2010年06月01日

フランスの子育てが変わった!? ― maternage intensif 

アフリカやアジアで生まれ、アメリカで理論化された maternage intensif という子育てのやり方がある。France 2 で特集していたので紹介してみたい。

eleverautrement01.jpgすべての時間を自分の子供のために捧げる。この子育てをとても有効な方法だと信じている母親が増えている。その一方で、議論も巻き起こしている。キャプシーヌは3歳半の娘を胸に抱いて母乳をやる。このやり方は家族の了解を得ている。「いつまでやるの?」「はっきり決めていないけど…」。父親は「続ければいい」と容認している。母乳のあとは栄養のバランスのために普通のご飯も食べさせる。それは栄養学的な観点からだけではない。母と子供の関係を特権化する方法なのです。それをmaternage intensif(=強い母子関係)と呼ぶ。キャプシーヌはそれをネットで知った。そのためのフォーラムもあった。「子供の欲求に答えるのが嬉しくてやっているの。その喜びを分かち合うサイトがたくさんあるわ」。小児精神科医は、「子供の欲求ではなく、親の欲求でやっているのでは」と疑念を抱く。

大きいスカーフで赤ん坊をおんぶしたまま、一日の家事をやる母親もいる。「ベッドに寝かしておくよりいい。目が覚めたらぐずらないでちゃんと起きるわ」。maternage intensif のもうひとつの側面なのだが、「この子はオムツをしたことがないの。5ヶ月の赤ちゃんでも、子供がおしっこのサインを出したら、すぐに準備することができる。子供の反応を見て、おしっこをさせる。したくなったら眉のあたりが赤くなって私をじっと見るの。自然なおしっこよ。これはしつけではなくて、母子のコミュニケーションの問題。ふたりのあいだに会話を構築するの」。

母子一体化が進む一方で、疎外感を訴える父親もいる。またリポーターはお約束のように「それは赤ちゃんの奴隷になることでは?」と尋ねる。「いいえ、赤ちゃんの欲求に答えているだけです」。「おむつ代がかからないし」と言う父親もいる。7ヶ月のヨアキムは母親と毎日一緒に寝ている。「踏んづけたりするのが怖くないですか?」。「全然」。コドド co-dodo(=一緒に寝ること)もオムツと同じように子供がいやだと言うまで待つ。「この子の姉は一人で寝れるようになるまで3年かかりました」。お父さんの中には疎外されていると感じている人たちもいる。健全じゃないと思っている父親もいる。「ベッドは親用なのにいつも必ず子供が入ってくる」と母子関係が一体化していることを心配する父親。精神科医は言う。「それは母親の強い不安に対する薬のようになっている。父親が疎外されると、夫婦関係にもよくない」。3分の1の家族がコドドをやっていて、ときどきそうするという家族も3分の1いる。精神科医によれば、赤ちゃんの発達にどのような影響があるか、それは大人になってからしかわからない。

以上がニュースの内容である。日本人からすると「なぜそれがダメなの?」っていう印象だが(元サッカー日本代表監督のジーコが6歳まで母親のおっぱいをしゃぶっていたというエピソードなんかも思い出す)、 maternage intensif とは母親が3歳を過ぎても子供を抱いて母乳をやることに象徴されるように、歳を決めて早い時期に母子関係を切り離すのではなく、子供が望むままにべったり関係を続けること。フランスは早め早めに子供の自立を促すお国柄だったので、違和感を覚えている人も多いのだろう。日本人とフランス人のカップルの友達がいるが、日本人の父親が娘を寝かしつけながらそのまま一緒に寝てしまうので、フランス人の母親が子供の自立によくないといつも怒っていたのを思い出す。小さな子供でも別室で寝かせるのが当たり前、子供は親=大人の空間に入り込ませないというのが前提の国だったのに。いろんな分野でフランス的な価値観が崩れている。

このような傾向は情報化、消費化した社会の影響があるのかもしれない。現在求められている「ポスト近代型能力」(本田由紀)は、独創性、視点の広さ、コミュニケーション能力によって特徴づけられる。その能力の開発は子供が生まれた瞬間から始まり、子供を放任しておくだけでは伸ばすことができない。子供の意欲やコミュニケーション能力を伸ばすために子供に手間をかけ、細かく気を配る必要がある。教育社会学者の本田由紀は『多元化する「能力」と日本社会』の中で親子のコミュニケーションの豊富さや信頼関係が、子供の意欲や対人能力などのメンタルなスキルに影響を与えるというデータを出しているが、その種のディスクールは最近メディアの中でも蔓延している。maternage intensif はこういう考えと結びつきやすいし、すでに結びついているのかもしれない。

ニュースに「子供の奴隷」という表現が出てきたが、maternage intensif がフランスで懸念されるのはそれが女性の自立の妨げになるかもしれないからだ。まさに本田由紀は、母親が子供の能力を引き出すことに専念せざるをえないと思うことによって、女性のライフコースの選択に大きな影響を及ぼすのではと危惧している。つまり子供をあきらめるか、仕事をあきらめるかの選択を迫られ、仕事と子育ての両立が難しくなると。



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posted by cyberbloom at 21:32 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 子育て+少子化対策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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