2010年05月13日

新旧フランス女優列伝(3)ヴァレリア・ブルー二=テデスキの巻

嘘の心 [DVD]ヴァレリア・ブルー二=テデスキという女優が気になりだしたのは、クロード・シャブロル監督の『嘘の心』(1999)という作品を観た辺りからだ。物語は例によってフランスの片田舎で起きた殺人事件。犯人は一体誰なのか。たまたま通りかかっただけの女性に疑いがかけられるのだが、真相は分らない。この映画でヴァレリアは冷静沈着な刑事を演じており、次第に真犯人を追い詰めていく。

ポーカーフェイスの表情と洗練された立ち居振る舞い。そして、抑制が効いた低いハスキーな声。無機質なようで鋭いまなざし。一目見ただけでは悪玉なのか善玉なのか、全く見当がつかない。しかし、圧倒的な存在感でそこに佇む女…。そんな役をやらせたらこの人の右に出る者はいないだろう。彼女の出現は、確かにフランス映画に新しい風をもたらしたといっても過言ではない。いま、彼女のような実力派女優を抜きにしてはまともなフランス映画を作るのは難しいのではないだろうか。

彼女はある意味で、フランスで最も有名な女性の姉でもある。妹はサルコジ大統領夫人のカーラ・ブルー二だが、彼女の演技力に魅せられてしまった者はそんなことを気にすることはまずないだろう。妹が大統領夫人であろうがスーパーモデルであろうが、そんなこととは無関係に、ヴァレリアは間違いなく映画史に名を残す名女優であるからだ。

ぼくを葬る [DVD]そんな彼女の才能を世界の映画作家が放っておくはずがなく、誰もが好んで自分の映画に彼女を使おうとする。『愛する者よ、列車に乗れ』(1998)のパトリス・シェロー(もっとも、彼女はシェローの演劇学校で学んだ経緯があり、この起用は当然なのだが)。『二人の五つの分かれ道』(2004)、『僕を葬る』(2005)のフランソワ・オゾン。『ミュンヘン』(2005)のスティーヴン・スピルバーグなどがそれだ。『プロヴァンスの贈り物』(2006)のリドリー・スコットの名を加えても良いかもしれない。日本人では諏訪敦彦が『不完全なふたり』(2005)で彼女を主演に据えたことが記憶に新しい。この映画はロカルノ映画祭で高い評価を受けたことで知られている。

余りにもフランス映画で活躍しているので、彼女がイアリア人とフランス人の混血であるということを忘れてしまいそうになるが、ある映画がそのことを思い出させてくれた。日本で『明日へのチケット』(2005)という題で公開されたその映画は、ケン・ローチ、アッバス・キアロスタミ、エルマンノ・オルミという三人の名匠が撮った短編によって構成されるオムニバス映画である。三本の短編はどれも、ある特急列車に乗った人物を主人公にしている。

明日へのチケット [DVD]エルマンノ・オルミが監督した作品の中で、ローマに帰る大学教授を駅まで見送る企業秘書の役をヴァレリアは演じている。教授は列車の中でも秘書の面影が忘れられず、回想に浸る…。この映画でヴァレリアは当然ながら終止イタリア語を話すのだが、これまでフランス語を話す彼女ばかりを見ていた観客に、これはいささかの驚きをもたらしたと思う。フランス語を話すときは冷徹な雰囲気を醸し出すヴァレリアの声が、イタリア語では何とも艶めかしい響きになるのである。彼女は間違いなくイタリア女優―ステファニア・サンドレッリやモニカ・ヴィッティのような―の官能的な血を受け継いでいるだということを改めて思い知らされた。と同時に、この作品は短編ながら、彼女の演技の幅の広さを強く印象付ける作品ともなっている。

最近、彼女はActrice『女優』(2007)という映画で、監督・主演を果たしている。映画監督としては二本目であり、女優としてはコメディエンヌとしての側面もこの映画ではクローズアップされている。いまではソフィー・マルソーまで監督をやるような時代だから、誰でも監督をやれると言えばその通りなのだが、ヴァレリアにかかる期待はソフィーにかかるそれとは同じものではないだろう。ヴァレリアの次の作品を期待しているのは私だけではないはずだ。







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posted by cyberbloom at 22:33 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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