2006年04月08日

フランスのCPEをめぐるデモ(1)

manif01.jpgフランス政府が提出したCPE(若者雇用促進策「初期雇用契約」)を巡るデモの主役は大学生だけではない。高校生も重要な構成メンバーだということを忘れてはいけない。規模こそ違うが、去年は去年で、フィヨン法の廃止を求め、何千人という高校生が、パリや地方の街頭でデモを繰り広げた。特に、フィヨン教育相によるバカロレア改革案に猛反対したものだ。バカロレアは、システムや中身はだいぶ違うが、日本のセンター試験に相当する。日本の高校生が団結して、大学入試の改革案に反対するなど、まず起こりえない現象だが、もともと「大人たちの組合」が年中行事のようにストライキとかやって、内閣交代や法案廃案を実現させているという土壌のなかでこそ可能になることだ。驚くべきことは、フランスの高校生たちは組合(Union Nationale Lycéenne)を持っていて、実は先回のデモも大半はこの組合が動員していた。この組合は、NPO(民間非営利団体)に基づく指定団体として政府補助金を受けており、それで組合本部のある雑居ビルの一室の家賃や、全国集会を主催したり機関紙を発行したりする費用を賄っている。もちろんパリだけじゃなく全国の高校生がデモを展開するわけだが、彼らが求めているのは「同世代だけがわかる途方もない連帯感」だ。伝統的な共同体や市民社会が解体したあとの、新たな個人の結びつきの模索のひとつなのだろう。彼ら彼女らはさらに国際組織つくりに力をいれており、すでにアムステルダムに国際本部を立ち上げ、西欧各国の高校生組合と提携を進めている。そして組合員のあいだの連絡やコミュニケーションにはブログが活用されているという。

日本にいるとなんだか遠い国のリアリティのない話に思えるが、確実にこういうことをやっている高校生が地球上にいる。日本でフランスのデモはどのように受け止められているのだろうか。いくつかブログを読んでみたが、「CPEの法案はそんなに悪いとは思えない」、「何を甘いことを言ってる、フランスの若者はわがままだ」と書いている人も多かった(このような若者批判は何か日本のニート・バッシングを思わせる)。確かにネオリベ(ネオリベラリズム=新自由主義)の嵐は世界規模で吹き荒れ、雇用の流動化は不可避であり、それがグローバル・スタンダードだと言われている。そうしなければ、熾烈な国際競争についていけないと思われている。とりわけ経済成長の恩恵を受けてきた私たちは、それを妨げるものを恐れる。経済成長がなければ豊かになれないと思っている。しかし、かつての高度成長期とは違って、ネオリベは格差を生み、全員がそれがもたらす恩恵にあずかれるわけではない。

「構造改革は痛みを伴う」と、まるで自分が痛いかのように小泉首相は言った。それに対して国民は「多少の痛みは仕方がない」と口をそろえて答えた。それは自分が痛むとは思っていないから言えることだ。他の誰かに犠牲になってもらって、自分は構造改革の恩恵にあずかりたい。「勝ち馬に乗ろうとする」とはこういう意識のことだ。最悪の事態になるまで自分を「負け組」だなんて決して思わない。まさにネオリベ政権にとっては好都合な人々だ。おそらくそういう人々が小泉政権を支えている。ネオリベ政策や企業のリストラが気持ちよく効率的に遂行される国。つまり日本はデモをせずに、自殺する国なのだ。フランスだったら連帯し、デモをする人々が、日本では孤独に、黙って身を引く。日本は痛みを感じている人間が、痛いと声を発することができない国なのだ。未だに組合は胡散臭いものと思われ、日本の組合組織率は極めて低い。組合活動が唯一の合法的な労使の対話の手段であるにもかかわらずだ。フランスの高校生はおそらく楽しいから組合活動をやっている。この楽しさは重要だ。それは「同世代だけがわかる途方もない連帯感」によって生まれている。私たちはバラバラで、そんな連帯感を経験したことがない。(続く)

□TV INFO:NHKの新番組「地球特派員2006」で姜尚中氏と森永卓郎氏が去年秋起こった「移民暴動」をめぐって議論を交わします。姜尚中氏は直接フランスに渡って取材をしたようです。「フランスで起こっている暴動は、単なる移民差別ではなく、若者という新たな差別対象が生まれていることが原因だ」(「つながるモリタクBLOG」より)というのが森永氏の結論。今回のデモのテーマである「若者差別」は、日本の「ニート」議論ともつながるグローバルなテーマです。放送はNHK-BS1:4月9日(日)22:10〜22:59。

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posted by cyberbloom at 15:38 | パリ | Comment(1) | TrackBack(2) | 時事+トレンド特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
拙サイトへのTBとコメント、どうもありがとうございました。まだ日本の若者は痛めつけられ方が足りないのか、それともいじめれば、自殺に走るだけなんでしょうか。嗚呼、か弱き若者よ。
Posted by hakohugu at 2006年04月18日 10:48
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Excerpt:  フランスの「初期雇用契約」(CPE)の撤廃を求めるストライキとデモが止まらない
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