2006年04月15日

誰がブログで表現するのか?−「ウェブ進化論」を読む2

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まるニュース番組のコメンテーターにある日、大学教授の肩書きがついているのに気がつく。大学もメディア露出度の高い人間を欲しがるのだろう。肩書きがあろうがなかろうが、発言している内容は同じなのに、みんな虎の威を借りて発言したいらしい。大学とメディアは同じ既得権益者として相互に権威を調達し合いながら、権威を補強する関係にある。そうやって自己演出している。

アメリカは自己アピールの強い国なので、本名でブログをやる人間が多いという。一方で日本はハンドルネームを使うケースが多い。それは日本ではアイデンティティーを特定させないことが逆に武器になるからだ。先進国の中で日本ほど男女差別、年齢差別、社会的地位による差別がひどい国はない。対面的に自分の立場をさらしてしまった場合、「女のくせに」「若造のくせに」「下っ端のくせに」というあからさまな態度をとられる。もうそこで発言する気が失せる、言葉を奪われるのだ。「語っていいのは俺たちだけだ」と言わんばかりに、だいたいどの組織でも年配のオッサンたちが言論サロンを作り、表現の独占をしている。リベラルな議論を売りにしているトーク番組でも構成はほとんど変わらない。

いくらプロフィールが書かれていても、ブログの書き手の立場を判断することはできない。対面的な関係のように、相手をカテゴライズする情報が少なく、自分と相手との関係を明確にできない。偽装することだって可能だ。そういう相手との関係が宙吊りになる不透明さもブログの楽しみのひとつなのだ。ブログに関してもフレーミングや誹謗中傷の問題がなくならないのは、相変わらずそこに上下関係を見出そうとする人たちがいるからだろう。相手に付け込むスキを見つけ、自分より格下だと判断したとたんに、徹底攻撃を開始する。そういう行為に走る人間は同じような攻撃にさらされている人間だったりする。

既成メディアは「ブログの情報はカスばかりで、信用できない」と言う。それは書き手の立場が明確でない、つまりは権威の保証がないということだろう。それこそ、オマエが言うなって感じだ。権威を傘に来た報道ほど信用できないことを、私たちは様々なケースにおいて見せつけられている。そもそもアメリカでブログ・ジャーナリズムが開花したのは、9・11後のメディア規制下においてだ。あのとき、「アメリカ国民はメディア・コングロマリットの一方的な報道に騙されてかわいそうに」と日本から見て思っていたが、「郵政選挙」の過程などを見るにつけ、日本のメディア環境もアメリカと大して差はない。結局は、発言する相手の立場ではなく、複数の発言の内容を突き合わせて判断しなければならない、というメディアリテラシーの基本に私たちは立ち返るだけなのだ。

ブロガーの母集団が増えれば、質の高い議論も高い頻度で現れる。著者によれば、「ネット上で議論された成果が、専門家の業績をしのいでしまう」ことも実際に起こっている。日常的現実を解釈している一般人の実践的知識(日常生活の中で様々な問題にぶつかり、それを考え、解決しながら学んだこと)と、専門家の科学的知識(特に人文系の学問)にはほとんど差がない。そういうことをブログは暴露してしまう可能性がある。これは恐るべきことだ。専門家が話すことを、「そんなこと偉そうに言わなくても、考えればわかることじゃないか」と思った経験は誰にでもあるだろう。ネットによって横がつながることで、「王様はやっぱり裸だったんだ」とバレてしまうのだ。専門家よりも素人の方が優れていると言っているわけではない。偉そうにしゃべるとか、専門用語や勿体ぶった言い回しを使うとか、専門家になるための手続きや、専門家としての振る舞いが疑問に付される。つまりは素人と専門家の定義、そのカテゴリーの境界がずらされてしまうということなのだ。それに私たちが日々直面する問題は、ある専門分野にきちんと収まるものではない。カテゴライズ不能な、様々な分野に足を突っ込んでいる問題であったり、個人の置かれている条件によって特殊化されていたりする。そのような問題を考える場合、専門家の知識は使い勝手が悪い。様々な立場の人間がネット上に積み上げた議論や、そこから導き出された成果の方がはるかにタメになる。何よりも、そのプロセスに参加できることが楽しいのである。


cyberbloom

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posted by cyberbloom at 22:14 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−グローバル化&WEB | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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