2010年08月27日

就活化する世界(1) あなたは会社のために何ができますか

トウキョウソナタ [DVD]2008年のカンヌ映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『トウキョウソナタ』。46歳の主人公の男がリストラに遭う。前の会社で総務課長までやっていた自分が何で他の会社で受け入れられないのか。男のプライドは傷ついている。リストラされた会社でも、新しい会社の面接でも「あなたは会社のために何ができますか」と聞かれて何も答えられない。質問の意味すらわからない。これまで与えられた仕事を淡々とこなしてきただけだからだ。アメリカ式の人事担当者は「すぐここであなたの能力を示してください」とまで言う。自分がゼロから会社のために何ができるかなんて考えたこともない。

「フランステレコムで何が起こったのか」で書いたことだが、今や労働者は与えられた仕事を従順にこなすことを求められているのではなく、潜在的な能力を持った人的なリソースとみなされている。新しい事態に対応するために、みずからの能力を開発し続けなければならない。学習は生涯続くのだ。そのための自己投資も必要になる。外資系の銀行に勤めている友人によると、今回の金融危機で多くの社員が解雇されたが、みんなそれをチャンスと捉え、大学院に入り直したり、新しい資格を取ったりして、更なるスキルアップを図るのだという。若い社員だけでなく、40代、50代の同僚さえもそういう自己投資に何百万円もかけることを厭わないようだ。つまり、何ができるかということと同時に、どれだけ潜在力を高め続けられるか、それが評価の対象になる。

このように現代の労働者は自分を事業主としてセルフ・プロデュースしながら、市場で競争し、常に自分の生産力を高めていかなければならない。その手始めが、就職活動の際に求められる「就活力」なのだろう。日本では70年代以降、大学はエリート教育の場であることをやめ、大学新卒者の大量採用によって、大学生はサラリーマン予備軍と化したが、その背後には終身雇用制度と年功序列賃金制度の確立があった。その時代の仕事はむしろ頭を空っぽにして社畜になること、組織とべったり同調することが推奨された。今は全く別の意味で大学と仕事が結びつかなくなっている。つまり、大学で何かを学べたとしても、それはある知識を詰め込み、ある技術を身につける、限定的な一段階にすぎなくなっている。それはすぐに役に立たなくなるかもしれないのだ。もちろん大学で学んだことが最初から役に立たないというケースも多く、「大学で学んだことに職業的な意義があったか」という問いに対し、YES の回答は日本は先進国中最低で12%しかない。

ところで、近代社会は「人々を生まれや身分と切り離し、その資質や能力に応じて社会の中に再配置する社会」と定義できるだろう。近代以前、人々は自分の生まれた村からほとんど外へ出ることなく一生を送った。生まれによって人生はほぼ決定されていた。しかし近代社会では自分の資質や能力を生かして、自分の望む職業に就いたり、生まれが貧しくても学業によって成り上がることもできる。その意味でも近代社会は個人の自由と平等の実現を建前としているわけである。

その際に基準となるのが個人の成績である。それを基準にして個人を社会の中に位置づける制度をメリトクラシーと言う。「メリット」(=能力)によって人々が配置され、メリットを持つ人々によって統治されている社会だから。メリトクラシーのもとでは、何をめぐって競争しているのか、何を目指して努力すればいいのか、はっきり示されていた。受験勉強がそうであるように、共通に与えられた内容を一生懸命消化すれば、良い成績や学歴を手にすることができた。そしてそれにふさわしい社会的に地位を期待することができた。

つまりこれまで評価の対象になってきたのは、標準化された知識内容をどれだけ習得できるか、どれだけ速くこなせるかなど、いわゆる基礎学力としての能力だった。それはテストの点数や偏差値という共通の尺度によって測ることができ、個人間の比較を可能にしていたのである。それは同時に与えられた枠組に対して個人がどれくらい順応できるかを測っている。組織的、対人的な側面として、同質性の高い文化や規範を共有する集団(つまり日本の企業)に対して協調的であることが期待されていた。
(続く)




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posted by cyberbloom at 09:39 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | グローバリゼーションを考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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