明らかにヨーロッパの観客を意識した映画作りをしており、自国よりもまずヨーロッパで「発見」されたという意味で、これまたヨーロッパで絶大な人気を誇る北野武(あざといくらい意識してる)と共通点がある。北野武の方は特にイタリアで人気が高いせいか、ベネチアの方に縁があるようですが。

「In mood for love〜花様年華」(2000年)はフランスで70万人を動員。「天使の涙」(1995年)は公開時にパリで見たが、ブームと言えるほどの人気ぶりで、街中にポスターが貼られていた記憶がある。この作品と「恋する惑星」(1994年)には、日本のドラマでもお馴染みの金城武が出演しており、彼はカーウァイによって見出された俳優のひとりだ。「恋する惑星」にはモンチッチ頭のフェイ・ウオンも出ていて、ケチャップの瓶を振り回しながら60年代の名曲「カリフォルニア・ドリーミング」に合わせて踊るシーンが素敵だ。フェイは「2046」にも出演。未来へ向かう列車の中の、アンドロイドになった姿(写真、上)が悲しい。

タランティーノが審査委員長を務めた2004年は、彼のアジア趣味が受賞作品の決定に大きな影響を及ぼした。今年の選考にはカーウァイの意向がどのように反映されるのだろうか。

ウォン・カーウァイ スペシャルコレクション / 『2046』<=>『in the Mood for Love ~花様年華』
レントラックジャパン (2005/04/27)
売り上げランキング: 12,468
おすすめ度の平均: 5
5 所有することの優越感!

cyberbloom

banner_02.gif
↑クリックお願いします!
Jump to French Bloom Net 「週刊フランス情報−リュック・ベッソンの6年ぶりの新作、アンジェラ公開」
posted by cyberbloom at 22:06 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック