2010年04月30日

クラシック音楽、究極の一枚を探せ!(1)ミュンシュの『幻想交響曲』

ベルリオーズ:幻想交響曲いまやダウンロードの時代でCDも売れないようであり、クラシック音楽などはむしろ、コンサートを聴きに行く人の数の方が増加しているらしい。確かにどれほどオーディオ機器の性能が向上したとしても、生(なま)の音楽は(それも弦楽器や木管楽器などのマイクを通さない音は)再現のしようがない。コンサートで直に聴かなければその演奏の本当の価値を知ることは出来ないのだ。

しかしながら、世を去ってしまった指揮者や演奏家、もはやかつてのようには演奏していない管弦楽団の音に少しでも近づくためには、やはりCDというものを聴くしかないであろう。そして、クラシック音楽の世界にもジャズやロックと同じように「伝説的名盤」というものが数多く存在していることもまた確かなのだ。これは、これからクラシック音楽を聴き始める人の為にそのような名盤を紹介して行くコーナーである。

その第一弾がベルリオーズ作曲『幻想交響曲』。演奏はシャルル・ミュンシュ指揮パリ管弦楽団。録音は1967年、EMIレーベル。

1967年、フランスの文化大臣アンドレ・マルローはある決定を下した。それは、フランス音楽の伝統を後世に伝えるために、世界的水準の演奏能力を持つ管弦楽団を設立するという決定である。こうして既に存在していたパリ音楽院管弦楽団が解散され、新たにパリ管弦楽団Orchestre deParisが誕生する。問題はこのオーケストラを統率する指揮者だ。そこで白羽の矢が立ったのが、当時、ボストン交響楽団を率いてアメリカで華々しい活躍をしていたシャルル・ミュンシュCharles Munch (1891-1968)である。

アルザス地方のストラスブール生まれのこの指揮者は、ドイツの名門オーケストラであるライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団でヴァイオリンの首席奏者まで務めた経験を持つ、独仏双方の音楽に通じた音楽家であった。既にボストン交響楽団と共にブラームスの『交響曲第一番』の名演を録音し、破竹の勢いで活躍を続けるミュンシュに目を付けたマルローの審美眼に狂いはなかったと言えよう。ミュンシュは急遽、アメリカからフランスに呼び戻される。

そのミュンシュが誕生したばかりのパリ管弦楽団と共に録音したのがベルリオーズの『幻想交響曲』である。1830年に作曲されたフランス・ロマン主義音楽を代表するこの曲は五楽章構成。「夢、情熱」、「舞踏会」、「野の風景」、「断頭台への行進」、「ワルプルギスの夜の夢」という具合に、各章に標題が付いていることでも知られている。また、のちにワーグナーが多用するライトモチーフの先駆けとも言うべき「固定観念」(ある一定のメロディを曲中に何度も登場させる方法)を使用するなど、当時としては極めて斬新な方法が取られた管弦楽曲の傑作であった。

ミュンシュによって演奏、録音された『幻想交響曲』は類い稀なる精度を持つ仕上がりとなった。それから40年以上が過ぎた現在、例えパリやベルリンやロンドンに行っても、これほど高度な水準の演奏でこの曲を聴くことは殆ど出来ないといっても過言ではない。細部に至るまで精緻に演奏され、一切の揺らぎがなく、それでいて、最初から最後まで煌めき渡り、迸るような音楽の流れ…。これほど鮮やかな水準でこの曲を演奏することが出来た発足当初のパリ管弦楽団とミュンシュの能力は、演奏家・指揮者が望みうる最高の地点に到達していたと言うべきであろう。

『幻想』と同時に、ミュンシュはブラームスの『交響曲第一番』もパリ管と録音し直し、これもボストン版に勝るとも劣らない名演となる。しかし翌年、アメリカへの演奏旅行に向かったミュンシュは何とその地で急死してしまう。享年77歳。というわけで、ミュンシュがパリ管弦楽団の音楽監督をしていたのは1967年から68年のたった一年限りということになる。その後、このオーケストラはカラヤンの暫定的在任を挟み、ショルティ、バレンボイムといった錚々たる面々を首席指揮者として運営されていくのだが、やはり、発足当初の輝かしい一年には例えどれほどの指揮者が登場しても、まだ、敵わないのではないだろうか。それほどミュンシュの仕事は巨大なものに思えるのである。

現在、ボストン時代のミュンシュの録音が続々とCD化されている。『幻想交響曲』と合わせて、それらを聴いてみるのも面白いのではないだろうか。


ベルリオーズ:幻想交響曲
ミュンシュ(シャルル)
TOSHIBA-EMI LIMITED (2007-06-20)
売り上げランキング: 2086
おすすめ度の平均: 4.0
5 幻想・幻覚・妄想交響曲
ミュンシュの熱い演奏
5 異様な熱気溢れる名演
4 幻想交響曲と言えば
まずこの盤でしょう
5 ゴッホの絵を思わせる、
強烈な色彩が渦巻く演奏




不知火検校

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posted by cyberbloom at 16:31 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | JAZZ+ROCK+CLASSIC | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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