2006年05月03日

管理社会とデモ−フランスのCPEをめぐるデモ(3)

cpe03.jpg先日、学生とフランス語の読み物を読んでいたら、「教育は民主主義の基礎だ」という一節と遭遇した。あまりに当たり前のことだが、愕然とした。フランスの教育の理念は、個人が外の世界で起こっていることを知り、得た情報によって判断し、自分の意志で投票できるように、個人のポリティック・リテラシーを鍛えるということなのだ。ドビルパンはCPE法案でボロボロになったが、社会的な合意形成のためにオープンに問題を投げかけた。ところが日本では、国民の合意や議論がないまま、というより、なるべく人目に触れないようにこっそりと重要(トンデモ)法案が通る。教育基本法を見直すらしいが、そういう国の教育理念はそういうインチキな手続きに見合ったものなんだろう。

民主主義的な精神を育てるどころか、日本の集団主義的な管理教育は自分の意見を表明する態度を抑圧してきた。日本人のデモに対する違和感や反発はフランスと全く逆の意味での教育の成果なのかもしれない。まるで自ら率先して権力の手先になっているとしか思えないほど、デモやストライキに対して、「暴力はいけない、他人に迷惑をかけるな、社会秩序を守らなければ」と言う人が多い。一見、美徳のようにも聞こえるが、管理教育の洗礼を受け、管理社会に慣れ切ってしまって、管理する側の視線を自分の中にとりこんでしまっているとも言える。つまり、管理する側の視点に立って、自分が何かはみ出したことをしていないか、絶えず自分の行為を自動的に検閲する。その視線は他人にも向けられる。そうやって相互監視的に社会秩序感が作られている。そういう感覚からすれば、確かにデモは許せないものだろう。さらに共謀罪法案(目下審議中!)なんか通っちゃったら、さらに息苦しい社会になるだろうね。

ところで、フランスの一連のデモのさなか、朝日新聞に「自由な意思表示は民主国家のあかしだ。同時に街頭で国が動かないようにする知恵が、議会制民主主義ではなかったか」(4月2日付、もう1ヶ月も経ってる!)と書かれていた。朝日らしいごもっともな意見であるが、それは議会制民主主義がうまく機能していることが前提になる。どの政党が直接、失業中の若者の声を反映できるのか?彼らは直接声をあげるしかない。それが彼らの心情にいちばんしっくりくるし、自分たちの問題は自分たちでアピールするということだ。どの国でも既成政党が個人の多様な立場や要求を反映できなくなっている。私たちにしたって、選挙があるたびに、政党が的確な選択肢を用意してくれない、他の誰かに託せないという思いは強くなるばかりだ。投票に行くことは確かに重要だが、それが唯一の政治行動ではない。政治的表現は多様であっていい。それは個人のレベルで表現されてもいいし(例えば、ブログ、そして音楽。次回のテーマです)、同じ思いを持った同世代のレベルで連帯することも担保されてもいい。先のエントリー(1)でフランスの高校生の組合の話に触れたが、彼らが求めているのは「同世代だけがわかる途方もない連帯感」だ。失業中という孤独で、失望した状態ではなおさらなことだ。デモを学生の単なるお祭り騒ぎだと批判する見方もあるが、身体性や情動性が介在するという意味で、デモがお祭りに近いというのは、ある意味当り前のこと。この心と身体の連帯感がデモの重要な要素であるのだが、管理社会の中で「分断」され、人間不信になっている日本人はそれを知らない。今回のデモも一過性の行動にすぎないとしても、背景には若者による若者のための組織化の模索がある。フランスの高校生はアムステルダムに国際本部を立ち上げ、西欧各国の高校生組合と提携を進めているという。また学生たちの活動は「もうひとつのグロバーリゼーション alter-mondialisation 」の動きとも連動している。これは世界的に展開している、アメリカ式のグローバリゼーションとは違う形のグローバリゼーションの模索だ(これについてはまた別の機会に)。朝日の記者は「グローバリゼーションに合わせなければ国がもたない」とそれを自明のように書いてたが、それこそ思考停止というものだ。

しかし、デモをやっていた学生たちも新しい状況を考えざるを得ないのは確かだろう。ブルジョワの子弟が中心だった68年とは明らかに違う。今回共闘した左派政党や労働組合とも利害は一致しているわけではない。労働者の権利が手厚く保護されていることが結果的に若者へのしわ寄せになっているのだから。さらに移民系の若者との関係もある。今回のデモにはカスールcasseurと呼ばれる移民系の「便乗破壊強盗集団」が紛れていて、パリの一般市民だけでなく、デモに参加した学生たちも餌食になっていた。まさに外からは、矛盾や対立を抱えた混沌にしか見えないのだが、デモをやらなければ、何が問題なのかもわからないだろう。そうやって噴出し、表面化した矛盾によって、主体や関係の組み換えが起こりうる場なのだ。

もしデモがだめだとしても、私たちにはブログがあるではないか。というか、ブログぐらいしかないのではないか。(続く)

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posted by cyberbloom at 23:19 | パリ | Comment(2) | TrackBack(2) | 時事+トレンド特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
TB&コメントありがとうございます。
CPEの記事とは別に、「共謀罪に反対しよう「 Vフォー・ヴェンデッタ」」の記事もTBさせてください。
この映画の元ネタは「岩窟王」です。きっとお気にいるのではないかと思います。わたしの記事には映画の解説はほとんどありませんが(^^;)共謀罪を宣伝するために映画ブロガーにTB送りまくったところ、80近い記事が集まっています。いくらでも詳しい記事がありますので、そちらをご参考に。
Posted by KUMA0504 at 2006年05月07日 19:34
KUMA0504さん、コメントありがとうございました。共謀罪を宣伝するために映画ブロガーにTBを送りまくるなんて、すばらしい戦術ですね。「Vフォー」はまだ見てないですが、岩窟王なんですね。TBはご自由にお送りください。
Posted by cyberbloom at 2006年05月09日 23:22
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