2010年05月05日

「昔々、西部の街で」…懐かしの70年代の名優たち(11)

ウエスタン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]『昔々、西部の街で』なんてそんなタイトルの映画はあったろうか、とお思いの方はいるかも知れない。この映画の英語タイトルはOnce upon a time in the West。日本では単に『ウエスタン』(1968)というタイトルで公開されたセルジオ・レオーネの最後の西部劇である。英語タイトルを見ればわかるように、実はこれは『夕陽のギャングたち』(1971)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)(レオーネの遺作)と三部作をなしている。『夕陽〜』の仏語タイトルはIl était une fois la Révolution(『昔々、革命がありました』の意)であって、仏語ではこの三本は全てIl était une fois…で統一されている。

『ウエスタン』という映画を初めて観た人は面喰ったことだろう。もともとレオーネの映画は型破りな作風で有名だが、この思わせぶりで勿体ぶった展開は一体何なのかと思ってしまう。クリント・イーストウッドが降板した結果、チャールズ・ブロンソンが主演を務め、ヘンリー・フォンダ、クラウディア・カルディナーレが脇を固める、という具合にキャスティングの点では申し分ない。しかし、何といっても、ヘンリー・フォンダが凄まじい。ネタばれになるので残念ながら詳細は明かせないが、ジョン・フォード監督『いとしのクレメンタイン―荒野の決闘―』(1946)で颯爽とした保安官を演じたあのフォンダが、この映画では極悪非道の人物を演じている。こんな役を彼がやっていいのか、と誰もが驚かされたのではないだろうか。

夕陽のギャングたち (アルティメット・エディション) [DVD]『ウエスタン』という映画は実は60年代の映画であり、70年代の映画を扱うこのブログにはふさわしくないかもしれない。だが、そうとばかりは言えないだろう。レオーネ+イーストウッドのコンビは60年代に数多くの西部劇の傑作を世に送り届けてきたが、『ウエスタン』はそのレオーネによる最後の本格的西部劇といえる作品である。その為か、この作品は妙に哀愁に満ち満ちている。モリコーネの音楽にしてからが、もう、西部劇の音楽とはとても思えない。これではまるでオペラの音楽であり、じっと聞いていると葬送行進曲のようにも聴こえてくる。レオーネは60年代の映画と西部劇というジャンルに、この映画で自ら終止符を打とうとしているようだ。実際、レオーネは『夕陽〜』以後13年ものあいだ映画を撮らなくなる。

西部劇というジャンルは1930年代から50年代にかけ(いやもっと以前から)、もっとも「映画的な」ジャンルであった、ということを否定する人はいないであろう。ジョン・フォード、ハワード・フォークスらによって鮮やかに切り開かれた裾野は、そのマニエリスム的再現といってもいい、レオーネを中心とする60年代のマカロニ・ウエスタンにおいてもその映画的魅力に衰えはなかった。もちろん、そこに投影されたネイティヴ・アメリカンの表象や暴力描写に関しては、現在の観点からは批判されても致し方ないものであろう。しかし、このジャンルに関わった者は純粋なる映画的楽しみ、アクションの追求という考えから西部劇を生み出していったのであり、そこに何らかの高邁な思想や社会に対する眼差しを取り入れようという気は初めからなかった。せいぜい「兄弟愛」や「仲間意識」といった程度の思想が盛り込まれる中で、これらの映画は作られていったのである。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ [DVD]だが、『ウエスタン』には、鉄道の建設というテーマが挿入されている点が特徴的である。アメリカの東部と西部を結ぶ大陸横断鉄道の建設が徐々に進んで行き、相互に孤立していた幾つかの町が一つに結ばれ、アメリカが一つの国になろうとする過程が映画の端々で暗示されるのだ。しかしながら、誰もが分かるように、そのようなテーマは全く西部劇的ではない。それはこのジャンルの中心をなす「アクション」を完全に封じてしまうような鈍重なテーマなのだ。このようなテーマを西部劇に持ち込めば、このジャンルが崩壊することは目に見えているのだが、レオーネはそれをせざるを得なかった。理由は「ネタが尽きた」からである。こうして、歴史学的、社会学的方向への転換を契機に、西部劇というジャンルは自己崩壊を起こしていく。

そういう意味で、この映画は西部劇というジャンルに惜別の思いを綴った作品であるといえよう。70年代以降、本格的な西部劇は姿を消す。幾ら、再起を図ろうと様々な試みをしたとしても(ローレンス・カスダン『シルバラード』(1985)など)、それらはことごとく失敗に終わらざるを得なかった。そして、数々の傑作に主演してきたイーストウッド自身が監督・主演した『許されざる者』(1992)によって、虫の息で生き延びてきたこのジャンルは完全に葬り去られることになるのだ。






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posted by cyberbloom at 17:41 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本と世界の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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