2010年08月19日

ジャン=リュック・ゴダール、Film Socialisme インタビュー

挑発的で親密なインタビューのためにゴダールは私たちをスイスの自宅に招いてくれた。ロール Rolle にようこそ。ロールは世界の中心という場所ではない。ジュネーブから40キロ離れ、レマン湖に面した少々陰鬱な街に過ぎない。しかし税金逃れをしたい億万長者にとっての楽園でもある。私たちをジュネーブ駅で拾ってくれた愛想のいいタクシー運転手は、ほとんど税金を払っていない人々の地理を知り尽くしている。「あの丘のふもとの家はミヒャエル・シュマッハー(レーサー)の家です。そこにはピーター・ユスティノフ(作家)が住んでいて、向こうにはフィル・コリンズ(ミュージシャン)…」

「じゃ、ゴダールは?」と尋ねると運転手は答えた。「あるとき一人の日本人が私の車に乗り込んできました。そしてわたしにゴダールさんはどこに住んでいるのかと尋ねました。私は知っていると言い、彼をそこへ連れていきました。彼はちょっと待っていてくださいと言って、ゴダールの家の写真を3枚撮りました。そして駅に戻りました。ゴダールさんは日本にまで知れ渡っているんですよ」。

フランスに住民票があるので、ゴダールはそこで税金を払っている。彼はスイスで生活しているが、彼はそこで生まれたからだ。そこにあるいくつかの風景なしではいられないと言っている。いつも彼とのインタビューではそうなのだが、背景がパノラミックなのだ。4時間のあいだ、6つのスクリーンと彼が引用するVHSやDVDが詰まった棚のある仕事場のすぐ隣の、ちょっと雑然としているが、とても機能的なオフィスでインタビューは行われた。そこで私たちは歴史や、政治や、ギリシャや、知的所有権や、もちろん映画について話した。さらにはもっとプライベートな事柄、例えば健康とか死について。



インタビュア:なぜ、’Film Socialisme’ というタイトルなんですか。
ゴダール:私は前もってタイトルを決めます。タイトルが私が撮る映画の指標になります。映画のどんなアイデアにも先んじてまずタイトルがあります。それは音楽のラ(A)のようなものです。わたしはタイトル(titre)のリストをまるごと持っています。ちょうど貴族の称号(titres de noblesse)や有価証券(titres de banque)のように。今はむしろ有価証券ですね。私は「Socialisme」というタイトルで撮り始めました。撮影が進むに連れてそれは満足できるものではないように思えてきました。映画はコミュニスムやキャピタリスムと呼ばれてよいものでした。ところがある面白い偶然が起こりました。私がプレゼン用の小冊子を哲学者のジャン=ポール・キュルニエに送り、彼がそれを読んだときのことでした。それには制作会社の Vega Film の名前がついていて(※つまり Vega Film Socialisme と書かれてた) 、彼は映画のタイトルを Film Socialisme と勘違いしたのでした。彼は10枚以上もある長い手紙で、それがどれだけ彼の気に入ったかを書いてよこしました。私は彼が正しいに違いないと思い、映画のタイトルをそれに決めました。

インタビュア:地中海やホメロスのクルージングのアイデアはどこから来たのですか?
ゴダール:最初私はセルビアで起こるような別の歴史のことを考えていました。しかしうまくいきませんでした。そのとき私にガレージの中の家族というアイデアが浮かびました。マルタン一家です。しかしそれはロングショットでは持ちませんでした。ロングショットで撮れていたら、人々は登場人物になっていただろうし、そこで起こっていることも物語になったことでしょうから。対話や心理によって作られるフランス映画のような、ひとりの母親と彼女の子供たちの物語です。

インタビュア:その家族のメンバーは、普通のフィクションの人物たちとほとんど同じで、あなたの映画らしくありませんでした。
ゴダール:おそらくそうでしょう。しかしながら全くそうというわけではありません。彼らは登場人物になる前にシーンが中断します。彼らはむしろ彫像です。話す彫像です。人が彫像について話すときに、それは昔のものだと言います。そして人が昔というとき、旅に出かけ、地中海に船で乗り出します。クルージングのアイデアはそこから来ています。私は今世紀始めの論客レオン・ドーデの、『シェークスピアの旅』という本を読みました。彼はその本の中で若いシェークスピアの地中海の船旅の行程を追っています。シェークスピア自身はそれについて何も書いていませんが。

インタビュア:例えばアドピ法(La loi Hadopi)、つまりは違法ダウンロードの問題、イメージの所有権についてはどうですか。
ゴダール:私はもちろんアドピ法に反対です。知的所有権など存在しません。私は相続にも反対です。つまりアーティストの子供が彼らの親の作品の著作権の恩恵をうけることです。子供が成人するまではいいと思いますが、ラヴェルの子供たちが「ボレロ」の権利にタッチするのは当然のことではないと思います。

