2006年03月22日

音楽で観る映画(3)−「夏至」

ete2.jpg毎回独断と偏見で選ばれた映画をご紹介するこのコーナー、今回の作品はトラン・アン・ユン監督が2000年に発表した「夏至」です。監督の名前がフランス人らしからぬ、と思われる方もいるでしょう。そのとおり、この監督はベトナム出身です。しかし彼は少年時に家族と共にフランスへ移住し、フランスで映画について学びました。彼がこれまでに撮った「青いパパイヤの香り」「シクロ」そして「夏至」はすべて自分のルーツであるベトナムを題材にしていますが、その作風にはやはりフランスで培われたものが感じられます(注1)。

3作品のいずれも、その映像の美しさにはっとさせられます。濡れたような深みのあるその色彩は、官能的とも言えるほど。「夏至」では、ホウ・シャオシェン監督の作品やウォン・カーウァイ監督の「花様年華」を撮影したリー・ピンビンを迎え、さらにその繊細さに磨きをかけています。

ete3.jpg「夏至」はハノイに暮らす3姉妹の物語で、長女の経営するカフェをよりどころにして、彼女たちの日常がゆったりと描かれています。しかし何事もなく日々を過ごしているように見える3人には、実は人知れぬ秘密がそれぞれあるのです。不倫、未婚の妊娠、パートナーへの不信、など扱われている問題は穏やかならぬものばかりですが、それらはたいへん静かに語られていて、観ている私たちはかえって落ち着いた心もちにさせられます。

この雰囲気に一枚かんでいるのは、映画に用いられた音楽です。トラン・アン・ユンの作品すべてのオリジナルサントラを担当するのは、これもパリ在住のベトナム人作曲家、トン・タ・ティエ。ドビュッシーにオリエンタルな味つけをほどこしたようなこまやかで神秘的なその旋律は、映像のすばらしい引き立て役となっています。

ete4.jpgオリジナル以外の音楽は、監督の思い入れがあるものばかりだそうで、それを知ると、一つ一つ噛みしめて聴きたくなってきますね。「夏至」では三女リエンの部屋のシーンで流れる、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどの、ちょっと気怠い感じの曲が印象的です。私はラストシーンの "Good bye, everyone..." というフレーズで始まる曲が耳に残り、調べてみたらこれはベルギーの Married Monk というバンドの "Tell her, tell her" という曲で、今では先日の Musical Baton にも入るくらい好きな曲になりました。

このほかトラン・アン・ユンの作品にはベトナムの音楽も多く用いられています。とりわけしっとりと歌われたベトナム歌謡(注2)は、歌詞の内容ともども静かに私たちの心を打ちます。

注1:たとえば「シクロ」で主人公が青いペンキを体じゅうに塗りたくるシーンは、ヌーヴェル・ヴァーグの監督、ジャン=リュック・ゴダールの「気狂いピエロ」を思い出させます。またフランス映画だけでなく、小津安二郎など日本映画への嗜好なども感じられます。

注2:「夏至」ではベトナムの作曲家チン・コン・ソンのヒット曲が使われています。この人はベトナムでは国民的音楽家で、その代表曲「美しい昔」を、3年前の紅白歌合戦で天童よしみ(!)が日本語版で歌っていて感涙モノでした。そのとき審査員だった三谷幸喜さんも「この人の歌で泣くとは思わなかった」のだそうです。

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posted by cyberbloom at 16:32 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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