2006年03月15日

音楽で観る映画(2)「死刑台のエレベーター」

Demoiselles.jpg1950年代の終わりごろから、フランスでは若い映画作家たちが次々に新しい感覚の映画を撮り始めました。今までの映画文法や、既成概念や、倫理観にとらわれない彼らの作品は、世界の映画界に大きな影響を与えました。この動きは「ヌーヴェル・ヴァーグ Nouvelle Vague(新しい波)」と呼ばれ、今でも私たちを魅了してやみません。ヌーヴェル・ヴァーグの作品では、音楽も効果的に用いられていることが多く、すぐに色々な例が思い浮かんできますが、今回はぐっと大人っぽい路線で、「死刑台のエレベーター」(1957)を取り上げてみましょう。

ルイ・マルが弱冠25歳にして初監督したこの作品は、美しい社長夫人フロランス(ジャンヌ・モロー)が愛人ジュリアン(モーリス・ロネ)と共謀して、夫を殺そうと完全犯罪の計画を立てるが、一つのミスがもとで事態が急変し、愛人は会社のエレベーターに閉じ込められてしまう‥‥というサスペンス映画。殺人に対して全く罪悪感を覚えることもなく、ただ愛するジュリアンと幸せになることだけをひたすら待ち望むフロランスを、ジャンヌ・モローが印象的に演じています。

しかし何よりも記憶に残るのは、冒頭のシーン(注1)からパララパララ‥‥と気怠い感じで聴こえてくるトランペットの音。このトランペットが先導するクールなジャズが映画全体に流れ、たとえばフロランスが待ち合わせに現れないジュリアンを探して夜のパリをさまようシーンでは、憂鬱で暗いこの音楽がいっそう彼女の不安や孤独を浮き彫りにしていますし、放置してあったジュリアンの車を若いカップルが勝手に乗り回す場面でかかるアップテンポの曲も、緊迫感を盛り上げます。

Demoiselles.jpgその音楽を担当したのは、「帝王」マイルス・デイヴィス。監督から依頼を受けた彼は、画面を見ながら即興で音楽をつけたそうです。とはいえその完成度の高いこと! ヌーヴェル・ヴァーグの映画でジャズを取り入れたものは少なくありませんが、なかでも「死刑台のエレベーター」は傑作中の傑作であり、単なる映画のサントラの域を脱して、マイルス・デイヴィスの代表作のひとつになったといえるでしょう。

ルイ・マル監督の映画では、印象深いジャズの音がこのほかにも方々で聴かれます。特におすすめしたいのは、「ルシアンの青春」(1973)(注2)と「五月のミル」(1989)。「ルシアン」のタイトル場面で流れる曲は、「ジプシー・スウィング・ギタリスト」ジャンゴ・ラインハルト(注3)によるもので、主人公の青年が田舎の風景を背景に自転車で走る姿に重なって、非常に軽快な音楽が聴かれます。そしてこのときにヴァイオリンを担当していたステファン・グラッペリが、後に「ミル」において、作品の雰囲気とぴったりの、実に生き生きした楽しいメロディーを奏でたのでした。フランスのジャズを、映画を通して味わってみるのもまた面白いかもしれませんね。

試聴できるサイトを探してみました(それぞれWindows Media Player, Real Audioなどのソフトが必要です)。

「死刑台のエレベーター」
「ルシアンの青春」の音楽"Minor Swing"
ステファン・グラッペリの音楽(残念ながら「五月のミル」は見つからず)

注1:ジャンヌ・モローの顔のアップから始まるこのシーン。音楽とともに、何度も繰り返される "Je t'aime" というセリフを聞き取ってみてください。

注2:第二次大戦中、ドイツの支配下に置かれたフランスを舞台にした作品。後年の「さよなら子供たち」(1987)とともに、戦争映画としてもすばらしい作品です。この作品についてもいつか投稿したいなあと思っています。

注3:ジャンゴ・ラインハルト(1910-1953)は若いときに左手の2本の指を痛めて動かせなくなってしまう、というアクシデントに見舞われました。しかしそれを見事に克服して生まれた独自の奏法によるすばらしいギターは、フランスだけでなく海外のミュージシャンにも影響を与えました。

死刑台のエレベーター
紀伊國屋書店 (2006/06/24)




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posted by cyberbloom at 17:15 | パリ | Comment(1) | TrackBack(5) | フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Posted by ブログランキングBootan at 2006年03月15日 17:39
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