インタビュア:あなたの映画からイメージを拝借するアーティストに見返りを要求しないのですか。
ゴダール:もちろんしません。さらにそうしたあげくにネット上で公開する人々もいるでしょうが、一般的には良くないことです。しかし私は彼らが私から何かを取っているという感情は持ちません。私はインターネットを使っていませんが、連れのアンヌ=マリーは使っています。しかし二匹の猫のイメージ(※予告編にも一瞬出てくる)のように、私の映画にもインターネットから取ったものがあります。

インタビュア:あなたの映画は FilmoTV を介してネット上で見れます。映画館での上映と同時に。
ゴダール:それは私のアイデアではありません。予告編を作ったとき、私はそれを Youtube に流すことを提案しました。ネット配信は配給会社のアイデアです。彼らは映画にお金を出しているので、わたしは彼らの要求どおりにしました。もしそれが私の決定だったら、そんな形で劇場公開しなかったでしょう。映画を撮るのに4年かかりました。製作に関しては異例です。私はそれを Battaggia、Arragno、Grivas と一緒に4人で撮りました。それぞれが独自に始めてイメージを集めました。グリヴァスはひとりでエジプトに出かけ、何時間分ものフィルムを持ち帰りました。私たちは多くの時間を費やしました。私は映画の配給に関しては映画を作るのにかかった時間と同じ分だけ収益を得たいと思っています。

インタビュア:映画の最後から2番目の引用に、「法が不当なものであれば、正義は法に先立つ」というのがありました。
ゴダール:これは著作権に関することです。すべてのDVDは違法コピーを禁じるFBIの警告から始まります。しかしそのフレーズから別のことを知ることもできます。例えばローマン・ポランスキー Roman Polanski の逮捕を思い出すでしょう。

インタビュア:ポランスキーの逮捕があなたの国スイスで起こったという事実があなたには重要なのですか。
ゴダール:私はスイス人でも通るし、フランスに住民登録していて、税金も払っています。スイスには私が好きな、私にはなくてはならないいくつかの風景があります。私のルーツもここにあります。しかし政治的には多くのことにショックを受けています。ポランスキーに関して言えば、スイスはアメリカに従う必要はありませんでした。もっと議論すべきで、受け入れるべきではありませんでした。カンヌに行くすべての映画関係者はポランスキーのために動くべきす。スイスの裁判所は間違っていると主張して欲しかった。ジャファール・パナヒ Jafar Panahi を支持するためにそうしたように。イラン政府は悪い政府と言うようにスイスの政府もよくないと。

インタビュア:ギリシャの危機もあなたの映画に強く反響してますね。
ゴダール:私たちはギリシャに感謝しなければならないでしょう。ギリシャに対して借りがあるのは西洋です。哲学、民主制、悲劇。私たちは悲劇と民主制の関係を忘れがちです。ソフォクレスがなければ、ペリクレスもありません。私たちが生きているテクノロジーの世界はすべてをギリシャに負っています。論理学を考えたのは誰でしょう。アリストテレスです。これがこうで、それがそうなら、こうだ。これが論理というものです。これは強国がとりわけ矛盾を生じないように、ひとつの論理の中にとどまれるように、一日中使っている手です。ハンナ・アーレントがまさに言ったようにロジックが全体主義を生むのです。ギリシャのおかげで今みんながお金を稼げているのですから、ギリシャは巨額の著作権料を現代の世界に要求することができるでしょう。ギリシャにお金を払うことはロジックになかうでしょう。すぐに払うことです。

インタビュア:ギリシャは嘘つきと非難されています。
ゴダール:小学校で習った古い3段論法を思い出します。エパミノンダスは嘘つきだ。ところでギリシャ人はすべて嘘つきだ。したがってエパミノンダスはギリシャ人だ。人はあまり進歩していないですね。

☆Les InRocks.com に掲載されたジャン=リュック・ゴダールのインタビュー "Le droit d’auteur ? Un auteur n’a que des devoirs"(著作権だって?作家には義務しかない)を部分的に訳出してみました。ロメールに言及した箇所もあったのですが、残りは時間があったら。

"Le droit d’auteur ? Un auteur n’a que des devoirs"
Un entretien avec Jean-Luc Godard
Les InRocks.com
18 mai 2010



☆”Film socialisme”は今年のカンヌ映画祭の「ある視点 Un Certain Regard」部門に出品されたが、5月17日と18日の2日間、映画館での封切りに先駆けて、そしてカンヌ映画祭と同じ日にVOD(=Video On Demand)で配信された。
http://www.filmotv.fr/



cyberbloom
posted by cyberbloom at 13:35| パリ | Comment(1) | TrackBack(0) | フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「すべてギリシア人のおかげ」というこの世代のフランス人の間ではあまり珍しくない考え方は、文字に残っているものばかり偏重する、政治的に非常にナイーブな歴史意識ともいえないでしょうか?
Posted by Daimonphrastus at 2011年07月08日 01:30
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