2006年04月09日

『家なき娘』エクトル・マロ

enfamille01.jpgフランスの小説で最初の愛読書は何だったか、ということを考えてみると、私の記憶に浮かんでくるのは『家なき娘』です。『家なき子』なら知ってるけどこっちは知らない、という声が聞こえてきそうですが、アニメ「ペリーヌ物語」の原作だと言ったら、内容を知っている人も多いのでは? 実は『家なき子』と『家なき娘』は著者が同じで、それぞれ"Sans Famille"と"En Famille"という原題の姉妹作なのです。

時代はおそらく19世紀末。インドから父母と馬車でフランスへ向かっていた主人公の少女ペリーヌは、途中で父を、そしてパリで母を亡くします。ひとりぼっちになったペリーヌは母の遺言に従い、祖父の住むマロクールという町(注1)へ向かいますが、この町で大規模な紡績工場を経営している祖父のヴュルフランは、息子の結婚に大反対をしており、絶縁状態の人物でした。そこでマロクールに着いたペリーヌは、オーレリーと名前を変えて工場で働きはじめます。

フランス人の父とインド人の母の間に生まれたペリーヌが、孫娘と名乗ることなく、祖父の信頼と愛情を次第に得て、ついに‥‥という物語はもちろん感動的なのですが、読みごたえがあるのは、ほとんど文無し状態になったペリーヌのパリからのサバイバル生活。『家なき子』のレミには犬のカピがいつも一緒だったのに対して、ペリーヌはたった一人きりで(注2)マロクールまで歩いて(!)行くし、工場で働いているときも、人の住んでいない小屋を見つけてほぼ自給自足生活を送ります。食事はおろか、着るものも、靴も、食器もすべて手作りし、他人の力を借りず何でも自分でやり遂げようとする彼女の姿には、自立する女性像が見られます。このほか、工場のことだけを考えていた祖父に、労働者たちの生活の実態を気づかせ、彼らのことをもっと思いやるよう諭すなど、ペリーヌには先進的な思考も備わっていて、児童文学のなかでも新しいタイプのヒロインと言えるのではないでしょうか。

小さい頃に、少年少女名作全集に入っていたこの物語をぜひもう一度読みたい、と思っていたのが3年前に完訳版で復刊されました。重厚な翻訳は大人でもじゅうぶん楽しめますので、ぜひご一読を。

注1:マロクールは架空の場所ですが、北フランスのアミアン市に近い町として設定されています。

注2:アニメの「ペリーヌ物語」に出てくる犬のバロンは、原作には登場していません。

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posted by cyberbloom at 20:59 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−フランス小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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