2006年04月11日

『年収300万円時代を生き抜く経済学』

日本は去年、3万4千人という、小さな地方都市の人口が消失したくらいの自殺者を輩出した。警察庁によると、リストラによる失業が原因で自らの命を絶つ中高年サラリーマンは年々増えているそうだ。

仕事があるうちは血反吐を吐きながら働き、運悪くそれを失ったら死ぬしかない…と言うのが、終身雇用制度が崩壊した時代のサラリーマン像。仕事人間は家族との信頼関係を築いてこなかったから、自殺を思いとどまらせる絆もない。

さらに酷い時代が来ようとしている。1億総中流社会はすでにアメリカ型の階級社会に移行しつつあり、最終的には大半を占める負け組みサラリーマンと少数のお金持ちの勝ち組という形で階層が固定してしまう。小泉首相の構造改革ってまさにこれ。その証拠に長者番付が廃止される。個人情報の保護とか言っているけど、あんなの発表し続けたら、暴動が起こるだろう。長者番付は「誰でも頑張れば、ああいうふうになれますよ」というメッセージでもあったんだから。

そしてサラリーマンの平均年収は、現在の半分くらいの300万円まで落ちてしまい、さらにはフリーターやニートというさらに低い所得者層ができてしまう。国際競争に勝つにはリストラ(人件費削減)して、雇用を流動化(正社員を減らして、派遣やバイトを増やす)させなくてはというのが、企業の言い分。

じゃあ、どうすれば?

心配はいらない。そういう価値観から降りちゃって、もっとラテン的に生きればいいのだ。つまりは仕事以外のすべてを犠牲にしたあくせくした人生から降りてしまえということだ。ヨーロッパのラテン系といえば、フランス、イタリア、スペインなど、生活をエンジョイしている人たちというイメージがある。まさに彼らの年収の平均は300万円くらい。フランスでは5週間のヴァカンスが保証されているが、みんなが別荘を持っているわけではなく、お金のない人はないなりに楽しんでいる。お金持ちなんてつまらない見栄のために、どうでもいいお金を使っているわけだから。

ところで森永氏は県民別ラテン度という興味深いデータを出している(ちょっと眉唾)。失業者の数に比べ自殺者が少ない県を上位から並べているのだが、断トツの1位が沖縄。関西では奈良が2位、大阪4位、兵庫9位。なるほど関西人はラテン系なのか。

最近の森永氏は「負け組みになるのがいやなら知恵を絞って金を稼げ」(『庶民株!』)と方向転換とも取れる発言をしている。それもいいけど、拝金主義から降りて、ラテン的に生きる術を考え抜いて欲しかった。ともあれ、売れっ子経済評論家のベーシックな考えが示された一冊。
 
新版 年収300万円時代を生き抜く経済学
森永 卓郎
光文社 (2005/05/10)
売り上げランキング: 4,694

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posted by cyberbloom at 22:11 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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